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ゴーレム

「…うぅ…。」


 頭がぼんやりする。何があったんだっけ?そうだ…ソニックバードの広域魔法から身を隠そうとして地下に続く階段に入った所で魔法の衝撃の余波を受けて転げ落ちたんだっけ…。目を開けてみるが自分の手が見えないほど真っ暗だった。まだ浮遊感と転げ落ちた時の感覚が抜け切らずふらつきながら体を起こし魔術で小さな光球を出して周りを確認する。


「お兄さん!!…しっかりしてください!」


 自分のすぐ近くにお兄さんが倒れているのを見つけ声をかけるが返事がない。まだふらついて立てないので四つん這いで擦り寄って彼の呼吸を確認した。生きている事にほっとしかけたが頭から出血しているのを見つけて息を呑み急いで治癒魔法をかける。幸い傷は深くなかったが負傷しているのが頭だったので念のため治癒魔法を重ねがけする。他にも負傷箇所はないか確認してみると全身の複数箇所を打撲しており骨折しているところもあった。私はそれらのひとつひとつに治癒魔法をかけていった。治療は終わったがまだお兄さんは意識が戻っていない。

 とりあえず治療が一段落したところで改めて周りを確認する。どうやら通路のようで一本道が続いている。遺跡の地上部分はかなり荒れていたが地下は綺麗とは言わないが荒れてはいないようだ。落ちてきた階段を振り返って見てみるが真っ暗で光も全く射していなかった。どのくらい気を失っていたのかは分からないがさすがに夜にはなっていないだろう。そんなに経っていたらお兄さんの頭の出血も乾いているだろうし。


「出入り口が崩落しちゃいましたかね?」


 出入り口を塞いでる瓦礫を魔法で吹き飛ばすことも考えたがその衝撃でさらに崩落すると危険である。そもそもうまくいって地上に出れてもこの場所ではさっきのソニックバードに見つかる可能性が高い。ここを探索して他の出入り口が見つからないならそうするしかないが…。

 ちらっとお兄さんを見る。階段から落ちる時、自分とお兄さんに障壁を張ったのだが予想以上に長い階段を上下左右が分からなくなるほどシェイクされながら落ちた事で術式を維持できず途中で障壁が解けてしまったのだ。それなのに私がほぼ無傷なのはお兄さんが庇ってくれたからだろう。後できちんとお礼をする必要がある。まあそれらはここから出てから考える事にしよう。これ以上ここにいても仕方ないので移動することにした。

 最初、身体強化してお兄さんを背負おうとしたが身長差からかなり不恰好で引きずらないようにしようとすると前が見えなくなったので断念した。仕方なく異界空間から箱のような荷車を出し毛布を敷いてからお兄さんを詰め込んだ。サイズが小さいので手足が出てしまうのは許してほしい。

 ガラガラと荷車を押しながら通路を歩いていくと開けた場所に出た。ちょっとした広間のようになっていてあっちこっちで岩が山積みになっていた。広間の奥には扉があり魔方陣が描かれていた。扉に近づいて魔法陣を見てみる。


「これは扉が動かないように固定する陣みたいですね。鍵みたいなものでしょうか?魔方陣が起動していないので普通に開きそうですね。」


 扉を手で押すと思ったとおりあまり力を入れることなく扉が開いた。中に入って扉を閉じる。中は部屋のようになっていて真ん中に石のようなものでできた台があった。周りを見てみると部屋の隅にやはり岩が山積みになっている。壁や天井が崩れたわけではなさそうなのになぜこんなものがあるのかと思うがそれよりも私が入ってきた扉以外にこの部屋に出入り口が無いことのほうが重要だった。ここまで一本道で扉はさっき入ってきたものしかなかったのだ。


「…もしかして行き止まりですか?」


 あきらめきれないのでお兄さんの入った荷車を壁に寄せて部屋を詳しく調べた。するとさっきは暗くて見えなかったが真ん中にある台には魔方陣が描かれていた。


「地上にあった魔方陣とほとんど同じものですね。…という事は…。」


 これを起動させれば新しく通路が現れるだろう。それならさっそくと魔方陣に手を触れて魔力を通して起動しようとする。しかし…。


「あれ?」


 起動しない。うんともすんともいわない魔方陣に私は頭をひねる。魔方陣におかしな所は無い。もう一度魔力を通してみる。


「…んん??」


 なんだろう。手ごたえが薄い。どこかに穴でも空いているかのように魔方陣に通した魔力が抜けていっている気がする。理由はわからないが魔方陣に異常がないなら魔力が抜ける以上に注いでしまえば起動するはず。若干意固地になっているがこんな魔方陣一つ起動できないのはくやしい。勝負ではないのにここで諦めると負けだと思うのだ。少しずつ注いでも焼け石に水なので私は今までにないほどの魔力を練り上げそのまま魔方陣を壊さんとばかりに叩きつけるように魔力を押し通す。


 ゴゴゴゴゴ


 今まで壁だと思っていた場所が動き出入り口が現れる。魔法陣が起動したのだ。


「勝ちました…。」


 しかし感慨は一瞬。体がふらつき台に手をかけながら地面にひざがつく。


「…はぁ…はぁ………。さすがにしんどいですね。」


 魔力にはまだ余裕があるがこれだけ大量の魔力を一瞬で消費したことがなかったためかなりの負担を感じたのだ。息を整え下に向けていた顔を上げると視界にあるものが映った。


「ああ~!!」


 確かめようと台の下にもぐりこむ。台の上に描かれた魔法陣。そのちょうど裏側には無数の魔法陣が細かくびっしりと描かれていた。しかもご丁寧にその魔法陣一つ一つが連結されまるで一つの魔法陣のようになっている。私は台の上にある魔法陣一つに魔力を注いでいたつもりだったがどうやら裏側の魔法陣の群にも魔力が流れていたらしい。魔力が大量に必要だったわけだ。気づけばこの部屋も明るくなっていて私の光球が必要なくなっている。この大量にある魔法陣のどれかは分からないが起動したからだろう。けれどぱっと見ではここにある魔法陣はどれも魔法のオンとオフを制御するための物のようだ。

