15章
スイ&セイ=デフテロは、エアボードを巧みに操りつつ前を颯爽と駆け抜けて行くプロトの背中を追いながら、改めて地上の世界の広さに圧倒されていた。頭上には青空と雲が広がり、地上は広々とした砂漠、そして所々に廃墟や錆びきった廃車等が砂の中に沈んで静かに埋もれようとしていた。酸素が薄くなってしまった地上には、植物の姿はほとんどない。乾燥しきった土、砂、地上での人々の営みの残骸の山々。だがそれらもスイの目には初めて見るものばかりで、とても新鮮に映った。
「どこまで行くの?」
「もう少し先」
ジェシカの素っ気ない声がした。だがその後でローレンの声が続いた。
「これから行って貰うのは、かつてシリコンバレーと呼ばれた所。私達チーム5の使命は、地上で人々が新しい時代と文明を生み出した街を再興する事にあるの」
シリコンバレー、とスイが小さく口の中で呟くと、デフテロが大きく瞬きをした。その瞼が下りたわずかな間に、シリコンバレーと言う場所の歴史とも云うべき様々な光景がスイの脳裏に伝わってきた。
「セイ、今のは?」
「私の中にあるシリコンバレーについての記憶よ」
セイがスイに見せた光景は、まさに何もなかった場所に様々な生物が登場し、また方々からどんどん人がやってきて文明を築き、文明の最先端だった都市が、突如としてミサイルによる爆撃を受け、戦火に包まれ、焦土と化した後には大規模な津波によって海へ沈んでしまったという、壮絶極まりないものであった。
「何もなくなった場所を、プロトだけで甦らせるの?」
「いいえ、プロトは地上の調査がメイン。人工衛星からの観測データだけでは拾いきれない情報を収集して、それらを基に世界連合とネオアメリカが再築していく計画よ」
「 世界連合?」
「そう、地上への復帰プロジェクトは、現存している全コロニーの代表者達によって構成された、世界連合と云う組織によって進められているの。私達ネオ・ムセイオンは、世界連合とは独立した組織ではあるけれども、世界連合の方針と考えに賛同して、プロジェクトに協力してるのよ」
ユリアの説明を理解するにはまだスイの知識は乏しかったものの、世界連合と云う名前だけは何故か彼女の心の中に引っ掛かった。
「ちなみにスコピディア(ゴミ捨て場)の孤児達を保護する活動なんかも、世界連合にある児童厚生機関が行なっているものよ」
ユリアの言葉を聞いて、スイの中で白い防護服の大人達の姿が思い浮かんだ。
「ネル…」
「そろそろ山道に入るわ。足元に気を付けて」
ローレンの声掛けにはっとして辺りを見渡すと、禿山に囲まれた隙間の道、かつての国道の跡に差し掛かっていた。ジェシカは慣れた様子で山道を走り、岩や倒木を飛び越えてショートカットしていた。
「この辺りは昔国立自然公園だった場所ね。動植物の化石のサンプルの宝庫だわ」
再度デフテロが瞬きをすると、その短い間に花崗岩の岩山がそびえたち、緑豊かな森や湖が広がる美しい光景が見られた。だが再度瞼が開くと、緑がすべて枯れはて、干上がった湖と川の跡だけが目の前に広がっていた。
長年にわたる異常気象と山火事に加え、世界中を巻き込んだ大きな戦争が、わずかな時間で全て変えてしまったのだった。
「山を抜けたらようやく今回の目的地に着くわよ」
山を上下し、谷間を抜けていくと、海に浸食された湾が見えてきた。
「凄い!」
スイは海を目の前にして歓声をあげた。
「大きい湖!」
「残念ながらこれは湖ではないわ。海というのよ」
「海?」
「そう、海。特にこの海は太平洋と呼ばれているわ。海底には北に1つ、南に2つ、合計3つのコロニーが存在している」
「海の中のコロニー…」
ふとスイの脳裏にとある光景がよぎった。幼い子供の頃のスイ自身が、誰かに手を引かれて何処かへ行こうとしている、その頭上は青くきらきらと光が充ちていた。自分を挟む様に男女二人の大人。これは、誰だっけ?
「スイ、あまり思い出すと却って辛い事もあるわ」
「…セイ?」




