28話
撮影現場では毎日遅くまで撮影が行われていた。
今日は濡れ場とあって、女優さんの顔がこわばっていた。
「おはよう!大丈夫?」
「あ!涼さん!えーっと、はい!」
「そんなに毛負わなくていいよ。」
「あのっ、ちょっと待って下さい!お話が…」
「なに?俺の分かること?」
力強く頷くと非常階段の方に引っ張っていく。
「あの…私、私、経験ないんです!」
「えっ…ってそれ俺に言っていいの?」
「だって…ジャニスのリーダーって言ってたし、そういう事も豊富なのかなって…
だから私…貴方に…」
「待って!何が言いたいかは聞かない。俺もこの歳でまだ童貞だし。それって演技
とは関係ないと思うよ?漫画とかドラマでのシーンを思い出して感覚でいけばい
いと俺は思ってるよ」
にっこりと笑うと肩をポンっと叩いた。
女優の子が立ち去ろうとする涼の袖を掴んだ。
振り向くとその瞬間目の前に女優の顔がアップになる。
唇に温かいものが当たると、非常階段のドアが開いて巽が入ってきていた。
二人の唇が重なった瞬間を目撃したせいか気まずそうに頭を掻くと、女優は慌てた
ように出て行ってしまった。
「いい感じでした?すいません、邪魔しちゃいました?」
「いや…そんな事はないよ。俺にはそんな資格ないから…」
「話題性にもなるし、いっそ付き合っちゃったり?」
冗談でいう巽に涼はにっこりと作り笑いを浮かべると、はっきりとした口調で
答えた。
「絶対にないよ」
そう、毎日怜に抱かれている自分が女性と付き合うなんて許されるはずもない。
怜になんて言えばいい?
もう涼の身体は抱く方より、抱かれる快感を覚えきってしまっている。
いつも休みの前だけ、奥深く入れられるのが楽しみになってしまっているのだ。
もう、普通の男には戻れない。
巽は女優の視線がいつも涼を見ているのが気に食わなかった。
女優にはできない事をしようと思うとおもむろに撮影中の休憩時涼の前まで来ると
肩を抱き寄せた。
「涼さんってあったかいですよね〜、抱き枕として一緒に寝たいくらいです〜」
「巽くんは甘えん坊だな〜」
振り払いもしない涼に巽は少し安堵して女優に向かってにっこりと笑って見せる。
男同士なら堂々とできるけど女優にはできないだろう?というように見せびらかす。
「涼さん、私手相を観れるんですよー。結婚運とか出会いって手に出るんですよ〜
見てあげましょうか?」
「巽くん、見てもらったら?」
「そうっすね!お願いします。」
悔しそうな顔で巽を睨む。
「なんかもう出会いの機会なくなってますね〜、少し前に出会った人が最後なんじゃ
ないですかぁ〜」
ぶっきらぼうに答えると話を戻そうとする。
「今度は涼さん、いかがですか?」
「ヘー、なら最近あったのって涼さんだし、俺の運命の人かもですね〜」
「あの〜」
「巽くんは冗談が上手いな〜」
涼は巽の言葉を冗談と受け取ったのかつい子供を扱うように頭を撫でた。
「あ、ごめん。」
大の大人にこれはダメだったか?と思うと引っ込めようとした腕を掴まれた。
「撫でられるの好きです。もっと触れて欲しいくらいです。」
涼の手を両手で包むと頬に添えた。
俳優がやると絵になるな〜と感心したように見ていた。
「巽くんはやっぱり可愛いな〜、若い子っていいよね!」
女優さんの顔が歪むと笑い出した。
巽の必死のアタックも全部受け流されてしまったからだ。
自分も振り向いてもらえないが、こんなにあからさまにしてもダメだとは…。
これは、ストレートに口に出さないと伝わらないタイプなのだろう。
わざと胸を押しつけたりしてが、全く手応えがないはずだと納得したのだった。
濡れ場のシーンはベッドに押し倒すところから始まった。
彼女なのだから怖がってちゃおかしい訳で、何度も撮り直しをした。
押し倒されるとどうしても逃げ腰になってしまう。
これは治しようもなかった。
「ねぇ、倒れるシーンで目を瞑ってみて?落ち着くまで閉じてていいから。
セリフがはじまってからは俺だけ見てて?出来る?」
「はい…私のせいでごめんなさい」
「謝らなくていいよ。俺を信じて?」
「…はい。」
何度目かのやり直しで倒される瞬間目を瞑った。
暗くて何も分からなかったが、声が聞こえると目を開くと涼だけを見た。
それまでは上半身裸の涼を見ていたのだが、今はただ、涼だけを見つめると
さっきまでの緊張が緩んで自然とセリフが言えた。
腕を伸ばすと抱きしめる。
「私…本当にこの人の事が」
「ごめん…もう僕達別れよう…君にはきっといい人がいる。その人と幸せに
なって欲しい…」
「いやっ…どうしてそんな事いうの?私の気持ちはどうなるの?」
「本当に…ごめん…」
抱き合ったまま暗転する。
「はい、カットォーー!」
監督の声が響いた。
「よく頑張ったね、お疲れ様」
腕を出すと起き上がらせた。
涼は本当に紳士だった。
ドラマの中だけじゃない、現実でも…。
終盤に差し掛かると二日間の休みをもらえた。
「明日の休みどうしますか?涼さん、俺と出かけませんか?」
「すまない、明日は他の番組に出演予定なんだ。」
「あぁ、ジェニスの活動ですか?」
「あぁ、そうだ。ドラマで付き切りだったからもうすぐあるダンスイベント
の事もあるしな。すまない、今度埋め合わせするよ」
「はい、是非とも」
帰っていく姿を見送ると巽は振り返った。
女優の視線を一身に浴びながら通り過ぎ様声をかけた。
「あんたさ〜涼さんと付き合おうなんて思ってねーよな?」
「それは男の貴方には言われたくないわ。彼ってどう見てもノーマルでしょ?
まさか巽晋吾がゲイだったなんて知らなかったわ」
「何?そんなに知りたいの?ならベッドいく?抱くのは男だけじゃないんだ
よね〜」
「最低…」
「怖いの?そういえばベッドシーンですっごい緊張してたもんな〜、処女だっ
たりした?」
カッと睨みつけると巽は笑いながら腕を掴むと今は使われていない倉庫へと消
えていった。




