第7話 迷宮カンカーラ
今日17:00くらいから、8から10話の3話分、連続投稿します。
「なんだよ。カンカーラって」
「お前、本当に冒険者か?」
「ほっとけ。ちなみに今日ここに着いたばっかなんだよ。だから、冒険者カードすらまだ持っていない!」
ランドール公国の冒険者カードはまだ持っていない。俺が持っているのは、ガザ王国のものだ。……と言っても、ガザのですらレベル1だが。
「あちゃあ……。ガチの初心者だったのかぁ。なんか、そこそこやってきた雰囲気があったんで勘違いしたぜ」
おっさんは、ムムムと考え込んだ。
いや、あんたの目は結構正確だぞと言ってやりたい。
冒険者カードのレベルってのは、ステータス評価と違って必ずしも強さとイコールではない。
ギルドへの貢献度の方が、圧倒的に強く影響するからだ。
だから、強い強くない以前に、高レベル冒険者ってのはギルドに優遇される。当然だ。それだけギルドに貢献をしてきているからこその高レベルなのだから。
でも俺の場合、冒険者ギルドには最近まで関わってこなかった。なので、ガザの冒険者カードでさえレベルは1。
だが、上級クラスへの壁と言われている『レベル13』を超えている者たちのほとんどよりも、戦闘経験だけはかなり多いだろう。
こんなことはまずないんだが、普通じゃないとこうなる。
だから、見る者が見て『そう見えた』としても、何も不思議はなかった。
「明日は冒険者ギルドか?」
考え込んでいたおっさんが、顔を上げて尋ねてくる。
その視線は、俺を推し量っているように見えた。
「もちろんだ。それより、さっき言っていたカンカーラってののこと、ちょっと教えてくれよ。冒険者たちが集まっているってことは稼げるんだよな?」
ギルドに登録して、仕事を斡旋してもらってもいい。
だが、なんか良さげな匂いがプンプンする。
いかんせん、レベル1だと碌な仕事をまわしてもらえない。まともに稼げる仕事を受注できるまでには、それなりに時間がかかる。
だが……迷宮探索なら俺次第。
冒険者が入る迷宮なんて、なにかしらのお宝があるに決まっている。それに何より、絶対にモンスターがいる。
だから、間違いない。
あいつら、結構金になるからな。
収集癖がある奴もいれば、そのモンスター自身が金になる奴もいる。
食用や薬、さまざまなものの素材……用途はまちまちになるが、買い取ってもらえる種は少なくない。
だから狩りができるなら、まったく金にならない──ということはないはずだ。
「実力があればな」
おっさんも首を縦に振った。
続いて、件のカンカーラ迷宮についての説明に入る。
「あと、カンカーラのことだったな。カンカーラは、ガリメデの王城直下に広がっている大迷宮だ────」
………………。
長ぇ……。
まとめると、こんな感じになるだろうか。
なんちゃらって悪い魔法使いが、昔の公王が大事にしていた『魔法のお護り』を盗んだ。
引き籠った先がカンカーラの迷宮。
公王はブチ切れ、兵を差し向けるが全滅。迷宮を魔改造しての徹底抗戦だった。
派兵……そして、全滅へ。
これを何度も繰り返す。
脳死で兵を送り続けていた公王も、さすがにヤバいと考え直した。
自分の兵を送らなくても、よくね? 冒険者たちを使えばいいじゃない、と。
で、思いついたのが、『大金』と『公国の正規兵として取り立てる』という餌。
結果、迷宮に国内最高峰の『亡骸の山』を築いた。
しかし、ついには魔法使いを倒し、お護りを取り戻すことには成功する。
ただ……、魔改造された迷宮は、魔法使いがいなくなった後もモンスターを生み出し続けた。
困った公王は、強力な宮廷魔術師団を組織し、カンカーラの最下層へと続く道を封印することに決めた。
本当にやばいモンスターは、迷宮の最下層10Fから湧いていたからだ。
モンスターは、カンカーラのあらゆるところから湧き出していた。
しかし、それらすべてを封印することは、宮廷魔術師団の力をもってしても難しかった。だから、本当にマズいところだけに集中的な処置を施すことにしたのである。
これによって、ランドールを滅ぼしかねない強力なモンスターが解き放たれる心配だけはなくなった…………。
ところが、話はここで終わらない。
人間の欲と長い時間が、カンカーラの迷宮を中心に大規模な都市を作り上げる。
