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23章

チーム5の合同調査とニックとの小競り合いがあった日から2日後、スイはフェイとユリアと一緒に、ニック達のチームのラボを訪れていた。そして何故かジェシカとローレンに加え、チーム5のイアンという研究者も一緒に来ていた。

「ジェシカ、どうしてここに?」

「どうしてって、スイ。貴女達が何をしようとしてるのか私達も知りたいからよ」

見学者達の前に長身の男が来た。

「初めましてアサナギさん。チーム7の責任者のエドだ。色々デフテロの話はレポートでうかがってる」

「初めまして。アサナギ・スイです。今日は見学を許可していただきありがとうございます」

「現時点で我々のアバターは胎芽の状態から先へ進まない状態が5ヵ月続いている。原因はパートナー側にあるのか、アバター側に起因するのか、まるで不明なんだ」

こっちに来てごらん、とエドはスイとジェシカに壁と一体化している望遠鏡の様な覗き口の中を代わりばんこに見せてくれた。

「丸い細胞が見えるかい?これがアバターとなる胎芽だ。人間の赤ん坊の場合は自力でここから更に細胞分裂を重ねて胎児となる。だがアバターは何故か自分の心臓を動かせない。そこで君達パートナーが自分の心音と同調させる事で、アバターは細胞分裂をして成長を進める事が出来るメカニズムだ」

「アバターと同調すると、視界やその他全ての感覚が一体化するのはどうしてですか?」

「胎芽が育っていく途中で、アバターの神経系を構成していく細胞が構成される。この神経系がパートナーの神経系をほぼ模倣して作られていくんだが、アバターとパートナーの脳波が同調する事で初めてアバターとして一個体として活動が出来る様になるんだ。心音と脳波の同調が何故アバターとパートナーとの間での意識の共有に繋がるのか、そのメカニズムについてはまだ研究途中だが、僕個人としてはアバターの一種の危機管理能力が働いているのではないかと思っている」

後ろで聞いていたフェイが口を挟む。

「エドの考えがこれまでの私達ネオ・ムセイオン内の仮説でもあったけれど、それも含めてまだまだ分からない事だらけね」

「そもそも人間の脳のメカニズム自体が全部解明された訳でもないのに、アバターの仕組を解明しろっていうのも無理なんじゃないのかなあ」

ジェシカがつまらなそうに言うと、背後のドアが開き、一人の男性研究者が入ってきた。この前スイがネオ・ムセイオン内でニックと会った時に一緒にいた人だ。

「ニコラスの準備が出来たぞ」

今日も相変わらず無愛想な口調でエドに告げた。

「了解、ジョニー」

エドはラボ内にいた他のスタッフ達に合図し、モニターの画面がいくつか表示された。5つあるモニターのうち、右上のモニターはニックの脳波と心拍数及び体温や血圧等の数値を、右下はアバターの数値を、中央の最も大きいモニターはアバターの様子を先程の壁の中の望遠鏡よりも大きく映し出した。左側の2つのモニターはオフのままだ。

「ニコラス君と胎芽を同調させようとすると、胎芽が15秒から20秒の間隔でけいれんを起こす。生きているのは確かなんだが、どうも先へと進んでくれなくてね…ユリアはどう思う?」

「LSLに問題があるのかしら…電解質か脂質か糖質の割合を変えるか、温度を変えてみたら?」

「残念ながら既に実験済みだ。胎芽が耐えられるギリギリの所まで変えてみたのだけれど、何も変わらなかった」

「それでは他に何か刺激を与えるとか?」

「死活しない程度の弱い電流を送ったりはしてみた。だがそれも効果はなかった」

「それじゃやっぱりニックの方に問題があるとでも?」

「とどのつまり、アバターと一体化する事に集中してないんじゃないの~」

「ちょっと、ジェシカ!」

ローレンが窘めると、ジェシカはそっぽを向いた。

「プロトは誕生するまでどの位かかったの?」

スイはさりげなくジェシカを含めたチーム5のメンバーに向かって質問した。

「1体目は実験し始めてから完全に同調するまで29日かかったわ」

「まあ約1ヵ月位って所だね」

「ジェシカは1ヵ月間、同調するまでの間、カプセルの中でどうだったのか覚えてる?」

「どうって…半年近く前の事だったけれど、あんまり覚えてないかな…」

「それじゃニックは今、何か見える?」

「え…別に。真っ暗で何も見えないし、何も聞こえないけど」

スピーカーごしにニックの戸惑った声が聞こえてきた。そこへジェシカが口を出す。

「そう言うスイ、貴女の方はどうだったのよ。と言っても最速の25分で誕生した貴女には僅かな間だったんでしょうけれど」

「私は、実験が始まってすぐに自分の鼓動に合わせて大きな心音がずっと聞こえていたわ」

「そうね。スイの場合はまるでジグソーパズルの最後のピースの様に、実験が始まるとすぐに細胞分裂が進んで、あっという間に胎児の段階まで進んだの。」

スイの後ろにいたフェイが懐かしそうに言った。フェイと対称的にユリアが尋ねる。

「で、スイ。このアバターの核分裂が進まない理由と解決方法は何か見えたの?」

「ごめんなさい。今の時点では何も」

「そう。まだここを見学してく?それとも私達のラボに戻る?」

「いえ、戻ります。このまま長く居てはエドさんやジョニーさん達、チームの皆さんのお邪魔になると思うので」

スイはフェイとユリアに連れられて、ジェシカはイアンとローレンに連れられて、それぞれのラボへ戻って行った。

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