19章
プロトとデフテロがネオ・ムセイオンに帰還すると、セイはしばらく寝かせて、と言って自ら進んでスリープモードに入った。スイはもっとセイから色んな話を聞きたかったが、あれだけの戦いをして、更にプロトの救助もした後だったから、そっとしておく事にした。セイがスリープモードに入ると、スイの手首のシレクティスも自動でオフモードになり、ほのかな熱も失われた。
トントンッとカプセルの外からノックの音がし、ケースの出入口の蓋が開いた。そこからフェイとユリアが心配そうな顔付きをして中を覗き込む。
「スイ、お疲れ様」
「フェイ、ユリア、ただいま」
「今日も貴女、凄かったわね」
「…うん」
「どうして今回も逃げないで戦う方を選んだの?」
「すみません、私達には選択の余地はなかったんです」
「何故?」
「ギガスが私達を攻撃してくるのは、デフテロをはじめ地上を侵略する存在を抹殺するためだからです」
「地上を侵略ですって?」
「ギガスは人類が地上から地下や海底のコロニーへ移った後の地上を支配するべく生み出されました。そこへ私達が現れた。彼らは私達の動きに合わせてこれからも出現し続けるでしょう」
「…何てこと」
「生み出された、というのは、どういう事なのかしら?」
「言葉の通り、ギガスもまた人の手によって造られたアバターと同様の存在ということです」
「誰に造られたですって?」
「そこまでは分かりませんでした」
「…そう」
「フェイ、ユリア、すみません。今日はもう上がらせて貰ってもいいですか?」
「…えぇ、そうね。でも最後にもう1つ教えて。ハンターズポイントに昔の核兵器が隠されていた事は元々知っていたの?」
「いいえ、今回の戦略はセイが考え出したものです」
「セイ、デフテロが?」
「はい」
ユリアはスイが同調に入る前より一層大人びた物言いをする様になった事に違和感を感じた。
「今日はまあ、いいわ。また家で時間がある時にでも話しましょう」
ありがとうございます、とスイはカプセルがあるラボを出て、ロッカールームへ行った。
「ユリア、スイの話どう思う?」
「にわかには信じがたいわ。ただ、ネオ・ムセイオンの他にも巨人を生み出し、軍事的な方法で地上の覇権を握ろうとしているグループが存在するのであれば、これはもう私達が関わる事ではないと思うの」
「まったくね。いつの時代になっても科学は戦争の道具にされてばかりだわ」
「フェイ、スイが言う通りギガスが人類がいなくなった後の地上世界を支配するべく造られた存在なら、アバター計画はこれからどうなるんだろう?」
「さあ。そっくりこのままネオアメリカか世界連合に移って計画通りに進めて行くって事もあり得るんじゃないかしら?」
「悲しいものね。所詮研究者は狭い鳥籠の中のカナリアみたいなものだわ」
スイはネオ・ムセイオンの廊下を進んでいると、ニックの姿を見かけた。
声をかけようとして、彼もまたスイと同じアバターの同調用のウェットスーツ姿であり、知らない白衣の男性研究者が一緒にいる事に気がついた。
「よぉ、スイ。今回も派手に活躍したらしいな」
ニックの方もスイに気がついて、彼の方から声をかけてきた。
「ニックも合同調査を見てたの?」
「途中からな」
もういいか、とニックと一緒にいた研究者が話を遮り、また後でなー、とニック達はスイの行った事のないラボへ入っていった。
「スイ、あいつ知ってるの?」
ニック達と入れ替わりに、ロッカールームから出てきたジェシカがスイに話しかけてきた。
「うん、私も彼も同じ、ドリーの家に住んでるから」
「そうなんだ。あいつ、私がアバターとの同調を始めた1ヵ月後位に、適性があるって事でずっと同調してるんだけど、ちっともアバターの成長が進まないの。結局貴女に先を越されちゃった感じ」
そうだったんだ、とスイは改めてニックが自分に対して初対面から発していた、妙なよそよそしさの原因を理解出来た気がした。
「まあ、あいつの頭の中は大半が家畜の事か古生物の化石の事ばっかりだけら、雑念が多すぎて同調する事に集中出来てないんじゃないかと思うんだけど」
「そうなの?」
「知らなかった?あいつ、普段リュケイオンだと化石の標本とか古生物とか、そんな話ばっかしてるよ。私の父も祖父も古生物学の研究者だったから分かるけど、昔の生き物とか化石に夢中な人って、変わり者ばかりよ」
へぇー、とスイはニックの知らなかった一面に驚きながら、またね、とジェシカと別れた。調査の前後で、ジェシカと自分の距離が縮まったのが何となく嬉しかった。




