15話
前を歩いていく涼の後ろ姿を見ながら春は駆け出していた。
「涼っ!」
振り返ると視線が合う。
そうだ、俺は…この人が…。
「涼、借りなら俺が一緒に返してやる、だから一緒に来いよ」
「春…どうして?」
「俺は涼が好きなんだ。親友としてじゃない…一人の人間として愛してる。」
「…っ。」
辛そうな視線を向けてくるが、やめる気はない。
今言わないともう、二度と言えない気がした。
「俺の側にいてくれ。頼りないかもしれないが、俺が涼の事を…」
「ごめん…なさい。」
一瞬頭の中が真っ白になった気がした。
どうして…?
「春が好きだって言ってくれるのはすっごく嬉しい。嬉しいけど…俺は
そんな出来た人間じゃないんだよ?裏切ったり汚い事もするよ?きっ
っと春が知ったら軽蔑するような事だって…」
「そんな訳ない。俺はずっと涼を見てきたんだ。ずっとそばで…」
「それは俺が演じてた涼の姿でしょ?春には嫌われたくなかったから…
だから、俺の事…嫌いにならないで。それだけでもう十分だから…」
抱きしめた細い背中を感じながら腕の力がぬけていく。
手の中から溢れ落ちるように抜け出すと歩いて行ってしまう。
それを後ろから掻っ攫うように怜が涼の背中を抱き寄せるとそのまま自分
のマンションへと連れて行ってしまう。
俯く仕草が感情を押し殺しているようで辛かった。
「なんでだよ…なんでそいつなんだよ…」
春の声は涼達にも聞こえていたが振り返りもしなかった。
部屋に着くと荷物を置いてからキッチンへ向かった。
インスタントを用意するとお湯を沸かす。
「ついでに風呂も沸かすか?」
「どうしてあんな事言ったの?しかもみんなの前で…」
「話がある。ちゃんと聞いてくれ」
「俺の話は聞かないのに…?自分のは聞けって?勝手過ぎるだろ?ジェニス
辞めないって言ったのに…俺を脅して置いて、今度は何を差し出せって言
うんだよっ!俺にはこの身一つしかない。それ以外に何を…?」
「向こうで発作が起きただろ?病院で何度も検査したよな?涼、聞いてくれ
お前の病気について…」
病気?
何を言っているのか分からなくなっていく。
それってどういう事?
怜が淡々と話していく内容がついていけない。
発作の回数が増えていくと死ぬ?
治らない?治療法はないって…そんなのあんまりだ。
やっと努力が認められて、認知度も上がってきたのに…
こんなところで終わりにするなんて。
「じゃ〜必死に怜を引き止めようとしたのは…?抱かれてでも、俺…引き止め
ようって思って…まだまだこのグループでやって行きたかっただけなのに?」
「だから…それは…」
「全部無駄なの?もう…俺、死ぬの?」
目の前が暗くなっていく。
あぁ、もう家族やグループの事や、周りに気を使って…そんな心配なんてしなく
ていいんだ。
「俺のやってきた事って…無駄なの?」
「無駄じゃない…俺はずっと涼の事…」
「軽蔑してたの?」
「…!?」
「そうだよね?脅されて簡単に股開いて、男とセックスするような奴だもんね
そんな俺はただの性処理でしか使えないよね?もういいでしょ?こんな死に
かけのポンコツなんて捨ててしまえば?」
「捨てない…涼をずっと手に入れたかった。だからいつも気をひくような事を
してきたけど、もうどうでもいい。側にいてくれれば…」
抱きしめられると心が冷えていく。
これも…どうせ心からじゃない。
ただ玩具が欲しかっただけの言葉に過ぎない…と。
「なら今から抱く?借金は返してくれたんでしょ?俺にはこれしかないから…」
「あぁ、涼がいいなら」
何を今更な事を…?
散々抱いていたくせに…。
「汗かいたし、シャワー浴びてからにする?」
「いや…いい。このままで…涼の匂いがするから…」
上着を脱ぎ、ズボンも自分で脱ぎ捨てた。
キッチンでは始めてだったが机に寝かされると固い木の感触が気持ちよかった。
ちゃんと勃起している。
毎回思うが、怜は誰にでも勃つんだなと感心する。
涼が女に勃たなかったのとは大違いだった。
怜の顔は真剣でいつも獣みたいに本能を剥き出しにしていた。
誰にでもこんな顔をするのかな?
「余裕そうだな?」
声とは裏腹に今にもかぶりつきたそうな目が印象的だ。
いっそかぶりついて引きちぎってくれればいいのに…。
そうして…死んでしまえば怜の一部になれるのに…。
こんな苦しい思いをずっと抱えていかなければならないなんて…拷問でしか
ない。
この想い事、無くなってしまえれたらいいのに…。




