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17章

スイは激しい動悸と吐き気が収まると、ふと自分が再びあの草原の中に立っている事に気が付いた。頭上には雲一つない青空が広がっている。

「セイー?」

何も反応がない。恐る恐る草原の中を歩いて進んでみる。だが何も反応がない。

「ユリアー?フェイー?ジェシカー?ローレン?」

スイはここで自分がただ一人取り残されたという感覚に不安を感じた。

セイが最後に言った、愛しのパミーナ、という呼びかけにスイは何かを思い出せそうで、でもそれが何だったのかが浮かばなくて、頭の中がぐちゃぐちゃに撹拌されているようだった。

「どうしたらいいの…?」

スイは力なく膝をついた。風がスイに向かって吹き付け、周辺の草が一斉にそよいだ。スイの目から一筋の涙がこぼれると共に、何故か歌のフレーズが口からこぼれた。

Ach, ich fühl's, es ist verschwunden,

Ewig hin der Liebe Glück!

Nimmer kommt ihr, Wonnestunden,

Meinem Herzen mehr zurück!

何故歌っているんだろう。何の歌だろう。涙のせいもあり、高い声が出せない。どこでこの歌を覚えたんだろう?

ただスイは涙を流しながら、歌いながら、青空を見上げた時だった。空から眩い光と共に9人の白いストラ(古代ギリシア・ローマで用いられたチュニック風の衣類)を着た少女達が突如として出現した。

「いたわ‼」

「彼女よ‼」

「良かった‼」

口々に歓声を上げる少女達に圧倒され、スイは歌うのを止めた。涙もいつしか止まっていた。

「私達は貴女様を探しに参りました」

「巨人が地上で狼藉を働いております」

「我らの母神が一人で戦っております」

「我らの母神が貴女様の助けを必要としております」

「どうかあの巨人を打ち倒してください」

「アポロン神の名において」

一斉に少女達に囲まれ、口々に話しかけられ、戸惑い気味にスイは尋ねた。

「巨人って、ギガスがまた現れたの?」

「はい」

「暗き海の底よりやって参りました」

「古の巨人は前にも増して強大です」

「今の戦力だけではあやつには勝てません」

「どうか貴女様の先見の力を」

「貴女様の正義の一撃を」

少女達が一斉に話しかけてくるので、スイには彼女達の言葉の一つ一つをきちんと咀嚼して受け入れる余裕がなかったが、それでも巨人が今攻めてきていて、自分の助けを必要としている事だけは理解できた。

「わかったわ、それで私はどうすればいいの?」

スイの質問に対し、1人の少女がタブレット端末を取り出した。

「私達がご案内いたします。どうぞこちらへ」

少女が言うや否や、残りの8人がスイを取り囲み、胴上げ寸前まで抱え上げた。そしてタブレットを持った少女の先導で、一同は空へ飛び上がった。

「飛んでる?!」

スイは少女達に腕や脚や身体を支えられ、まるで自分が風になった様な感覚で草原を見下ろした。草原の中にいる時は果てしなく感じられたのに、上から見下ろすと、こんなにも小さい世界だったのだ。

「さぁ、この小宇宙(コスモス)から早く元の世界へお帰りになって下さい」

「我らの母神を、どうか宜しくお願いいたします」

壮大なコーラスとオーケストラの演奏が響き渡る様な、音の洪水に押し流される様な、そして地上から宇宙へ弾き飛ばされる様な、不思議な波に後押しされ、気が付くとスイは自分がネオ・ムセイオンのカプセルの中にいる事実を再発見した。

「デフテロ?セイ?」

ヘッドセットはつけたままだ。スイはシレクティスに触り、ほのかな熱とまだ起動している事を確認した。

「セイ?大丈夫?」

急に自分の心臓が大きく波打つのを感じた。

「スイ…!! 助けて!!」

セイの悲鳴の様な、泣きそうな声が頭の中に響いた。

「セイー!!」

セイが身体の何倍もある長剣を持って、目の前にいる前よりも巨大で、真っ黒で、そして鯨の様な表面をした巨人と奮闘しているのが見えた。スイはセイの傍らに寄り添い、セイが握る長剣の柄に自らの両手を添えた。

「セイ、もう大丈夫。もうすぐジェシカがミサイルを持ってここに来るわ。それまでのあいつの先の動きを全部封じ込めるよ」

「…うん!!」

スイは目の前の巨人に意識を集中させた。がむしゃらな様で、防御と攻撃と投てきには一連の流れがある事を見破る。そして長剣で切りつけるよりも、力で叩きのめす方がダメージが大きいらしい事も。

ネオ・ムセイオン内で、モニター越しに様子を見守っていたメンバー達も、巨人に押されっぱなしだったデフテロが、急に動きが変わった事に気が付いた。

「…スイ?」

そのスイ&セイ=デフテロは、セイの立てた戦略の通り、少しずつ巨人をハンターズ・ポイントがある北へ誘導しつつ、海底の瓦礫を拾わせない様に攻撃を続けた。巨人の厚い皮膚は長剣の刃ではダメージを負わせにくいため、刀身や鞘で急所とおぼしき箇所を力一杯殴打する。

「スイ!持って来たわよ!」

ジェシカ=プロトの姿を見つけると、スイ&セイ=デフテロはエアボードで巨人目掛けて海水による大きな波しぶきの壁を作り、敵の視覚を遮りながプロトの元へ駆けつけた。

「ありがとうー!」

ジェシカ=プロトから古いミサイルと劣化ウラン弾を受け取ると、大きな手でまるでピストルを扱うかのように直接充填し、再び巨人に向かって行った。

「ジェシカは爆撃に備えてなるべく遠くへ離れて!」

「分かった!」

本来ミサイルの発射はコンピュータで行われるものだが、そんなものはない。セイはデフテロの手で無理矢理ロックを解除させた。

「発射準備できた!」

「オッケー!」

スイ&セイ=デフテロは、巨人が投げつけてくる瓦礫をすばしっこくかわし、大砲の銃口を巨人の口の中へ突っ込んだ。

「打て!!」

大きな爆音と共に、劣化ウラン弾が巨人の喉から内臓や気管を切り裂き、心臓を貫いた。そして体内で核爆発を起こされた巨人の身体は 、細かく引き裂かれた状態となって四方に飛び散り、ほとんどが海底へ沈んで行った。スイ&セイ=デフテロは爆風に乗り、エアボードで爆心地から離れた。

かくして2人目の巨人もまた、デフテロの手により殲滅されたのであった。

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