第5話 ガリメデの町
次回の投稿は、昼12:00頃の予定です。
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一方その頃、ガザ王・カイメルスは狂ったように怒鳴り散らしていた。
喉が枯れていることにも気づかず、ひたすら怒声を上げている。側近の大臣たちは、そのあまりの勘気に身を竦めていた。
「どいつもこいつもっ! 衛兵どももだ!! いったい何をしていたのだっ!」
ただ、それも仕方のないことなのかもしれない。
ガザ王国でもっとも神聖で、もっとも犯すべからざる至宝──神槍グングニルが盗まれてしまったのだから。
もうすでに、ソードの罪は単なる無礼の域を遥かに超越していた。
神槍グングニル────。
人類史上最高の魔力付与師にして伝説の名工・キリー=ステマー。その最高傑作と言われる槍。
【総べる者】【法と秩序の守護者】カイゼルの持つ神の槍グングニルを模倣して作られ──決して折れず、燃えず、大炎を宿し、どこまで投げても宿主の下に返ってくる。
何をも貫く、意志を持った槍。
それがキリー=ステマーの神槍グングニルだ。
ただ、『彼』あるいは『彼女』はとても気難しい。
世に知られている神槍グングニルの主は、たった二人しかいない。それ以外の者たちは、ただ”所持”していただけだ。
そして、そんな槍の二人目の主が、ガザの建国王・槍聖ラーベであった。
以降、ガザ王家では王権の象徴──国の至宝として代々受け継がれてきたのだが、そんな槍が盗まれてしまったのだ。大事以外の何物でもない。
目を血走らせたカイメルスは、再び大臣の一人を怒鳴りつける。そして、一枚の書類を持ってこさせた。
そこに、書きなぐるようにして署名する。
指名手配書────
手配No.1072。ソード=マスター。戦士の槍使い。二十歳くらいの赤毛碧眼の男。筋肉質のやせ形。背丈は並み。以下に似顔絵を記す。この者、王国の宝物庫を荒らした罪にて指名手配とする。生死は問わない。この極悪人の身柄を我が前に届けし者には、金貨100枚 200万マリスを与える。 ──ガザ国王・カイメルス──
大きく赤で書かれた『WANTED』の文字。叩きつけられるようにして記された暴れた王名。
ただ、グングニルについては書かれていない。
書けなかったのだ。だから、ソードの罪状は王城の宝物庫荒らしということになっている。
だが、生死問わずの手配書であった。カイメルスの目は座っていた。
このように、後の大英雄・ソード=マスターの物語は、一国の王からの指名手配書とともに始まるのである。
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「……ふぅ。二人のいちごミルクプレイには完敗だ。さすがの俺も参っちゃったぜ」
ランドール公国首都・ガリメデ────。
夕方に着いた俺は、迷うことなく夜の町へと向かった。
まともな料理とは言い難いが飯はちゃんと食っていた。だが、俺の息子は餓死寸前。仕方がなかった。
ただ、娼館のババアはあまりにやり手だった。
旅で薄汚れたままの俺を見るや否や、興味なさそうに「金はあるのかい?」と聞いてきた。俺は、まだそこそこ中身の残っていた革袋を見せた。
すると、一瞬で獲物を狩る虎の目に変わった。
一拍の間も開けず、急に愛想が良くなる婆さん。
王族を接客するかのように恭しく、その顔には満面の笑みを貼り付ける。
そして、婆さんは奥から二人の女の子を連れてきた。
童顔でおっぱいの大きないちごちゃんと、スレンダーお姉さんタイプのミルクちゃん。
そして俺は、あっという間に二人に剥かれてキレイに洗われた。
そのまま風呂場で三発。
抵抗する間もなかった。あの手際は見事という他ない。まさにプロ。
その後、飲めや歌えやの大宴会。そして、隙あらば抜かれる。
気がつけば────
「……すっからかんだ」
ガリメデの夜風にひらひらと舞う俺の財布。見事だった。
だが、男たるもの女を抱いて後悔をしてはならない。後悔していいのは、病気を移された時だけだ。
数少ない俺の矜持と言ってもいい。
顔を上げ、前を向いて歩く。
そう。こうなったのはババアが悪いのであって、いちごちゃんとミルクちゃんは悪くない。また行こうと思う。
だが、それはそれとして、稼ぎ口を早急に探さねば……。
マジで緊急事態。ずた袋の底の隠し財産が出番待ちをしている。
はあ……。世知辛いねぇ。
でも、とりあえずは宿だ。
それから、明日の朝一で冒険者ギルドに行こう。
とはいえ、財布の中身がなあ……。とっても……まことに遺憾ながら……非常に心許ない。
こんな大都市では、馬小屋にタダ同然で寝泊りするなんてマネもできないだろう。
宿屋の親父たちは、交渉もさせてくれないに違いない。
ガザなら、首都にさえそんな宿屋があったものだが……ここでは期待薄だ。
どうしたものか。
夜のガリメデは、これからが本番。町を行きかう人も多い。いかにも冒険者然とした者たちの姿も、たくさんある。
皆ひと仕事を終えて、さあこれからといったところだろう。
一方の俺は、いい感じの安宿はないかと物色するように、町並みを舐め回す。
中央広場から延びる大通りをトボトボと歩く。郊外に向かってひた進んだ。
俺が泊まれる安宿なんぞ、あっても郊外に決まっている。
テンションが駄々下がった。
なにせ、ランドール公国の首都。商工ともに最高レベルを誇ると噂の大都市だ。それを考えると、郊外までが遠いというのは当然の結論であり……漏れ出るため息の数だけが増えていく。
牛より一回りデカい『モーモー』が、のそのそ荷車を引いて通り過ぎていった。
馬車の定期便よりも安く、貧乏人ご用達の足……なのだが、これにも乗れない今の俺。
更に、ため息が一つ増えた。
どこまでもきれいに整えられた石畳。その上を歩く。街の中心からどんどん離れていく。
このような大都市でも、中心から離れれば離れるほどに、建物の間隔はまばらになる。
二階……場合によってはそれ以上の階層で建てられていたものも、よくて二階といった感じに変わっていった。密集して建てられていた建造物も、歯抜けになっていく。
景観にそんな変化が現れ出した頃、とんでもない建物が目に飛び込んできた。
バーベルと鉄アレイ?
クソでかいバーベルと鉄アレイをかたどった看板の右上に、申し訳程度に『INN』と書かれた板が打ちつけられている。
町の中心から離れ、迷い込んだモンスターも出てきそうな場所にあるその建物は、たぶん、おそらく宿屋のはずだった。
だって、『INN』て書いてあるし……。
建物自体は、年季の入った二階建ての木造だ。郊外にあるボロ宿としては、そんなに珍しいものでもない。……出来そこないの鏡餅みたいな見た目だが。
圧倒的におかしいのは看板である。
それに比べれば、少々見た目が変なことぐらいは十分に許容範囲内。
なんだ? ジムか?
少し好奇心がわいた。
だが、これがマズカッタ。好奇心は猫をも殺す。
建てつけの悪い扉を開いてみたら、ヘタしたら二メートルに届こうかというどえらくデカマッチョで口髭なおっさんが、ほとんど素っ裸でサイドチェストを決めている。
汗まみれのてっぺんハゲと、肩まで伸ばした金髪を魔法ランプの光に輝かせ、とても良い笑顔で白い歯を見せていた。
いちごちゃんとミルクちゃんに生きる力を満タンにしてもらったばかりだというのに、俺はもう死にたくなった。
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