31章
デフテロがネオ・ムセイオンに戻り、スイがカプセルから出て一人チーム6のラボに行くと、既にプロトとトゥリトは帰還しており、ジェシカもニックもネオ・ムセイオン内の仮眠室で寝てるとの事だった。
「お疲れ様、スイ。聞きたい話は沢山あるんだけど、こんな時間だし、貴女も仮眠してきたら?」
ユリアに言われて、スイは今の時刻が深夜3時を過ぎていた事に気が付いた。
「ありがとうございます。明日は実験お休みしてもいいですか?」
「実験もだし、農場の手伝いも休んでいいわ。ドリーさんには私から言っておいたから」
「良かった。このまま仮眠室行ったら、昼過ぎまで眠っちゃいそうで」
「農場に戻ったら、ドリーさんが今日の夕食は皆で食べましょうって。ニックがトゥリトと同調出来たお祝い」
「ほんと、盛大にやらないとですね。私も何か料理するの手伝えたら…」
スイはユリアと会話をしてて、ラボの入り口に誰かが立っているのに気が付いた。ユリアも気が付き声をかける。
「誰?」
一人の少年が恐る恐る顔を覗かせる。スイはその少年の顔に見覚えがあった。スイがネオ・ムセイオンに来て間もない頃、アリッサ・グールドの地下の研究室の水槽の中にいたあの少年だった。ユリアが刺を感じさせる口調で少年に尋ねる。
「君、ここで何をしてるの?」
「スイとセイに会いに来た」
「私に?」
自分とセイの名前が挙がって、スイは少年と初めて会った時の事を思い出した。
「ねえ、貴方前に会った時も、私の事知ってたよね?何故私の事を知ってるの?セイの事も…」
「怖がらせてごめん。どこで知ったのか、僕にも分からない。けれど、君達二人の事はずっと前から知ってたよ」
「君、悪いんだけどスイは15時間近くずっとアバターと同調してて休ませてあげたいの。またにして貰えないかしら?」
ユリアが言うと、それには答えず少年はスイに告げた。
「スイ、アリッサ達がセイを世界連合に引き渡そうとしてる」
「世界連合に?」
「そう。セイが世界連合へ引き渡されれば、君達二人は永遠に離れ離れになってしまうだろう。それを止められるのはスイ、君次第だ」
「私次第?どうすれば止められるの?」
「済まない、僕には止める方法は分からない。スイの力で変えるしかないんだ」
スイがもっと詳しく尋ねようと口を開きかけた所、もう行かなきゃ、と少年はペタペタという足音を響かせてラボを去って行った。
「ユリア、今の話本当?」
「いえ、初耳だわ。実用化も成功していないのに何故世界連合へアバターを、しかもよりによってデフテロを渡すのかしら…」
スイはユリアが答えられずにいるのを見ると、何も言わず、そのままラボの奥へ行った。
「セイ、起きて」
「なあに。私もう眠りたいんだけど」
「今の話聞いた?セイが世界連合に引き渡されちゃうって」
「そう、私を引き渡してどうするつもりかしら。私はスイがいなければ動く事も、自分で自分の脈を打つ事さえも出来ないのに」
「セイがネオ・ムセイオンからいなくなったら私、どうすればいい?」
「スイ、落ち着いて。この後10秒後や1分後に引き渡される訳じゃないし、ギガスとの戦いから戻ってきて今の私達に必要なのは休養よ。眠って、また目覚めたら改めて考えましょう」
セイはそう告げてスリープモードに入った。
重たい気持ちのまま、スイは仮眠室のベッドで横になった。セイと離れ離れになったら、自分の過去を知る手がかりはおろか、自分自身がネオ・ムセイオンにいる理由すらもなくなってしまう。こんな時にセイと同調している時の様に、先の事が見えないのは辛かった。
「スイ、もう寝た?」
隣のベッドにユリアが来たのか、カーテン越しに小声で話しかけてきた。
「たとえ私の母が、ネオ・ムセイオンの理事会が、デフテロを世界連合に引き渡す決定をしたとしても、貴女は自分の進みたい道を行きなさい。チーム6は、私は、スイがここに残りたいのなら、出来る限りここにいられる様に手を尽くすわ。逆にデフテロと一緒に出て行きたいのなら、私達のコネクションを駆使して、貴女の受け入れ先を見つけてあげる。だから何も心配しないで、今は眠りなさい。たくさん寝て、頭がすっきりしたらスイ、貴女の一番の答えを出せばいいのよ 」
スイは無言で瞼を閉じ、一筋の涙を流した。
翌朝アリッサは、地下の自身のラボで、ユリアからのメールにて培養プールの中の少年がチーム6を訪れた事を知った。
「カナメ、昨日夜中に勝手に培養プールから出たの?」
「出ないよ。何故?」
「ユリアから連絡があったわ。また例のデフテロのパートナーに、今度は貴方の方から会いに行ったそうじゃない」
カナメは培養プールの中から上半身だけ外に出て、アリッサの目を見つめて答えた。
「僕は生まれてこのかたずっとこのラボにいて、アリッサ以外の人と会った事もないし、君の娘ユリアの事も、君から聞いた話でしか知らない。それなのにどうやって他のペアリングパートナーの事が分かるというの?」
アリッサはじっとカナメを見つめ返していたが、黙ってコーヒーを一口飲んだ。
「もういいわ。兎に角ユリアがこの話を知ったのならば、隠していても仕方ない。近々本人に通達するしかない」
アリッサはモニターの一つに昨日のギガスと3体のアバターによる戦闘を映し出した。
「カナメ、よく見ておきなさい。間もなく貴方のアバターが地上に出られる様になる。貴方のアバターの活動が上手く行けば、実用化や民間での運用も難しくなくなるだろう」




