ゴーレム再び
私達は地下遺跡の中心にある小部屋の扉の前についた。
「そういえばここは何の部屋なんだ?」
「倉庫って書かれてましたよ。」
魔法陣を起動して扉を開けると中には…
「………………。」
「何もないな…。」
部屋の中はガランとしていて何も残っていなかった。
「…えっと…他の部屋も見てみるか?」
「…まだです。まだ何も調べていません。」
「いや…その調べる物が何もないのだが…。」
「あります。私の勘がここに何かあって欲しいといってます。」
「ただの願望じゃないか。………わかったよ…気の済むまで調べようか。」
おかしいですね。絶対何かあると思ったのですが。あの案内図には細かい研究区画ごとに倉庫となっている広い部屋が一つありました。この最深部の区画にも広い部屋が倉庫として用意されているにもかかわらずもう一部屋、しかも小部屋を倉庫にしている。その場所が遺跡の真ん中ときたら何か大事な物が保管されてると思ったのですが。
しかしお兄さんにはああ言いましたがどこを調べたらいいのでしょうか。一様部屋を見て回っていますが魔術的な仕掛けがされている訳でもなさそうです。………本当に何もないのでしょうか…。
あれ?お兄さんが急に座り込みましたね。
「お兄さん何かあったのですか?」
「いや…ここの床がな………おっ」
ガコッという音と共に床の一部がはずれました。どうやら梯子で下に降りられるようです。
「凄いですお兄さん!どうしてわかったんですか?」
「この場所の上を歩いた時床が軋んでな…結構年数いってるみたいだし蓋の部分がかみ合わなくなってたんだな。」
「それでもそれに気づくのは凄いです。さすが冒険者ですね。」
私のテンションもうなぎのぼりです。
「リズが粘ってこの部屋を調べようとしなかったら見つけられなかったよ。…早速降りてみようか。」
下に降りるとそこから短い通路が延びていた。通路の先には扉があった。今までで一番気合を入れていると思われる魔法陣をあっさり起動させ扉を開け中に入る。中は随分広い空間になっていた。その奥にも扉が見える。
「あそこに何かありそうですね。」
私は扉に向かって歩きだす。
ガコン………ズサー
急に私の足元の床が沈み込み足を取られたためにこけてしまった。
「うぅ…なんですかこれ?」
「大丈夫かリズ?」
バタンッ
後ろで音がしたので振り返ると入ってきた扉がしまっていた。戻って調べてみる。
「…魔術で結界が張られています。開かないです。」
「解く事はできそうか?」
「そうですねー………このままだと力ずくでという事になりますが…それよりこの結界を発生させている人や物をどうにかした方が早くて確実なのですが…。」
「その発生源がどこにあるか分かるか?」
「それは…その…。」
こういった閉じ込めるのを目的とした結界の場合そういうのは普通結界の外にあると思うんだよね。………やっぱり力ずくでしなきゃだめかな?…魔力を同調させれば私は簡単に出れるから外にあると思う発生源を潰しに行けるのだがお兄さんにその事をどう説明すればいいのか分からない。アリスはあまり魔術に詳しくないみたいだったからそういうものとして受け取ってくれたけどお兄さんは自分でも強力な魔術使ってたしそうはいかないだろう。後で質問攻めにでもされそうだ。やっぱりそれは最終手段にしておこう。
ドゴゴンッ
音と共に床が振動する。私とお兄さんはそろって振り返った。そこには私が戦ったものよりさらに大きな4㍍を超えるゴーレムがいた。
今さっきまで居なかったのにどこから来たんだ?あっ天井の一部が不自然にへこんでますね。
「リズは下がっていろ!}
お兄さんが間髪入れずに剣を抜きながら凄いスピードでゴーレムに迫る。
「お兄さん!ゴーレムの障壁は非常に頑丈なので気をつけ…て………。」
ズガンッとお兄さんはゴーレムの振るってきた腕をサイドステップでかわしざまに斬りつけた。そしてそのまま懐に入り足を一瞬で十回以上斬りつける。
あまりの早業に目を奪われそうになるが重要なのはそこじゃない!
お兄さんなんで普通に斬ってるんですか!いや斬るのがいけないのではなく何故斬れるのかという意味ですよ。もしかしてあのゴーレムは障壁を張ってないのかな?
ゴーレムは斬られた事など意に介さずに腕を横薙ぎに振るう。お兄さんはその前にバックステップで範囲外まで下がっている。お兄さんがゴーレムから距離を取ったタイミングで魔術で空気の塊をゴーレムにぶつけてみるが直撃前に壁に当たったように霧散する。
やっぱり障壁張ってるじゃないですか!何でお兄さん斬る事ができるのっ!
ゴーレムが何かを投げるような動作をしている。しかし今回は何も持っていない。今度は投げ返されないように空気をぶつけたのですから当然ですね。しかし何をしているのでしょうかあのゴーレム?
「避けろリズ!」
声になんとか反応して地面に這い蹲る勢いで伏せると頭の直ぐ上を岩が掠めていく。
あ、危なっ!
