表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/96

29章

満月が廃墟を照らす中、スイ&セイ=デフテロはギガスの攻撃を交わしながら、ジェシカ=プロトが少しでもここから遠くへ逃げられる様に時間稼ぎをしていた。満月の光の他、ドローンが遠くから照らす光だけが頼りだった。

ギガスの頭部にある能面も、女面は媼へ、翁面は平太へ変化した。そして触角の動きはそのまま、後部の2本の脚を使って跳躍し始めた。

「気持ち悪い動きをするわね…」

ユリアはモニターからギガスの様子を見て苦し気に呟いた。羽根もないのにびょんびょんと脚力だけで数十キロも跳躍する敵に、まるでゴキブリに対するのと同じ様な嫌悪感を持たずにはいられなかった。

スイ&セイ=デフテロは、飛行装置で上空から攻撃を試みた。だが、伸縮自在な触角がなかなかデフテロをそばに近寄らせなかった。かといって遠くへ離れると砂ぼこりをもうもうと立てて跳躍し、触角が届く範囲まで迫ってきた。

「まったく隙を見せない…!」

触角の動きを懸命に先読みしようとするが、デフテロの動きに合わせて次の触角の動きも変わってしまう。未来が何通りにも分かれて繋がっていることを思い知らされた。

「エド、トゥリトの進み具合は?」

「順調に進んでるが、まだ後4時間位かかるよ」

カプセルの中でニックは、新たに生まれたアバター、トゥリトと同調し、空腹も疲れも忘れてただ生命の成長の流れに心身を委ねていた。鼓動の音だけが心地好く響いている。何だか自分がアノマロカリスかピカイアにでもなって、カンブリア紀の海の中を泳いでいるみたいだ。緊張ばかりが続く日々の中で得られた、久々の安らかな一時だった。

一方ジェシカ=プロトは、ギガスの注意がデフテロと二分されたとは言え、未だ瓦礫の投擲の射程範囲から逃れられなかった。いや、逃げたそばから驚異の跳躍で追い付かれてしまったと云える。

「ほんっと、鬱陶しいったらありゃしない!」

ジェシカ=プロトは投げつけられる瓦礫を、かつての風力発電機の残骸で払い避けつつ、スイに呼びかけた。

「スイ、どうする?」

「私は西に向かって飛ぶ。ジェシカは東に向かって進んで。もしギガスも東に向かって来たら、もう一度こちらから攻撃を仕掛けてみるよ」

「わかった!」

180度反対方向へ進む2体のアバターに、ギガスは動きを止めて2つの能面の顔をそれぞれが進む方向へ向けた。そして一瞬触角をしゅるると縮めたかと思うと、西でも東でもない、北の山に向かって跳躍し始めた。

「逃げて行くの?」

スイは地上に降りてギガスの動きをじっと観察した。ギガスは山の斜面を登ると、そこから一気に廃屋の街中へ跳躍した。高い所からの落下の勢いで、かつての高級住宅街跡地の廃墟や、広大なテーマパークがあった場所のアトラクションだった残骸が粉々に打ち砕かれ、そして四方へ飛び散る。

「やったわね!」

降ってきた瓦礫の破片をとっさの判断で交わしながら、ギガスの着地した場所から出来るだけ距離を取った。

「ジェシカ、大丈夫?」

「まあね。小惑星が降ってきたみたいだったけど」

「ネオ・ムセイオンに戻れそう?」

「このペースだと難しいかしら。それよりはプロトとデフテロで交互にギガスの注意を引き付けて、ニックが攻撃出来るタイミングに合わせて例のレーザーライフル?の射程範囲に連れて行く事に専念してもいいかもね」

