遺跡
翌日
私は街の外を歩いていた。本当はアリスに魔術を教えようと思っていたのだが今朝孤児院に寄ったところアリスが筋肉痛で動けなくなっていた。ベッドから起き上がるのも辛そうだったので魔術の勉強は明日から初める事にしたのだ。筋肉痛等も魔法で治すことは出来るのだが、これは文字通り運動前の状態に戻してしまう為私は緊急時以外では使う気はない。痛みがでるたびに使っているといつまでも筋力や体力が付かないからである。
こういう経緯で丸一日空いたので街の外を探索する事にしたのだ。今は隣街に向かっている。隣街に用事はないが街道を使った事がなかった為この機会に使ってみようと思ったのだ。それなりに大きな街道だからか人とも何回かすれ違った。しかし街道を利用している人はほとんどが馬車などを利用していて私のように歩いている人など私の少し前にいる男の人ぐらいである。
「あれ?」
そんな事を考えていると前を歩いていた男の人が街道から外れてしまった。男の歩いて行く方向には街や村はないはずなのだがどこに向かっているのだろうか?聞いてみよう。
「あの~すみません!」
男が声に気付いて振り向いた。後ろからではよくわからなかったが十代後半位の黒い髪と鳶色の瞳を持った青年だった。腰には剣をさしている。
「俺になにか用事か?」
「いいえ。…ただお兄さんが急に街道から外れたのでどうしたのかと思いまして…。」
「そんな事か…俺はこの先にあるって聞いた遺跡の調査に行くところだ。」
「遺跡!」
それは初耳です。是非行ってみたいです。
「私も一緒に行きます!」
「駄目だ。」
即答されました。青年は一人で行きたいようです。
「分かりました。それでは遺跡の場所を教えて下さい。後で行きます。」
「行くなと言っているんだ。教えるわけないだろう。」
私の遺跡行きを拒否していたのですか。
「何故ですか?」
「これが初調査でまだ安全が確認されていないからだ。」
「最近見つかった遺跡なのですか?」
「いいや。存在自体は前から知られているよ。ただこの国は遺跡の探索には力を入れていないからそのまま放置されているんだ」
「お兄さんは何故そんなところの調査を?考古学者かなにかですか?」
「俺は冒険者だよ。もっとも今回の調査は依頼じゃなくて私用で調べたい事があったからだ。」
「冒険者ですか?便利屋さんみたいなものでしょうか?」
「似たようなものかな。冒険者は街の外で活動する事が多いけどな。」
「じゃあ、便利屋のお兄さんに依頼です。私を遺跡に連れて行って下さい。」
「冒険者だって…そういう事はギルドの受付でやってくれ。だいたい初対面の男にホイホイついていこうとするなよ。俺が悪人だったらお前は襲われるところだぞ。」
「便利屋のお兄さんは私の質問に答えてくれるいい人です。」
「…いつか悪人に騙されるからそういう基準で人を認識するのは止めておけ。………ほら、飴やるから今日はもう帰れ。」
便利屋のお兄さんはそう言って懐から包みを出した。
飴!食べた事がないので凄く欲しいです。けど飴は街に戻れば買えるはずです。今は遺跡を優先しましょう。行くなと言われると俄然行きたくなってきました。
「飴は貰いますが帰りません。」
「図々しいな!」
つい飴も要求してしまいました。
「便利屋のお兄さんは強情ですね。」
「お前に言われたくないよ!…はぁ…なんでそんなに遺跡に行きたがるんだ?」
「遺跡を見てみたいからです!」
「………えっ…。それだけ?」
「私には充分な理由ですよ。」
「遺跡は観光スポットじゃないんだぞ。俺についてきて魔物や獣に襲われたらどうするつもりだ。」
「もしそうなったら…便利なお兄さんお願いします。」
「呼び方変わってんぞ!人に頼む気があるのか!」
「冗談です。…私魔法使いなのでなんとかなりますよ?」
さすがに危険な事を人任せにはしませんよ。戦った事はないですが私も魔法が使えるのですから。と言ってもお兄さんも一人で遺跡に行こうとしているのでかなり実力はあるはずです。あてにはさせてもらいましょう。
「なんで疑問形なんだよ。………ああ…もう、分かった。ついてきていいよ。無理やり街に帰しても調べて一人で行ってしまいそうだ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「その代わり条件として俺の指示にはちゃんと従えよ。後、今回は軽い下見の予定だ本格的な調査はしないからすぐに帰るぞ。」
私はお兄さんと遺跡に行くことになりました。
「まだ名前を聞いてなかったな。俺の名前はイリオン。お前は?」
「リズです。改めてよろしくお願いします。お兄さんはいつも一人で活動しているのですか?」
「いや、いつもはパーティーを組んでいるよ。ただ今日は他のメンバーに用事が入って俺だけ暇が出来てしまったから元々行く予定だった遺跡の下見だけでもしとこうと思ってな。」
「遺跡の事について聞いてもいいですか?」
「他に調査した人がいないから遺跡の場所とそれが小規模だって事しか分かってないよ。…そろそろ見えてくるんじゃないかな?」
周りはポツポツと木が生えていて草原から林になってきている。と、前方に人工物のようなものが見えてきた。
「止まれ!」
私が歩調を速めようとした所でお兄さんに止められた。振り返るとお兄さんは険しい顔で遠くを見ていた。
