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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第4話 ガザの闇ギルド

次回の投稿は、このまま5話まで連続投稿します。




 首からぶら下げていた革靴も履き直し、衛兵から剥いた鎧を着込む。


 ばっちり衛兵(偽)になった。


 ハルバードを手に城内を走る。無礼者を探す『ふり』をした。


「あのクズ野郎! 許せねぇ、今日はデートだってのに俺のジュニアが……」


 後ろから怒鳴り声が聞こえてくる。


 あ~、さっき玉蹴り食らわせた……。


 だが、気にしない。足は確実に城の正門へと向ける。


 クズ? クズで結構。それが俺の生き様だ。


 ハルバードを掲げながら正門をくぐる。警備していた者たちに、手も振ってやった。


 ちょろいもんだった。


 もうちっと警備を見直した方がいいぞ~。


 心の中で忠告し、グリニアの町中へと向かう。足取りは軽い。


 城門から続く石畳の道を堂々と歩く。


 今日のアガリは保証されている。それだけで、こんなに心が軽い。


 我がことながら、あまりの現金さに苦笑いが漏れる。


 向かう先は、グリニアの町の『闇ギルド』。商区の建物が並ぶ中に、普通にある。


 一階では雑貨が売られ、二階では店主の皮をかぶった爺さんが寝起きしている。


 だが階段を下りると、そこはもう別世界だ。


 爺さんに『ラッパの屁』と伝えると、地下に続く階段へと通してくれる。


 これは、顔見知りだからって省略はできない。できるのは幹部だけだ。


 爺さんは、俺の格好に一瞬鋭い眼差しを向けてきた。


 しかし、バイザーの中にある顔を見た途端、ため息を吐きながら首を横に振り、顎で階段を指し示す。


 下りた先は、うらぶれた感じのするボロ酒場。でも、昼間から呑んでいる奴らが何人もいる。


 いつも通りだった。


 もちろん、このすべてが何かあった時のためのもの。


 見た目は、どこまでもただのボロ酒場。だが、ここは正真正銘の『闇ギルド』である。


 酒場としても、きちんと営業している。酔いつぶれている客も本物だ。まごうことなく酔いつぶれている。


 とはいえ、ここの連中はとにかく用心深い。たとえ、酔いつぶれていてさえも。


 それは酒場の雰囲気にもしっかり出ている。


 空気が違う。どこかピリピリとしている。だらしない連中がだらしなく酔っているだけなのに、店の空気は独特だった。


 そんな酒場の一角に目当ての人物はいた。


 傷まるけの丸テーブルで、こちらに背を向けてチビチビと安酒を舐めている。


「よう、フォージ」


 兜のバイザーをあげながら声を掛けると、茶髪でヤセギスな男が顔を上げて振り向いた。


 ……と同時に、口の中の酒を吹いた。


「ソード……。お前なんつー格好してんだ。ここがどこだかわかってるのか?」


 衛兵セットフル装備の俺を見て、口から噴き零れた酒を袖で拭きながら言う。


「爺さんは問題なく通してくれたぞ」


「あの爺さんも大概だな」


 呆れたように、フォージは大きなため息を吐く。


 許可をとることもなく、俺も同じテーブルに着いた。椅子が鎧の重量に悲鳴を上げたが気にしない。


 ここの備品なんぞ日替わりみたいなもの。みんながすぐ壊すから、そのうち新しくなる。


 だから、少しくらい壊れても問題はない。


 当然、フォージも何も言わない。自分のグラスを、ちびりと再び舐めただけだった。


 俺も含めて、ここにいる奴らの認識などそんなものだ。


 こいつは、みんなに『出っ歯のフォージ』と呼ばれている。


 まだ若いが、ギルドのなんでも屋をやっている。


 仕事を選ばない男である。受けるかどうかは、儲かるかどうか。シンプルでわかりやすい。


 ざんばら髪の長髪。片目を隠していて陰気そうに見える。


 でも、意外にお調子者で人懐っこい。


 ……のだが、多分こいつの本業は『殺し屋』だ。


 証拠など何もないが、時折どうしようもない血生臭さを感じる。


 そういう奴は、たいてい血生臭いことを『生業』にしている。口は嘘を言うが、気配が嘘を吐くことは少ない。


 とはいえ、このギルドではそんな人間は珍しくもない。


 そして、そういう人種と付き合う賢い方法は『知ろうとしないこと』である。あるいは、知っていても『知らないふりをすること』。


