22話
あの時は必死だった。
コールドスリープを維持するためには多額の費用が必要だった。
もちろん全部を負担する事はできない。
そこでアイドルという立場を使って全世界へと発信した。
『恋人が不二の病に犯されている。
助けるには未来に特効薬ができて、治療法が確立するしか方法が
ないのです。
そのためには眠らせたまま生命維持を必要としています。
費用は莫大で俺一人ではどうしようもないのです。
皆さん、これが成功したら、大切な人を助ける手助けになると思
うんです。
未来に希望を託せるんです。
どうか協力をお願いします。』
と自信の生声で発信した。
女との報道が多かった怜がいきなり大事な恋人と発表したもんだから
マスコミが一斉に食いついた。
ポットで眠りにつく時の映像が流れ、それが全世界へと発信された。
ただ、いちアイドルだった彼は、眠ったまま有名になった。
今日帰国することもマスコミに取り上げられると空港に人だかりができ
ていた。
「その、エッチな人に会いたい?」
『どうだろう?分からないかな〜きっと何人もの女性といるだろうから…
もう、会いたくないかも』
「それは酷い評価だな?」
『そうでもないよ。そういう人だから。俺を抱くのもただの性処理だし…』
書いている途中で紙ごと引ったくった。
「そんな事はないよ。愛しているのは君だけだよ…涼。」
「…」
何か言いたげだったが聞こうともしなかった。
日本に着くと涼の手を握り締めると引っ張っていく。
すごい数のマスコミの間を抜けて帽子を深めに被ったままタクシーへと乗り
込んだ。
「早く出して!行き先は…まで」
聞き覚えのあるマンションだった。
怜と一緒に暮らしていたマンション。
今は老朽化も進んでいたがまだあった。
到着すると中から話声が聞こえてきていた。
キッチンのドアを開けるとそこにはかつてのメンバーの面影だけが残る人が待っ
ていたのだ。
「涼…本当に涼なんだな…春って言えば分かるか?」
「…?」
「声帯が…すまない。紙ここに、これでいいかな?」
春の声だった。
でも、見た目がすごく変わっていた。
「涼はあの時のままなんだな〜、俺さぁー今年で40なんだぜ?驚きだろ?」
にこやかに笑うのは昔の聖そのものだった。
真面目そうな顔で近づきいきなり抱きしめてきたのは樹?の面影があった。
「本当によかった…あの時、死んだものと思っていたから、こうやって会え
るとは思いもしなかった。もう、20年も経ったとは思えないだろ?」
「…!?」
驚いて振り返る涼に怜は頷いた。
『じゃー怜さんは…怜なの?』
ずっとアメリカで研究を続けたと言っていた。
それは自分の為?
『俺の為だって自惚れてもいいの?』
「あぁ、もう一度会いたかった…あの日涼を死なせたと思った時、いても
経ってもいられなかったんだ」
「こいつ恋人を助けたいから、って寄付を募ったんだぜ?」
「…」
「涼の事、全世界が知っちまったんだよ。世界で初めてのコースドスリープ
の成功者だってな!」
初めて知らせれた事実だった。
20年も経っていた事も、一番近くにいた人間が怜であった事も。
涼の肉体年齢はあの時のまま24歳で止まっていた事にも驚かされた。
「本当は声帯も治せるなら治したかったんだ。また、涼の声が聞きたい…」
ボソッと漏らしたのは怜の本音だった。
涼自身が傷つけてしまった傷は治す事はできなかった。
せめてもっと早く治療できていれば、もし海水に浸かってなければ…。
色々と指摘はされたが、治る見込みはないと判断されたのだった。
「デモテープの涼の声…俺好きだったな〜」
聖は自分達の歌を先にデモテープで歌ってくれてた物をいつも借りてコピー
していた。
それを流すと、かつての涼の声が流れてくる。
荒々しい怜の声と違って聞きやすい声だった。
いつもは怜の声に重ねるように包み込むようなハモリが綺麗で、目立つ事はな
いが、こうして涼だけの声を聞くと、それだけで癒される気がする。
「こんな声だったんだよな…」
「あぁ、一人でさ…ソロで歌った方が綺麗な声だよな?」
「あの社長がそんな事する訳ないじゃん?」
「確かにな〜」
春の評価に怜が頷く。
樹はそのままこっちを聞いていた方がいいんじゃないか?とまで言い出した。
「早くあそこの事務所出てたらこんな事にはならなかったかな?」
聖は解散と言われて全員で辞めると4人で他の事務所に移動したのだ。




