11話
寝る時はやっとカメラから解放される。
温泉シーンは最初だけ撮るとあとはスタッフも自由に入る。
皆で入るとどうしても涼の身体に視線がいく。
「やっぱり痩せすぎだぞ?」
「最近ずっと横になってたから、運動不足で食欲ないんだよね〜」
「なら、運動しておやつ食べようぜ〜」
「それは聖が食べたいだけだろ?」
「バレたか!」
一緒になって笑う。
最近では作り笑いが減った気がする。
ちゃんと心から笑えている。
「涼…ちょっと触ってもいいか?」
「春?えっ…なっ…ちょっとぉ〜くすぐったいよ〜」
背中、脇となぞって行くと本当にくすぐったそうに笑う。
本当に細い、細すぎる。
簡単に持ち上げられそうだ…。
好奇心から背中に手を回すと膝の下にもう片方の手を入れた。
「へっ…はるぅ!…やっ待って!」
湯の中で触れると一気に持ち上げた。
お暇様抱っこをすると簡単に持ち上がった。
これは腕の力が結構いるので、大人の男を持ち上げるのは無理かと
思ったが案外持ち上がってしまった。
「やっぱり軽すぎないか?」
そこで疑問が残る。
スレンダーではあったが、ここまで軽くはなかった筈だ。
「もう、下ろしてよ〜」
「本当に退院したんだよな?」
「うん、もう大丈夫だって。あとは何回か検査に来いって。退院
する前にも検査ばっかりさせられたんだよね〜。なんか神経質
過ぎるよね?」
何か違和感がある。
あの怜が今日はやけにおとなしすぎる事もだ。
そして、電車の時も嫌がりながらも、わざわざ聖に付き合った事だった。
これは何かがあるとしか思えなかった。
こう言う時の勘は、大体が当たる。
今回ばっかりは当たって欲しくはなかった。
部屋に帰ると夕食をいっぱい食べたせいかうとうととしていた。
「涼はこのまま寝るか?」
「ん〜、大丈夫。どこか行くの?」
「下の卓球場へ行こうかと思って…」
「あ!俺も行こっかな〜」
眠そうだが、付き合うと言い出すと聞かない。
一緒に下へ降りると聖と樹も来ていた。
「おっ、きたな!大戦やろうぜ〜」
「うん、春一緒にやろ!」
「そうだな…だが、お前ら手加減しろよ?涼は病み上がりなんだからな!」
「なら、春を狙うまでだぁぁー!」
聖が元気よく玉を打ち出した。
ダブルスだが、涼は結構得意だったりする。
すぐに聖の玉は涼に弾き返されコートをバウンドして壁へと当たった。
「嘘っ…」
「やった〜俺らの勝ち!」
「調子にのんなよーーー!次こそは!」
そう言って何度もやるが全部涼によって弾き返されてしまった。
たまに緩い玉が行くと春が返して行く。
「マジかよ…」
「まじまじ。ちょっと疲れたから飲み物買ってくる〜」
「俺も一緒に…」
「大丈夫だって〜、心配症すぎ〜」
春がついて行こうとするのを涼が止めた。
軽く手を振って出て行く。
負けて悔しそうに聖がラケットを置いた。
「くっそぉ〜何が病み上がりだよ〜しかも片腕しか使えね〜はずなのに…」
「それはお前が弱いだけだ。」
樹の言葉が余計に聖を惨めにする。
飲み物を買い、戻ろうとすると、女性に囲まれながら怜が歩いてくるの
が見えた。すぐに自販機の陰に隠れると様子を伺った。
(こんなところまで来て…見たくなかったな〜)
女性にキスされて満更じゃない顔をしている。
今からどーするんだろう?
やっぱり…一緒に寝るのかな?
「嫌だな…こんな事思ったら行けないんだろうけど…ぐっ…あれ何で?」
胸が締め付けるように痛い。
こんな事初めてだった。
ダンスの練習中に少し苦しくなることはよくあった。
でも、ここまでではなかった気がする。
ジュースが床に落ちると目の前がぐらつく。
息が苦しい…暗くなる視界の中に、遠くで怜の声が聞こえた気がした。




