3話
睨みつけられているようだった。
「いいよな〜アイドル様はさ〜、もう優勝決まってるんだろ?」
耳に届くのは僻みの声だった。
こんなの無視すればいい。
相手にするだけ無駄なのだ。
だが、聖にとってはそれはできなかったらしい。
「おい、今言ったの誰だよ!言いたい事があるならはっきりと出てきて
言えよ!」
声を荒げると全員の視線がこっちに向いた。
「聖、やめて。早く行こう?」
涼が促すが、周りがそれを許さなかった。
「聞いてるぜ?裏取引したんだってな?汚い奴らだぜ!これだからアイ
ドルってやつは…」
「審査員を籠絡させたって聞いたぜ?一体誰がしたんだ?」
「ろうらく?なんだそれ?」
聖は振り向くとメンバーに意味を聞く。
耳打ちするように涼が教えると真っ赤になって反論する。
「バッカじゃねーの!そんな事すっかよ!」
「そんな言葉知らないなんてな?よくこの前のクイズ答えられたな?やっ
ぱりズルしてたんじゃねーか!」
周りから笑いが飛ぶ。
この前のは全部涼が教えてくれた事だったから何も言い訳できない。
それでも、涼を侮辱された気がして我慢できなかった。
「喧嘩売っといてお前ら最低だな〜。ダンスで負けたからってそうやって
寄って集って虐めようなんて最低だって言ってんだ!クズじゃん!」
「もういいから…聖行こう!」
樹も涼もこのままここにいるのが不安で、すぐに聖を引きずるように歩き
出す。
それでもやめない聖は叫び続けた。
負けん気の強い性格のせいでいつも怜と言い合いになるが、今日は怜が珍
しいほどに静かだった。
そして一瞬の出来事だった。
聖の目の前に駆け出した男が何かを振り翳していたのだ。
次の瞬間…。
ガツーン!
大きな重いものが当たる音がして床に倒れ込む人影があった。
引きずられるように引っ張られている聖の前に飛び出した涼は床に倒れた
まま動かないでいた。
床に赤い色が広がりだす。
「えっ…りょ…う…」
尻餅を付いたまま身体が動かなかった。
樹が掴みかかると警備員が来た。
春が駆け寄ると抱き起こそうとして止められた。
怜が急いで救急車を呼ぶと病院へと運ばれていく。
生放送など行く状況では無くなってしまった。
頭を強く打ったせいもあって、数針縫う手術になった。
意識はまだ戻らない。
テレビではジェニスリーダーの傷害事件として犯人の男が逮捕され送検さ
れた。
「涼…どうなるんだろう?俺のせいだよな?」
聖が落ち込むと樹がそばで慰めるように背中をさすってやる。
「大丈夫だって。涼ならすぐに元気になるから…。今は俺らにできる事を
やろう」
ダンスイベントは通常通りに行われた。
時間は押していたが、ジェニスも参加した。
一人欠員という形での参加だった。
もちろん上位に食い込む事も出来ず、無様な姿を晒して幕が降りた。
「これじゃ〜涼に顔向けできねーじゃん。俺最低だよ。」
泣きだす聖を宥めるように声をかけるが、何を言っても今はダメだろう。
ドラマの撮影にも影響した。
涼のシーンだけ後撮りとなった。
予定ギリギリというところで目を覚ました。
激しい運動は禁止されたが、ドラマ撮影だけはと願い出て、了承されると
現場へと復帰した。
「涼さん、傷大丈夫なんですか?」
「あぁ、髪で隠れるし平気だよ。心配かけてすまなかった」
いつのまにか女優と仲良くなったらしい巽は最近雑誌にも撮られていた。
「最近仲がいいんだな?撮影仲間としては雰囲気がいいのはいい事だね」
「俺は涼さんとも、親密になりたいです」
冗談のつもりなのか、いつもの巽に苦笑いを浮かべると手を伸ばして触れる。
「俺もだよ。巽くん!」
「本当ですかぁ〜嬉しいです!」
可愛い弟みたいな感じに思えた。最後の方のシーンは車椅子を上手く使って
全部を取り終えるとやっと終わったのだと実感した。
最後のシーンを終えて花束を貰うと感動で少し涙が溢れてきた。
「泣いてるんですか?」
「泣いてない。少し…感動しちゃって…こんな大役をやらせてもらえて…凄く
感謝してるんです。それに俺のせいで撮影もおしてしまったし…」
「それは君のせいではないよ!」
松島プロデューサーと監督が来ると、涼を励ましてくれた。
それだけで、凄く嬉しかった。
「本当にありがとうございます」
「よくやってくれたよ。お疲れ様」
「また是非にも共演したいくらいだよ」
監督も満足な出来栄えに喜んでくれた。
「完成お披露目会が一週間後にあるからメンバー全員で来るといい。」
「はい、是非にも伺います」
荷物をまとめて帰ろうとすると怜の姿があった。
「どうしてここに?」
「やぁ、兄さんお祝いにきたの?」
「お前じゃねーよ。帰るぞ…涼。」
「兄さん待ってよ!この後食事でもどう?涼さんも一緒に!」
巽は怜に慣れなれしく話すし、兄さんとは?
疑問に思うと怜は機嫌が悪かったのか巽の手を振り払うと涼を無理矢理
引っ張るように連れていく。
「兄さんって?兄弟だったの?」
「煩い…今から犯されるのと、食事してから犯されるのとどっちがいい
か選べ。」
「…それは俺に権利あるの?好きにすればいいよ。」
「チッ…」
怜は舌打ちをすると高級そうな店に入った。
勝手に注文されるのでメニューすら見ない。
言われるがままに食事をするとホテルへとなだれ込んだ。




