7話
顔は腫れて真っ青になっていたし、あざだらけなのは身体もだった。
点滴と心電図らしき機械が何個も付けられていて、胸元が開いていたがそこ
にもあざがあった。
布団を捲ると上半身だけじゃなく足にもいくつものあざが点在している。
「何でだよ?何があったんだよ…あいつ、だよな?あいつが涼を…」
「落ち着け。まずは無事だった事に…」
「無事ならいいのかよ!」
樹の言葉に聖が重ねて怒鳴った。
「無事?…そんなんじゃない…最初見た時は…冷たくて。もう、死んじゃうん
じゃないかって…そう思ったら俺…俺は…」
春が絞り出しように言うと、二人は言葉を失った。
一番ショックを受けているのは春なのだから。
涼のことを一番近くで見てきた分、ショックは大きいだろう。
そっと部屋を出ると聖は怜を呼ぶと休憩室までいく。
「これはどう言うことだよ?お前知ってんだろ?全部話せよ!」
「ふんっ、血が登ったやつに話せるかよ。頭が覚めたら聴きにこい」
それだけ言うと帰っていく。
春はベッドの横に座ると涼の手を握った。
「温かい…温かいんだよな?ちゃんと目を覚ましてくれるんだよな?」
祈るように握りしめるとベッドに突っ伏した。
その日は泊まると言って聞かなかったようだった。
次の日になっても、一向に目覚める事はなかった。
怜は医者から別の話で呼び出されていた。
「それは本当なのか?」
「ちゃんとした大きな病院で調べてみないことにはハッキリした事は言え
ないが、その可能性を考えておかないと…」
「それはもし目が覚めても本人には言うな。俺から言う。」
「毎日ずっと付きっきりで見舞いに来ている子には…」
「話す必要はない。俺だけが知ってればいい。」
こんな事は春には話さないでくれと口止めした。
そのうちに、涼の主演ドラマが始まった。
本当ならテレビに番宣の為に呼ばれるはずのところを涼意外のメンバーが
番宣の為にいろんな番組へと出た。
その間、涼の姿を見た人は誰一人としていなかった。
ダンスイベントでの傷害事件の後は姿を見せなくなったと噂がたつと、その
まま亡くなったとか、後遺症が出てアイドルを辞めたなどの噂も囁かれた。
その頃にはご無沙汰だった怜の女遊びも派手になってきた。
週刊誌では毎日のように、別の女との密会写真を載せられたのだった。
「おい、いい加減にしろよ!涼がいないからって、手当たり次第かよ?」
「あいつとは関係ないだろ?溜まったら抜くだろ?それだけだ。」
春といえば、最近疲れているのか顔色が悪い。
「春もちゃんと健康管理しろよ?倒れちまったらどうすんだよ!」
「大丈夫だ。もうすぐ、涼が目を覚ますと思うんだ。だから…」
ドラマも佳境を迎え、最終回を迎えた頃には涼の人気も上がってきた。
グッズなども飛ぶように売れた。
しかし、当の本人が姿を見せないので死亡説が濃厚とされた。
そんな折に病院へと見舞いに行っていた春からメンバー全員に連絡が入った。
目覚めた…と。
医師の診断を受けていて、春はいったん廊下へと追い出された。
診察を終えて未だにあざだらけで、顔を腫らしたままの痛々しい涼がベッド
から身体を起こして窓の外を眺めていた。
「涼…ごめん…涼を一人で行かせたばっかりにこんな事に…」
「…」
「痛いか?身体はどう?動かせるか?」
「…」
先生の見立てでは片腕は骨折していてその他は打撲程度だと言っていた。
それでも、一ヶ月経ったのに、あざは未だに残っている。
「何かいるか?飲み物でも買ってこようか?りょう…」
口を開くと何かを言いかけていたが、後ろのドアが開いて聴きそびれて
しまった。
聖と樹が見舞いに来たのだ。
「春、よかったな?涼が目を覚まして一番喜んだのはこいつなんだぞ?」
「涼…痛くねーか?せっかくの綺麗な顔が台無しだな?早く治って戻って
来てくれよ〜怜のやつがさ〜大変でさ〜!」
「聖、ちょっと待った。涼…俺の事が分かるか?」
話している最中にいきなり樹が遮った。
声のする方へと見るがすぐにどこか別に方をみている。
涼なら話している人の目を見て話すはずだった。
違和感はいくつかあった。
話していても一度も名前を呼んでいない事。
そして一度も涼の声を聞いていない事だった。
「涼…聞こえているなら返事をしてほしい」
「…」
「まさかと思うが…復帰は無理なのか…」
樹の言おうとした事を一瞬で理解した。
これでは踊りや歌は無理だ。
それにお芝居もきっと…。
今だけの一過性のものならまだいい。しかしずっととなると、グループの
解散にも関わって来る事だった。
頬をそっと触れるとビクっと反応した。
春は目一杯近くまで寄ると呼びかけた。
「涼…俺だよ、春だよ。聞こえるか?」
何か話そうとしているのか口が動く。
ハ……ル…ハ…ル?…ハル。
小さいがちゃんと聞こえる。
「そう、春だよ。涼…おかえり。」
そっと抱きしめると極力、力を入れないようにそっと寝かせた。
まだ目覚めたばかりで身体も上手く動かせない。
それでも、少しでも話せて嬉しかった。