 この部屋の明かりのような魔法の維持は別の場所でしているみたいですね。………はっ。いけない。夢中になるところだった。新しく現れた出入り口を確認しよう。台の下から這い出して出入り口に近づく。新しく現れた出入り口はさらに下へと続く階段だった。


「…苦労して出した出入り口がなんで下に向かう階段なの…。」


 地上に続く道を探しているのに完全に逆方向である。がっくりと肩を落とす。


 ガラガラガラ


 音が聞こえたので目線を横に向けるが何も居ない。


 すぐに目線を戻すがさっきの光景に違和感を感じもう一度横を見る。やはり何もいない。


 部屋の隅に山積みになっていた岩が動いているだけである………岩が動いてる!!


 戻しそうになった視線を今度は顔ごとそちらに向ける。おもわず三度見をしたそれをまじまじと眺める。


「…ゴーレム。」


 さっきまでただの岩の山だと思っていたものが意思を持つかのように集まりたちまち2.5㍍ほどの人型をとった。


「………っ!」


 目の無いゴーレムと目があったと思うと同時に私は横っ飛びをして回避運動をとる。さっき私が立っていた場所をゴッという音とともにアッパー気味のゴーレムの腕が通りすぎた。

 私は転がりながら魔術で私より大きな岩塊をつくりゴーレムに叩き付けた。これで倒せるとは思わないが体勢ぐらいは崩せるだろう。しかし岩塊は直撃したように見えたがゴーレムにダメージが入ったようには見えない。よくみると岩塊はゴーレムに当たる直前で止まってしまったようだ。


「まさか…障壁を張ってるの!」


 これではゴーレムの障壁を削り切ったうえで障壁を張り直される前に行動不能に持っていかないといけない。障壁ごとゴーレムを粉砕できる火力の魔法はのんびり術式を組む時間が無いのと使ったら最低でもこの部屋は確実に消し飛ぶので却下である。

 ゴーレムは私のつくった岩塊をつかむとこちらに投げ返してきた。私は立ち上がろうとしているところで回避できないので障壁を前面に集中させさらに斜めに張る事で投げ返された岩塊を弾いた。岩塊は弾かれた先で。


 ドゴッシャァーン


 と派手な音を立てているがそちらに気をまわす余裕はない。とりあえず障壁を削り切らなくてはいけないがやりようはある。

 私は追撃をかけようとしているゴーレムの目の前に魔術で光球を出した。するとゴーレムはその光球にぶつかった。光球はただの魔術で作った光なので普通物理的にぶつかることはない。しかしゴーレムの張っている障壁は魔術を拒絶している。光球とゴーレムではなく光球と障壁がぶつかったのだ。そのままゴーレムの周りに光球を次々に出していきついにゴーレムは身動きが取れなくなった。さながら光の檻である。障壁を解けば動けるのだがゴーレムは愚直に障壁を張り続けている。私は光球を動かしてゴーレムを地面に倒そうするがゴーレムは障壁の出力を上げて対抗してくる。


「…魔術の力比べなら負けません。」


 力ずくでゴーレムを地面に引き倒しそのまま障壁を押しつぶすように光球で締め上げる。その間に私は異界空間から巨大なハンマーを取り出し身体強化をして担ぎながらゴーレムに近づいた。魔術的にだけでなく物理的にも障壁を削るつもりなのである。

 そしておもむろにハンマーを振り上げてゴーレム目掛けて振り下ろした。そのままモグラ叩きの様に三分ほど叩き続けようやくゴーレムの障壁を砕いた。

 ゴーレムが動き出す前にあらかじめ少しずつ組んでおいた魔術でゴーレムを周りの空気ごと凍らせた。そのまま粉々にしようかとも思ったが初めて見たゴーレムということで記念にとっておく事にした。今度アリスにも見せてあげよう。

 凍りついたゴーレムに触り…痛っ。冷たいを通り越してめちゃくちゃ痛いけど我慢。そしてゴーレムを異界空間の中にしまいこんだ。赤く爛れてしまった手を治癒魔法で治す。

 戦闘中にゴーレムをしまえたら楽なのだが…異界空間にしまうには直接十数秒触れる必要がある。なのでこのゴーレムのように邪魔な障壁を解いて抵抗できないように動けなくしなければ危なくてしまえないのだ。また魂を持つものはどうやってもしまうことはできない。

 しかしただの岩山だと思っていたのがゴーレムになるとは思わなかった。このタイミングで動くということはやはりさっき起動した魔法陣のどれかが関係あるのだろう。さっきの戦闘はほとんど私がたこ殴りにしていただけだったがそこまでしてようやく破れるという非常に頑丈な障壁だった。他にもゴーレムがいる可能性は高い。危ないから魔法陣を解析して切っておかないと。

 私は部屋の真ん中にある台を見る。


「………えっ…。」


 しかし部屋の真ん中にあったのは台ではなく岩塊だった。


 ゴーレムが投げ返し私が弾いた岩塊が真ん中に在った台を砕いていたのだった。


地下遺跡一本道道中

「…空気が淀んでます。」

魔術を使い周りの空気を清浄にする。いつのまにか荷車から手を離す。

ガラガラガラ

「…えっ?わーお兄さん待ってー。」

通路は緩い下り坂になっていました。


※次回の更新は一週間以内を目指します。

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