倒しても倒しても溢れ出てくるモンスター。
どこから湧き出ているのかもわからない、価値のあるアイテム群。
それに群がる冒険者たち。
そして……、その冒険者に群がる商売人たち。
カンカーラの迷宮を中心に、大きな大きな町が出来上がっていくのは必然と言える流れだった。
これがガリメデ。
つまり、この町は冒険者の町に端を発している。ただ、それがデカくなりすぎただけで。
いつしか、そこはランドール公国の首都に選ばれるほどの大都市となった。
しかし、公国宮廷魔術師団のお務めは今なお続いており、真上に建つ城の中でカンカーラの迷宮を見守っている。
人々に、大災厄が降り注ぐことだけはないように────。
「……ってなとこだな。これがカンカーラの迷宮とガリメデの歴史だ」
「へぇ……、ここにはそんなもんがあったのか。あれ? でも、今の話通りなら別に『今』がどうこうって話じゃないよな? おっさん、さっき『わざわざ今ここに来たんだから』って言ったよな?」
「ほう……頭が悪そうなわりに、意外に抜け目ないじゃねぇか。感心感心」
ガハハと笑うおっさん。
「ほっとけ。で?」
「ん? ああ、『今』の理由な」
「ああ」
「実はな。いま城の宮廷魔術師のひとりが、国の秘宝奪ってカンカーラに立て籠っているらしいんだよ。まるで、昔の悪い魔法使いの話のようにな」
「国の秘宝って……さっき言っていた『お護り』か?」
「いや、『ヴィルマの杖』らしい。ヴィルマ教はこの国の国教だからな。教会より譲られたヴィルマの杖は、王の戴冠式なんかにも絶対必要な秘宝扱いのアイテムだ」
「へぇ……」
「街の大広場に立て札も建てられたんだぞ。『邪悪に染まった宮廷魔術師・パー=ベルシオンがヴィルマの杖と、第一公女エトワールの下着を盗んでカンカーラに立て籠もった。勇気と実力に自信のある者たちよ。ここに集え。金貨1000枚 2000万マリスと姫の伴侶となる機会を与えよう』だそうだ」
は?
「公女の……下着? パンツ?? それ本当に立て札に?」
「ああ。書かれていたことそのままだ」
衆人環視に晒したのか……パンツ盗まれたって。わざわざ。
「……この国の王は『コレ』か?」
頭の上で握った拳を開いて見せる。
「さあな。が、それを置いておいても、今この国には王子がいないからな。2000万マリスと王配になれるかもしれない権利だ。望む者は後を絶たない」
「なるほど……」
「でも、姫さんはお冠らしくてな。うわさでは、自室に立て籠もってまったく出てこなくなったらしいぞ。父王が訪ねたら『お死にあそばせ』と扉の向こうから一言だけ返ってきたとか来ないとか。いまのガリメデは立て籠もり祭りだな。ハッハッハッ」
高笑いをしながら、おっさんは言った。
いや、笑い事じゃねーよ。
だが、それより……。
「で、つかぬことを聞くが、エトワール公女ってのは……美人か?」
ここは一番重要だろう。
金は欲しい。
だが、公女との婚約が褒美になるには前提条件ってものが必要だ。
ここは譲れない。やる気に俄然差が出るぞ。
「噂ではな。なにせ、表舞台には全然出てこられないお方だからなぁ……」
つまり、確証はない……と。
美人と『噂』の引き籠りの公女か……う~む。
悩んでいると、おっさんは一枚の紙をヒラヒラと振りながら尋ねてくる。
「で、契約するか? 朝飯付き一泊300マリス。どうする?」
思ったよりは安いが……。
タダ同然の馬小屋常連から見れば、やはり結構なお値段。どうしようか。
「ンん……ん……。よし、決めた! よろしく頼む、おっさん」
男は度胸。稼げばいいんだ。稼げば。
開いた右手を差し出した。
おっさんはニカリと笑うと、グローブみたいなデカい手で俺の右手を握り返す。
「思い切りのいい奴は大好きだぜ。俺はハルク。元魔法使いだが、今はしがない宿屋の親父よ。よろしく頼む」
聞き捨てならないセリフが聞こえたが、聞こえなかったことにする。
明日、朝一で冒険者ギルドにいかないといけないし、何よりもう疲れていた。
先ほど娼館で体力の限界まで頑張った身だ。もうヘトヘトである。寝床に潜りたかった。
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