14章
10日ぶりのカプセルの中は相変わらずだった。シレクティスを装着しているためか、カプセル内で自身の鼓動が大きく聞こえてくる様な感じはそのまま、その振動が自らの内側から起きあがってくる様な感覚が加わった。
「スイ、調子はどう?」
「はい、問題ありません」
「準備が出来たらいつでも行っていいわよ」
目が覚めて、またデフテロと一体化した事を確認すると、専用ゲートからまたエレベーターに乗って地上に出た。
「ねえ、セイ。聞こえる?」
スイはエレベーターから降りると、まず心の中でデフテロ=セイに向けて話かけた。
「ええ。聞こえてるわ」
「セイの声は他の皆には聞こえないのは何故?」
「私は自分の意志を伝えたい相手にだけ伝えているだけよ」
「私、セイに聞きたい事が沢山あるの」
「そんな事より、貴女方のミッションとやらに集中したら?」
セイにそんな事、と言われ少しカチンときたが、耳元でユリアの声が聞こえてきた。
「スイ、エレベーターの中に移動用のエアボードが入っている。ジャックに使い方を聞いて」
エレベーターの中を見ると、何もない様に見受けられた。
「スイ、エレベーターの奥の壁の右側に溝があるだろ?そこに手を入れてごらん」
言われた通りにエレベーターの中へ戻り、デフテロの手を溝の中へ入れた。すると指先で何かボタンの様なものに触れたのを感じた。その瞬間エレベーターの壁の中央部が下にすいこまれるように開いた。まるで隠し小部屋の扉の様だ。
「開いたね?そこに黒いボードが入っているだろ?」
「あります」
ボードは細長く、片側は三角に尖り、もう片側は燕の尾の様な形をしていた。スイはボードを取り出し、再度外へ出た。
「オーケイ、スイ。君は右利き?左利き?」
「えっと…」
「ごめんごめん、普段ナイフやハサミはどっちの手で使う方が多いかな?」
「こっちです」
デフテロの右手を上げた。
「了解。君は右利きだ。それじゃボードの先が細い方を左、先が燕尾型みたいになっている方を右に地面に置いてくれ」
「はい」
「そしたら、中央の2つの楕円形に足が来る様に上に乗るんだ」
ジャックの説明に従い、ボードの上に乗ってみると、足の裏でカチッという音がして、足がボードに固定された。
「足は固定されているが、かかとは僅かながら動かせるはずだ。両足のかかとで3回足踏みしてごらん」
トントントンッと気持ちかかとをボードに打ち付ける。するとボードがデフテロを乗せたまま宙に浮き上がった。
「浮かんだね?そうしたら、左足が前に、右足が後ろに来るよう、上半身をひねり、身体を前に傾けて重心を移動させるとボードが進む。止まるときは後ろに傾けて背中の方に重心を移せば止まる」
やってみて、と言われ、おっかなびっくりボードを動かしてみた。ボードはデフテロを乗せてスウッと前へ進み、そして数メートル進んだ所で停止した。
「エアボードは前進は出来るけれど、後進は出来ない。その代わり、左右に重心を移せば進行方向を変えることは出来る」
なるほど、身体をひねった状態で右側に重心を寄せると、ボードは円を描き、同じポイントまで戻ってきた。
「 ボードの速度は身体の傾き具合で変わる。そこは状況を見て、身体で覚えて行ってくれ」
「ボードから降りたり外したりしたい時は?」
「降りる時はまたかかとを3回足踏みすると、地面に着地する。外す時は両足の指先を揃って2時の方向へ向けると、ボードのロックが解除される」
「分かりました」
「チーム6、準備出来ました?」
ローレンの声が聞こえた。
「一通りエアボードのレクチャーは済んだ。後はスイのお手並み拝見って所だね」
「デフテロ、今日の調査ポイントはプロトが知っています。彼女について行って実際の作業のサポートをお願いね」
「わかりました。でも出発前に1つだけいいですか?」
「何か?」
スイはエアボードを装着したままエレベーター内の小部屋まで飛んで行き、中に置かれていた鞘入りの長剣を取り出した。前回の同調の際の戦利品であった。
「それ、要るかしら?」
「多少の助けにはなります」
再度エレベーターの外に出ると、同じくエアボードを装着し、砂漠上に浮遊するもう1体のアバター、プロトの姿があった。
「もう出発していい?」
「いいよ」
プロトはさっと踵を返し、西の方に向けて動き始めた。その後ろにぴったりついて、デフテロも移動を開始した。




