64章
要=テタルトはギガスが地中に姿を消してから、数分間じっとレーザーライフルを持ち、再び先程のギガスが姿を現さないかと待ち構えていたが、一向にその気配がなかった。
「カナメ、そろそろ此方も光速飛行から着陸準備に入るわ。戻る準備をして」
「…オーケー」
要=テタルトは不服そうな目付きで尚も噴煙を吐き続けるポポカテペトル山を見た。そして舌打ちすると北に向けて飛び立った。
テタルトが気流に乗っても、要は先程のギガスへの警戒心を拭い去る事が出来なかった。そのせいか、要=テタルトは飛びながらも何度も地上に視線を落とした。
「カナメ、別にもう少し高度を上げても問題ないわよ」
「ああ」
ユリアに言われても要は低空飛行し続けた。どうしてもギガスの行方が気になっていたのだった。
「アサナギ。あのギガス、もう一度出て来ると思う?」
「どうだろう。あのギガスが地下コロニーを攻撃していないか心配だわ」
スイの何気ない答えに要はハッとなった。
「それだ!ユリア!メキシコエリアで地震が発生した直近の記録はないか?」
要は早口で依頼した。
「あるわよ。火山の噴火の影響と思われるものが今も頻発してる…待って、火山から離れた地点でも立て続けに起きてるわ。しかも震源地が大陸沿いに北上してる」
「地震が起きた震源の距離と時間の間隔から、次に発生する場所の予測を出せるか?俺は寄り道する」
「…いいわ。キャプテン、本部のラボにコンタクト取って下さい。あとチーム5からローレンを呼び出してもらって」
要=テタルトはネオ・ムセイオンに戻る経路を逸れて、150年位前に建設された巨大な風力発電所跡地の上空迄やって来た。全ての風車は人々がコロニーへ拠点を移して以来、メンテナンスされる事もなく錆び付き、そして重なる様に倒れてしまっていた。
テタルトは地上に降り、倒れた風車、その柱の1本を前にすると、おもむろに両手で抱え込んだ。テタルトの身長よりも高く、風化して脆くなった鉄の棒はびくともしなかった。
その時、要の耳にあの不気味な女の笑い声が聞こえた。
「…タラッサ。そこにいるなら俺に力を貸せ!」
だがテタルトの中の人格は、要を嘲笑うかの様に表に出て来なかった。
「タラッサ!聞こえてるんだろ?」
要の呼びかけに、タラッサは再び高笑いした。
「貴様、ミマースと妾は真逆の眷属なるぞ。そんな錆び付いた棒切れで貴様如きに何が出来る」
「うるさい。何も言わずに力を貸せ!」
要は歯を食い縛った。テタルトの足元が乾燥した土埃で滑りそうになる。
「分かった。妾の力を貴様に貸してやってもいい。だが条件がある」
「何だ?条件とは?」
「お前の器を妾によこせ」
「いいだろう。但しあのギガスを退治出来たらだ!」
タラッサは深淵の中でニヤリと笑みを浮かべた。その表情は要には見えなかった。そして要は自分が結んだ契約内容の重大さに気付く事さえなかった。
要=テタルトは再び風車の柱を両腕で抱え込んだ。地面に足がめりめりと食い込む。だが先程迄と違い、上半身に力を入れると、柱は少しずつ持ち上げられた。テタルトは肩で抱える様に柱を持つと、再び空へ飛び立った。
ネオ・ムセイオンのチーム6のラボにはフェイ、チャーリー、ミッコ、ジャックと言った正規メンバーの他に、ローレンとジェシカが訪れていた。ジェシカはいつもの様に研究者達の邪魔にならない所で様子を伺っているのみだったが、ローレンはユリアからの要請で、メキシコエリアで今日起きた地震の分析データから発生予測を急いで算出していた。
程無くしてローレンは一つの結論を導き出した。
「このまま行くと、間違いなく此処でも巨大な地震が起きるわ」
要はローレンの報告内容をユリアから聞き、モニターで次に地震が起きる時間と場所を地図と重ね合わせた。
「次は旧ホルトビル辺りか…」
巨大な鉄柱を抱えながらの飛行は厄介だった。それに速度もぐんと落ちる。
「ユリア、飛行機が降りるポイントをもっと南に変えて欲しい」
「は?何言ってるの?無理よ!」
「次のチャンスを逃したら、ギガスを倒した時の被害がネオ・ムセイオンに及ぶ」
「カナメ、貴方何をするつもりなの?」
「次の地震が起きるタイミングで奴をもう一度地上に引きずり出してやる」
要=テタルトはメキシコとアメリカの国境を越え、旧ホルトビル上空迄たどり着いた。
「29、28、27、26…」
ローレンの推測した次の地震発生予想時刻に向けてのカウントダウンが始まる。
かつての国境の街ホルトビルが存在していた砂漠地帯は、風もなく音もせず、ただ静寂だけが全体を支配していた。むしろ不気味な程、辺りは静まりかえっていた。そこへ上空から自身の体よりも巨大な鉄柱を持ったテタルトが稲妻の様に一直線に降下した。
テタルトの持つ鉄柱は、降下の勢いのまま垂直に地面へと突き刺さった。鉄柱が地面とぶつかった衝撃は、砂の大地にクレーターの様な跡を形成した。それとほぼ同時に円形の衝撃跡の中心から、もうもうと砂埃をあげてギガスが現れた。
「見つけたぞ!」
要=テタルトはロープを取り出した。それはかつてトゥリトがレーザーで倒したギガスの触角から作った代物だった。テタルトはそのロープを鞭の様にしならせ、投げ縄の要領でギガスの頭部を捕らえようと試みた。ギガスも攻撃を察知したのか、平たい黒い巨大な前足でロープを払い避けようとする。そして再び地面へ潜ろうとするが、乾燥した砂地は脆く、穴を掘る傍らから砂が崩れ、作業に難航している様だった。
要はその様子を見逃さなかった。
テタルトは大地に突き刺した鉄柱を引き抜くと、ギガスの行き先に深々と柱を刺して穴をふさいだ。
行く手を阻まれたギガスは別の方へ潜ろうと体の向きを変えた。その僅かな瞬間にテタルトはロープでギガスの腕と体を捕縛する事に成功した。
後ろ足をバタバタさせ、何とか自由を取り戻そうとするギガスを縛り付けると、テタルトはイカロスを機動し、そのまま空へ飛び上がった。
「ギガスを生きたまま捕獲したぞ!」
もがき、暴れるギガスをロープでぶら下げ、要=テタルトは上空を進んだ。その遥か先の北の空に、赤く輝く飛行機の姿が見えた。宇宙空間から大気圏に再突入したユリア達の乗る光速飛行機だった。