ゴーレムの手だった岩が飛んできたのだ。まさか手が飛んでくるとは…。
「リズ無事か!」
「はい、なんとか。」
私の声を聞き再度お兄さんはゴーレムに斬りかかろうとした。するとゴーレムの全身から白い靄のような霧が噴出した。
うわ~すごく嫌な予感がする。白い霧は毒かそれに類するものとしか思えない。お兄さんも危険を感じたのか私の所まで下がってきました。霧が部屋中に広がる前に私は風で霧を集め圧縮しまとめて魔術で浄化した。
なんですかねあのゴーレム。私が戦ったゴーレムはあんな戦い方はしてこなかった。サイズも大きいですし特別製なのでしょうか?
「斬りつけてもダメージを与えているようには見えない。厄介な相手だな。」
「どこかに核となっている部分があるはずなのでそこに攻撃が当てることができれば倒せると思うのですが…。」
「核がどこにあるか分からない…か…。当たるまで切り刻むしかないな。」
ゴーレムの障壁を削りきれれば前回のように核の場所を探すまでもなく倒せるのだが今、目に前にいるゴーレムは同じように動けないようにしても障壁が削りきれるまでおとなしく捕まっているとは思えない。だが前回と違ってこちらは二人いるのだ。お兄さんはどうやってか面倒な障壁を無視して攻撃できるようですし現状、攻撃の役に立たない私はサポートに回った方がよさそうですね。
「私があのゴーレムの足止めをしますのでお兄さんはその間に斬りまくって下さい。」
「…分かった…無理はするなよ。」
私はゴーレムの足元に水溜りを作った。そしてその水溜りから水が噴出しゴーレムを障壁ごと水の膜で包み込み拘束した。これならまたさっきの霧のようなのがゴーレムから吹き出ても部屋への拡散を防げるはず。
「お兄さん!」
私が声をかけるまでもなく走りだしていたお兄さんはゴーレムに猛然と斬りかかった。お兄さんの斬撃はどんどんスピードを増していきその剣先は霞んで見えないほどだ。無数に斬りつけられゴーレムは足元から崩壊していく。ゴーレムはまだどんな隠し玉を持っているのか分からない。できればそれらが使われる前にこの攻撃で倒してしまいたいので私は油断しないように拘束に力を入れる。
しかし、お兄さんは私の作った水の膜ごと斬っている筈なのに斬られている感じがしない。なんの抵抗もなく水の膜と障壁を無視してゴーレムを切り裂いていく。本当にどうやっているのでしょうか?
「………んっ!」
ここでゴーレムが急に高熱を発し始めた。かなりの熱量で内側からの圧力が増し、水の膜が沸騰して弾け飛びそうになるのを私は全力で抑えにかかる。しかし熱は上がり続ける一方で抑え続けるのは難しそうだ。
「お兄さん!私の方はあまり長くは持ちそうにありません。」
私の声を聞き更にお兄さんは剣撃のスピードを上げる。すでにゴーレムの腰から下の部分は完全に崩壊してしまっており上半身もどんどん削り落としている。
その間私はゴーレムを拘束しながら間に合わなかった場合に備えて水の膜でゴーレムを抑えきれなくなった時に起こるだろう爆発を押さえ込む魔術とゴーレムの熱に対抗する魔術の二つの術式を大急ぎで構築していく。
私がもう限界かと、さっき構築を終えた二つの魔術を行使しようとした所でお兄さんの剣がついにゴーレムの核を捉えた。ゴーレムが機能を停止したことで熱は霧散し、障壁は解け、完全に崩れ始めた体は私が勢いあまって水の膜で押しつぶしたので一瞬で原型がなくなった。
「ふう………ぎりぎりなんとかなったか…。助かったよリズ。」
「こちらこそ助かりました。あっ………お兄さんその剣…。」
お兄さんの剣は高熱を発していたゴーレムを斬ったせいか刃がところどころ溶け刀身は曲がってしまっている。
「一応術式で耐熱加工はしてあったんだがな…まあ買い換えのいい切っ掛けになったよ。」
お兄さんはあっけらかんと言った。
お兄さんの反応を見るとこの剣は良い剣ではあっても障壁を無視して斬れるような特別な剣ではないのだろう。
私がじっと剣を見ていたせいかお兄さんが
「剣がこうなったことはリズが気にする事ないんだぞ。」
「ああ、いえ違うんです。どうやって障壁を無視して斬っていたんだろうかと考えてました。」
「それはさすがに教えられないな…かんべんしてくれ。」
「…そうですか。」
お兄さんが苦笑いしながら答える。うーん、残念。
「さて、後は結界をどうにかしないとな。」
「あっそうでしたね。…あれ…結界解けてますね。………多分あのゴーレムが結界張ってたんでしょうね。」
何でもありでしたねあのゴーレム。たしかにあれだけ強いなら結界の発生源にしても安心だったんでしょう。
「ついでに結界も解けたのか。…さてそろそろ帰ろうか。」
「何言ってるんですかお兄さん。ここまで来てお預けとかありえないです。」
「あっ…そうだった、そうだった。すまん。」
お兄さん…戦闘挟んだせいで目的忘れてたんですね…。
私達は今度こそ広間の奥にある扉を開いた。中は小部屋になっており部屋の奥には台座が設置されていた。
そしてその台座の上には二冊の本が置かれていたのだった。
「お兄さん。ゴーレムって皆ああなのですか?」
「それはない。あんなゴーレム見たのは初めてだよ。」
※次回の投稿は一週間以内を目指します。