18章
劣化ウラン弾の爆撃による風に乗り、スイ&セイ=デフテロはプロトの行方を追った。彼女のエアボード捌きなら、それなりに離れた所まで逃げられたはずだ。
「セイ、早くジェシカの所へ行かないと彼女が危ないわ」
「分かってる。この土地のさっきまでの記憶を共有する」
劣化ウラン弾の衝撃により、乾いた大地が大きく変動し、地面が陥没し、また一方では大きな土砂崩れを起こした。その衝撃に巻き込まれ、ジェシカ=プロトは装着していたエアボードが足から離れて、崖にぎりぎりの所でしがみついている姿が見えた。
「急いで!」
スイ&セイ=デフテロが現場にたどり着くと、崖の凸凹を両手で掴み、足場を失って転落間近のプロトの姿があった。
「ジェシカ!」
「…スイ!!」
ジェシカ=プロトがデフテロの姿を見つけ、安堵した瞬間、プロトが掴んでいた岩が砕けた。
「あっ!!」
落下するプロトの手首を、間一髪でデフテロの両手が掴んだ。
「ジェシカ、エアボードが落下した場所はどこ?」
「この地割れの谷底だと思うわ。爆撃で急に地面が真っ二つに別れて、プロトが落ちそうになった時に、エアボードがあると足場が安定しなかったから、外しちゃったの」
「デフテロのエアボードに乗って。多少の落下速度を弛めながら降りて、落としたエアボードを回収しましょう」
「ええ」
スイ&セイ=デフテロは、ジェシカ=プロトを自分のエアボードに乗せると、ゆるゆると崖の斜面を滑る様に降りた。谷底に着くと、砂ぼこりをかぶったプロトのエアボードが見つかった。
「あった」
良かった、と無事回収して足に装着してプロトはデフテロに向きあった。
「スイ、改めてありがとう。今回はチーム6がいなければ、調査も打ち切りになる所だったわ」
「どういたしまして。とにかくローレンとフェイに怒られる前に帰りましょう。ネオ・ムセイオンに」
プロトとデフテロは比較的斜面が緩やかな所から、エアボードを上手く操って崖の上へ戻り、ネオ・ムセイオンへの帰路についた。
「ねえ、スイ。ハンターズ・ポイントの核兵器を使うなんて作戦、どこから思い付いたの?」
「さあ…咄嗟だったから覚えてないなー」
何となく答えをはぐらかしたが、スイにはあらゆる過去を記憶しているセイの事も、自分がデフテロと同調している間は少し先の事が見える事も、そして巨人が出現した時は意識が別世界へ行ってしまっていた事も、他の誰かに言っても一切信じて貰えないと分かっていたので敢えて言わない事に決めたのだった。
旧サンフランシスコにてギガスとの死闘が終息した頃、太平洋を挟んで反対側のユーラシア大陸側にある地下コロニーの研究施設で、一人の少年、かつてスイがごみ捨て場で出会い、謎のメモの存在を教えた少年と同一人物がグランドピアノでショパンのノクターン第2番を演奏していた。
弾き終わるとほぼ同時に、一人の青年研究者が少年の背後に立った。
「マキノ博士、2戦目もどうやら決着がついたみたいだ」
少年がうっすらと微笑をたたえながら背後の研究者に話しかけた。
「またソウ君のお姉さん達かい?」
「その様だね」
ソウと呼ばれた少年は、微笑を絶やさず、マキノの方を向いて両目を見つめた。
「ネオ・ムセイオンの連中も、ドドナの老人どもも、2度の巨人の出現でそろそろ事態に対して本気を出す頃だ。マキノ博士、君ならどうする?」
マキノは白衣のポケットに両手を突っ込んだまま答えた。
「そうだね、新しい被験体を出す前に相手の弱いところでも派手につっついておこうかな?」
ソウはそれを聞いて、赤みが強い紫色の瞳を細めてにやりと笑った。