お兄さんの視線を辿ってみると二百㍍ほど離れた木の枝に体長が三十㌢ほどの灰色の鳥がいた。
「あれは…もしかしてソニックバードですか?」
お兄さんは小さく頷いた。この距離でよく見つけたものだと感心する。しかし、やっかいな事になった。ソニックバードは魔物に分類される。魔物と獣の違いは体内に魔力が結晶化した魔石があるかどうかである。因みにキラーラビットは魔石を持っていないため魔物ではない。魔物はこの魔石が有ることで獣とは段違いに強力な魔法を使用してくる。個体によっては災害扱いになるのもいる。私も一対一で正面から戦うのは遠慮したい。魔物はあまり繁殖しないのか個体数が少ないのが救いか。
「どうしますか?」
まだソニックバードには気づかれていないので引き返す事も可能だ。
「何かの拍子に街や街道に行くかもしれない。ここで倒しておく。リズはここから動くなよ。」
お兄さんからかすかに魔力を感じたと思ったらその姿がスッと消えていきました。
「おおっ!」
いえ、実際に消えたわけではなくそう錯覚してしまうほど存在感が無くなりました。おそらく認識阻害系の魔術を使用したのでしょう。しかも発動した瞬間をみていなければ私も気づけないかもしれないほどに強力なやつです。
お兄さんはそのまま素早くソニックバードに近づき腰にあった剣で切り捨ててしまいました。
「凄いですねお兄さん。」
「魔物はなにかされる前に片付けないとやっかいだからな。今回は上手くいったよ。」
私が近づいて行くとお兄さんは魔石を取り出しながら言った。顔は少し照れているように見えるがグロテスクな解体作業をしながらそんな反応されると少し怖い。しかし、これでようやく遺跡に入ることができる。
「かなり荒れていますね。」
遺跡に入って周りを見てみる。何かの建物がいくつかあったようだが無残に崩れてしまっており基礎部分しか残ってない所もある。
遺跡の中央付近の開けた場所でお兄さんが立ち止まる。
「どうしました?」
「ここの地面を見てみろ。魔方陣が描かれてる。」
言葉に従って私も地面を見てみると確かに魔方陣が描かれていた。
「本当ですね。でも所々崩れて消えてしまってますね。」
それに大分古い術式のようです。遺跡にある術式なので当然といえば当然なのですが。幸い陣の重要な部分は消えずに残っているため消えてしまった部分もだいたい何が描かれていたか想像がつきます。とりあえず崩れてしまった部分を魔術で補修して平らにしたあとガリガリとそこに描かれていたであろう陣を描いていく。
「リズ何をしている?」
「見ての通り魔方陣の修復をしています。」
「おいおい、まずこの魔方陣に描かれている術式を解析しないと修復のしようが無いだろう。」
「解析ならもう終わりましたよ。」
「………はぁ!!」
「…よし!…これで完成です。」
陣を描き切り改めて魔方陣全体を眺める。これなら問題無く起動させれそうである。
「リズ…本当に…魔方陣の修復をしたのか?適当に描いたんじゃないのか?」
「そんな事しませんよ!これは特定の場所にある物質を動かす魔方陣のようです。…この術式ならその辺が動くと思いますよ。」
そう言って私は魔方陣の先にある空間を指さす。
「言葉で言うより実際に起動してみたほうが分かり易いですよね。」
「おい!ちょっと待…。」
ゴゴゴゴゴ
私がさっと魔方陣に魔力を通して起動させると先ほど私が指さした場所の地面が持ち上がり地下へ続く階段が現れた。お兄さんは言葉を失っている。
私は現れた階段に近づいて中を覗きこんだ。階段の幅は広く数人が並んで降りれそうだが傾斜は少しきついように思う。光が届かず暗いため階段がどのくらい続いているのか分からなかった。
「疑ってすまなかったな。」
お兄さんがそう言って私と同じように階段を覗きこむ。
「いいえ。もう誤解は解けたようですしかまわないですよ。」
「そう言ってくれると助かる。………しかし、これはいろいろ準備が必要そうだな。…今回はこのくらいにしてそろそろ引き上げようか。変なのが入り込まないようにこの階段元に戻すことは出来るか?」
「………あっ…。」
元に戻すというのを術式に入れるのを忘れていた。描いてて妙にスペースが余ると思っていたらそれが原因か!せっかく補修した箇所をまた描き直さないといけない。
ギェャギェャギェャー
と、後ろの遠くから大きな鳴き声が聴こえてきた。
「…これは?」
「まさか…ソニックバードの鳴き声か!」
「もしかして番でもいたのでしょうかね?」
その鳴き声は怒り狂っているように感じる。私とお兄さんの間に緊張が走る。多少大回りになってもすぐにここから退避した方がいいだろう。すると鳴き声の聴こえてきた方向から魔力が膨れ上がるのを感じ全身が粟立った。
まずい!!
「この中に退避を…」
焦りながらお兄さんの腕を掴んで地下へ続く階段に飛び込む。次の瞬間…。
ゴオォォォゥ
という凄まじい音が聴こえ同時に階段の入口から吹き込んだ風によって背中を押され体が宙に浮く。浮遊感を感じながら私とお兄さんに障壁を通常より硬くかける。階段に叩きつけられる前に何かが覆い被さってきたが確認する暇はなく暗い階段を転げ落ちていった。
遺跡へ向かう道中
「お兄さんもう飴は無いのですか?」
「どれだけ食べるつもりだよ!少しは自重しろ。」
※投稿ペースを戻します(多分)
次回の投稿は一週間以内を目指します。