「だけどジェシカ、朝からずっと同調しっぱなしでしょ?体力もつ?」

「正直早いとこ終わらせてさっさと家に帰りたいわ。でもこのままあいつを野放しにしておいて、コロニーを襲撃されでもしたらもっと大変でしょ」

「ありがとう。本当は私も自分だけで持ちこたえられるか、不安だったの」

スイ&セイ=デフテロはかぶった砂ぼこりを払い、長剣の柄を握り直した。

「もう一度攻撃を仕掛けてみるわ。せめて脚かあの触角を掴めればいいんだけど…」

その時スイの心の中にセイの声が響いた。

「地下に100年位前まで使われていたケーブルが埋まっているわ」

スイ&セイ=デフテロはギガスの動きに注意しながら、地面の裂け目が出来ている所を探した。ギガスが投げつけてきた瓦礫の落下の衝撃で、ビルが崩落し、地面が陥没した場所を探り当てた。セイの言った通り、かつてこの場所が栄華を極めた時代に、地中に埋められていた電力用のケーブルや水道管の断面が顔を覗かせていた。

「劣化してるけど、手繰り寄せればそこそこの長さがあるはずよ」

セイの言葉に従い、電力用のケーブルの束を地中から引きずり出した。そのケーブルを使って投げ縄を作り、ギガス側面に向かって投げつけてみる。だが、片方の能面がギロッとデフテロの方を向き、触角で軽くあしらわれた。

「さすがに地上からは無理ね…」

スイ&セイ=デフテロは飛行装置を起動し、再び上空へ舞い上がった。ギガスの2つの顔面を睨み付け、顔目掛けて集中的にケーブルを鞭の様に叩きつける。ギガスは前から飛んでくるケーブルに苛立ちを覚えたのか、触角でケーブルを掴んだ。

「かかったわね」

スイ&セイ=デフテロは上空からケーブルを手繰り寄せてギガスの触角の先端を捕らえる事に成功した。触角を掴んだまま、市街地跡の南に広がる海に向かって飛行する。触角が綱引きの縄の様にピンと張ったかと思うと、急に引っ張る力を感じなくなり、重さが消えた様に感じられた。ギガスが跳躍したのだ。デフテロのすぐ目の前まで近づくと、もう片方の触角をデフテロ目掛け伸ばしてきた。咄嗟にもう片方の触角も掴んだものの、バランスを崩して地上に墜落する。それでもデフテロは両手の触角を放さなかった。

「今よ!」

ギガスの背後から、ジェシカ=プロトが現れ、ケーブルの投げ縄でギガスの長い後ろ脚を縛した。離れた所からデフテロとギガスの様子を見守っていたジェシカ=プロトもまた、スイを倣って地中からケーブルを見つけ出し、先端に瓦礫をくくりつけた簡易的なボーラの様なものを作り出していたのだ。

「ニックの出番はいらなかったかしら?」

ジェシカが得意そうに言うそばから、ケーブルはミシミシと音を立てて引きちぎれた。それでも、墜落したスイ&セイ=デフテロが再度体勢を整え直して飛行に入るには十分だった。

「ジャックさん、ニックはまだ?」

「エドによるとあと1時間程で人型形成が完了する。その後トゥリトに簡易装備を付けてる間にニックにレーザーライフルの操作をレクチャーします。1時間ちょっとで射程範囲に入れるかと思います」

「オーケー、スイ。ジェシカ。くれぐれも無茶するなよ」

ジェシカ=プロトとスイ&セイ=デフテロは空中から互いにギガスの注意を引き付けながら、まるで2匹のスズメバチが舞う様に飛行した。ギガスの2つの能面は2体のアバターを凝視し、2本の触角を伸ばし、そして2体のアバターの中間地点まで跳躍すると、そばに落ちていた瓦礫を投げつけてきた。急に方向転換したり、いきなり跳躍したりと、予測不可能な動きをするギガスを、同じ方向へ誘導し続けるのはなかなか骨が折れた。丘陵をかけのぼったかと思うと平地に向かって跳躍したり、風力発電機の風車によじ登っては他の風車に飛び移って結果薙ぎ倒したり、ほぼ満月の光だけを頼りに全体を見るしかないアバターと違い、活発に自由奔放な動きをするギガスに翻弄させられた。

間もなく満月は頂点に達しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