13章
スイにとって2度目の同調の日がやって来た。エミールシステムの学習の方はある程度全て先に進めてあったので、1日位なら丸々休んだとしても、別に支障はきたさない。とは言え、朝から妙な緊張感がスイの背後について回っているような感じがした。そのためか出かける間際の農作業では、気持ちが上の空気味で、牛と羊の飼料を地面に大量にぶちまけたり、水を関係ない範囲にもまいてしまったり、そのためニックに何度も小言や文句を浴びせられる始末であった。
「スイ、普段通りでいいのよ?」
ユリアの水素式電動バイクの後部座席に乗ってネオ・ムセイオンへ行く途中、運転席からユリアが声をかけてきた。
「分かってます。だけど何か緊張しちゃって…」
「ギガスを心配してる?」
「それもあります…」
「今日行ってもらうポイントは、何日か前から監視していたけれど、トラブルは起きないはずよ」
「…はい」
スイはそう答えたものの、どちらかと言うとスイにとっての心配の種はギガスよりもジェシカの方だった。ジェシカは同調後、病室での初対面以来、ネオ・ムセイオン内で顔を合わせても挨拶すらせず、スイが話しかけようとしても無視し続けていた。元来スイは誰とでも打ち解けられる性格で、ジェシカに対しても気に障るような事を言ったり態度をとったりしたつもりは全くなかった。だが、ユリアが言うように、その原因がジェシカよりもスイが短時間でアバターとの同調に成功したことにあるのなら、ただ黙って耐える以外の解決策が思い浮かばなかった。
ラボに着いて、チーム6のメンバーに挨拶をした後、専用スーツに着替えるべくロッカールームに行くと、入り口の所にちょうど中へ入ろうとしていたジェシカと鉢合わせした。
「おはよう」
スイから挨拶をしたが、ジェシカはスイをチラ見した後、黙って中へ入っていった。
ロッカールームに入ると、ジェシカ、フェイともう1人、初対面の科学者の女性がいた。
「スイ、初めまして。ジェシカと同じチーム5のローレンよ」
「宜しくお願いします」
「今日はジェシカの事宜しく頼むわね」
「はい」
返事をした後、ちらっとジェシカの方を見ると、彼女はさっさと着替えを始めていた。
「スイ、今回はスーツにちょっと改良を加えたわよ」
フェイに言われ、スイは再度専用のスーツに腕を通した。前回同様、身体に吸い付く様でなかなか着るのが大変な所はそのまま変わらなかった。
「ファスナーあげて」
専用スーツはダイビングのウェットスーツと同じ様な造りになっている。背中のファスナーの紐を上に引っ張ると、スイの全身はすっぽりとスーツに包まれた。ここまでは前回と変わらなかった。
「手首と足首にコレをはめるの」
フェイから渡された4つのリングの様なものを両手両足首にはめた。
「これはシレクティスと云って、貴女の鼓動をより精密にアバターへ伝える装置みたいなものよ」
両手首のシレクティスを代わる代わる見ながら、これだけで何が変わるんだろうかと思ったが、ここではとにかく何も考えずに受け止める方が得策だ。
「ジェシカも準備はいい?」
「ええドクター」
ローレンの前でにこやかに微笑むジェシカを見ながら、フェイはそっとスイの耳元で小さく言った。
「ジェシカの事は意識しなくていい。貴女は貴女のままでね」
「はい」
それぞれの準備を終え、いよいよ出陣の時を迎えた。