 だから、今日もそのように振る舞う。


「おい、フォージ。俺が着ているコレなんだがな。お前、買わねぇ?」


「あん? コレって、その鎧をか?」


「そう。その鎧を、だ。もちろん、このハルバードも。かっぱらってきたてのほやほやだぜ? まごうことなき正規品だ」


 そう言って、手の中のハルバードを軽く掲げて見せてやった。フォージは片眉を動かしながら、そのハルバードに半信半疑な視線を向ける。


「わざわざ盗みに入ったんか?」


「まさか。呼ばれたから行ったら、人を馬鹿にしくさりやがってよぉ。頭に来たから大暴れして帰ってきた。これはその駄賃」


「お前、やっぱりとんでもねぇ阿呆だな」


 心底呆れたように、再びため息を吐くフォージ。


 そんな奴には一言。


「ほっとけ。で、買うのか買わんのか」


 兜を脱ぎながら詰め寄った。こういうのは押しが肝心。


「そりゃ、正規の物なら色々使い道があるから買うけどさ。お前、こんなことしたらしばらくはお尋ね者じゃね?」


 真顔で尋ねてきた。


 そりゃそうだろうが、仕方なかろうが。


「だから、逃亡資金がいるんだよっ。……おっと、足元見ようなんざ考えんなよ? 泣くぞ? 周囲三百メートルに響く大声で! 泣くぞ?」


 大袈裟に両手を広げて駄々をこねて見せる。


 フォージは、いよいよメンドクサそうな顔をした。


「わかったわかった。うっとうしい真似すんな。きちんと相場で買うよ」


 首を横に振り、グラスに残った酒を一気に呷ると席を立った。


「話のわかる男は大好きだぜ」


 商談がまとまりホッと一息だ。


 ぶっちゃけ、ここで買ってくれないと、こんなものを換金するアテなんか他にない。


 すぐに、着込んでいる全身鎧を脱いでいく。


 やっぱフルアーマーは重いしメンドい。ハーフプレートの方が俺は好きだ。


 フォージは、ギルドのなんでも屋という体裁である。なので、その『表の顔』用の金庫をギルド内に持っていた。


 しばらく待っていると、奴は革袋を一つ持って戻ってきた。


 そして、そこそこ重そうな革袋を投げてよこす。


「ほらよ」


 落としそうになるのをなんとか堪えると、開けて中身を確認した。


 ん~、よし大丈夫。


『やって』いなかった。問題ない。


「OKだ。世話になったな」


 礼を言い、すぐに席を立った。


 闇ギルドは長居するものじゃない。必要だから使うこともあるが、関わらずにすむなら関わらずにいたい場所……それが闇ギルドである。


 こんな場所にどっぷり漬かっていたら、命がいくつあっても足りやしない。


「逃げるってどこに逃げるんだ?」


 背中を向ける俺に、フォージはさりげない調子で聞いてきた。


 抜け目のないことだった。


 情報は金になる。特に、このギルドにいるような連中にとっては。


 当たり前に答えたら、儲けの天秤が揺らいだ瞬間に売り飛ばされる。一緒に酒を呑んだ翌日に、刃物を持って会いに来る。そういう奴らなのだ、ここの連中は。


 だから、(とぼ)ける。


「さあ? まだ決めてないよ。まあでも、しばらくは戻ってこられんだろうなぁ」


 ハハハと笑っておいた。


 とりあえず、いきなり船に乗るのではなく、陸続きに半島を北上し国境を越えるつもりだ。


 ランドール公国の首都ガリメデを目指そうと思う。


 チンケな我が故郷グリニアと違ってデカい都市らしいし、そんな大都市なら食いっぱぐれることもないだろう。食えれば、とりあえずはなんとかなる。


 ま、いざとなれば、またモンスターを狩ってもいいし。


 大して、今と変わらん。


 飄々と答える俺に、フォージは肩をすくめた。


「ホント考えなしだな。暴れる場所くらい考えればいいのに。いくらなんでも、王城で王相手に暴れる馬鹿がいるかよ」


「ここにいるんだよ。俺は悪くない。あのジジイが無礼だっただけだ」


「はいはい。ま、達者でな。縁があったらまた会おう」


 あっさりとしたものだった。闇ギルドの人間関係など、こんなものだ。


「気持ち悪いことを言うな。俺にそう言っていいのは、可愛い女の子だけだぜ?」


 (うそぶ)き、今度こそ闇ギルドを後にする。


 旅支度もしないといけないし、武器防具も買いなおさないといけない。忙しいのだ。

お読みいただきありがとうございました。


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