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スキャンダルアイドル  作者: 秋元智也
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21話

もう少し…もっと奥へ行けば終われる。

最後に妹は元気でやってるかな?


春には何も言わないままだったからきっと怒るよね?

それでも、言ったら絶対に止めにくるから言えなかった。


波が押し寄せて来ると肩まで浸かった状態ではバランスも取れなかった。

戻る引き潮に飲まれるようにして涼の身体は消えて行った。


涼は泳げない。

だから海は苦手だった。

撮影の時も極力入りたくないと拒否していたっけ?


思い出すのはメンバーとの思い出だけだった。


息が苦しい…このまま消えてなくなれたらいいのに…。

意識が消えていく前に何かに引き寄せられた気がした。

温かい温もりを感じてそのまま海に沈んでいくような感じがしていったのだった。



怜は車を飛ばすと海辺へと着いていた。

誰も人がいないせいですぐに見つけることができた。

砂浜から動かず見ているだけの巽に郷を煮やすと駆け出していた。

波にさらわれ消えていくのを見るとすかさず飛び込んでいた。


首元に血が流れていて、深めに切ったのだと分かる。

涼の身体を抱き締めるとすぐに浮上した。

人を抱えながら泳ぐのは難しかったが、なんとか砂浜へと戻ってきた時には

すでに息をしていなかった。

人工呼吸を試みても何も変わらない。


医者を呼びつけたがもう、間に合わないだろう。


ここからは市場が近い。

怜は急いで涼を車に乗せると向かった。

こんな事して大丈夫な試しなどないけど、このまま冷たくなったまま無くすより

はましな気がした。

ありったけの氷を集めるとその中に涼を沈めた。


その日から涼のスマホは使われる事はなくなった。

春からの心配するようなLINEも本人には届かない。




20年の歳月が流れ、世間もだいぶ様変わりした。

ジェニスというアイドルグループはもう引退して今はバラバラになっている。

20年前のあの日、怜がいきなり退会し姿を消した。


あとは解散までは早かった。

お互いギクシャクしてもう、続けられなくなった。


医学も進んで病気にもいろいろな特効薬が開発された。


あのあとアメリカの発表で一人の人間をコールドスリープさせる技術が発表

された。


金持ちの道楽と言われ、一人の人間が抜擢された。

若いまま時間を止める。


もし、もっと医療が発展したら起こそう。

そう言って眠りについた。


20年の歳月が経った今、彼を起こす事に賛同の声が上がった。

彼の病気を治す治療法も確立され、ちゃんと目覚めることができれば実験は

成功といえる。


一種の賭けだった。

もし、そのまま眠ったままかもしれないというリスクを孕んでもいる。


怜はその研究グループの一人としてアメリカへ渡っていたのだ。

財力を使って彼を助けたかった。

ただ一人の恋人を助けたいとネットで呼びかけ、支援金を集めた。


もう、40歳にもなって、今も彼を愛している。

彼はまだ24歳のままだ。


年が逆転してしまったが、それは気にしない。

イケメンは変わらないからと自分に言い聞かせた。


ゆっくりと開いていくのを眺めると圧縮していた中の気圧が正常値まで

落ちる。


外のカプセルは開ききると、もう一個小さめのカプセルがゆっくりと開

いていく。

開いても目を覚まさない。

眠っているようにしか見えないがのが余計に不安を煽る。


「やっぱりだめなのか…涼…」


指がかすかに揺れると瞼が震えた。

ゆっくりと目が開くと、周りが明るいせいか見えていないようだった。

全裸のままなので簡易的な衣服をつけさせると経過観察ということでカメラ

が設置された部屋へと移された。

ガラス越しに怜が見つめるが、興味がないのか見向きもしない。


「涼…俺だ…怜だよ、分かるか?」


声をかけ続けた。

そのうち、ガラス越しに見つけて来るようになった。

観察と同時に治療も始まった。

完全に治るまではこの部屋からは出れない。


一年という速さで回復すると完全に病気も完治させる事に成功した。

実験は成功と判断された。


「もうすぐ日本だぞ?」

「…」


頷くと怜を見つめ返してくる。

あの時、喉の声帯を傷つけてしまっていたらしく、そこに塩水が入り込み、

完全に声を失ってしまった。

こうして命だけは繋ぎ止めれた事が怜には唯一の救いだった。


あのあと、すぐにアメリカ行きを決め飛び立った。

実験の為のコールドスリープする人間を探していたところにすぐに飛びつい

たのだった。

もう死んでいるのでは?とも言われたが、怜は断固として否定した。


コールドスリープが溶けても、生き返るとは限らない。

それでもいいと言い張って実験に加担したのだ。


長かった。そう思える。

隣にいる涼の体温を感じながら抱き締める。


あの時の記憶はないみたいで、どうしてここにいるのか戸惑っていた。


それでも、病気の事は覚えていたらしく治療を受けてくれた。

治ったと分かると嬉そうにしていた。


「もうすぐ日本だよ。久しぶりでしょ?結構変わってて驚くよ?」


いつも怜とは筆談で会話をしていた。

涼にとって唯一の話相手だった。


「不安か?」

『違う…怜さんって俺の知ってる人に似てる気がして…』

「それは俺みたいなイケメンか?」

『違う…かな?すっごくエッチな人…』

「なんだそれ?涼はその人にエッチな事されたのか?」

『…どうだろう?怜さんより若いよ?』


涼の言葉は間違っているが合っていた。

あの時は若かった。

涼にコールドスリープの事は話していない。

一年間の治療したとだけ伝えたのだ。



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