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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第45話 スカーレットナイト




「クソッたれが!」


 槍を構えて柄で払う。


 カタカタカタッ。


 歯を打ち鳴らしながら、スカーレットナイトは熟練の騎士かと見まがう動きで盾を突出し、こちらの動きを封じてくる。そして、


 ブン────ッ。


 感情のない斬撃を遠慮なく振り下ろしてきた。


 ギャリッ。


 火花が散りそうな勢いで、槍の柄とブロードソードがぶつかり力比べに。


 だが────。


 ブンッ。ブンッ。ブンッ。


 目の前の奴一体だけじゃなく、周囲の奴が同じ動きで剣を振り下ろしてくるからたまらない。


 ヤバッ。


 肉を斬られる。皮だけじゃすまない。そう思った。


 しかし、そうならなかった。


 周囲に青白い魔力の盾が浮かび、俺を切り裂くはずだった斬撃がすべて弾き返された。


 その瞬間を逃さず、目の前のスカーレットナイトを盾ごと無理矢理蹴り倒し、安全圏に逃げる。


 目の端には、俺に向かってロッドを振っているフィリの姿が見えた。


「サンキュー、フィリ!」


 礼を言うが、たぶん聞こえない。


 大人数が地面を踏みしめる音。剣戟の音。鎧がこすれる音。魔法が炸裂する音。


 すでに乱戦になっていて、ちょっとやそっとの声では届かない。むろん、向こうの声もこちらには聞こえない。


 槍を大きく振って周囲のスペースを確保しながら、周りを確認する。


 ジュリアンは、すごかった。


 魔法の光を帯びたバスタードソードを大きく振り回し、ナルシーな平常時の姿からは想像もできない泥臭い、でも力強い戦いを繰り広げている。


 髪を振り乱し、歯を食いしばりながら、一閃また一閃と大きく剣を振って、強化されて死ぬほど硬くなっているスカーレットナイトの骨を断ってバラバラにしていく。すでに何体も行動不能にしていた。


 一方タリアは、ジュリアンの後方にスカーレットナイトが回り込まないようにうまくサポートしているし、エレアノールは大きく離れて朗々と呪文を唱えている。彼女の呪文が何かはわからないが、複数のスカーレットナイトが光の柱に包まれてボロボロと崩れていくのが見えた。鎧や剣を残して塵化していた。


 さらには、いつの間に合流していたのか、マッシュ・キリー・ブロンコの三兄弟もいた。


 彼らは互いの背中を守るように円陣を組み、バトルアックスを力任せに振って、スカーレットナイトを鎧や盾ごと粉砕していた。


 なんとか崩されずに堪えている──が、旨くない。これじゃあ、挟撃されているようなもんだ。


 ジュリアンらが連れてきたのと、マッシュらが連れてきたので計四、五十体のスカーレットナイトに左右から挟まれて襲われている格好だ。


 一緒にいたのがジュリアンたちじゃなかったら……。


 そう考えるだけで、体を伝う汗が冷たく感じる。


 俺は、どっちをフォローに行けばいい?


 こんな状態では、一番腕のない俺でも数のうちだ。仕事をしないと生き残れない。


 大きく首を振りながら両方の戦局を睨み、ジュリアンの方に走る。


 マッシュら兄弟の呼吸はピッタリで、横から手を出す余地がない。それに、獲物がバトルアックスなのもいい。骨野郎相手には、鈍器や斧は相性抜群だ。


 ロングソードに持ち変えるか? いや、今はリーチ優先だ。


 槍でもロングソードでも、スカーレットナイトとの相性は悪い。だが長さがある分、槍の方がまだマシというもの。


「よっしゃ。こっちは任せろ!」


 ジュリアンが大きくバスタードソードを振った死角に滑り込むようにして入り、背中を合わせる。


「ナイスタイミングだよ。ソード君」


 俺が視界に入ったらしいジュリアンが顎を突き上げ、目にかかりそうな前髪を跳ねあげながらニィと笑った。




「しかし、参ったね。この数はさすがに想定外だよ」


 ひたすら槍を振り、剣を振る時間がしばらく続いていた。


 敵の攻勢が多少マシになった頃、背中合わせのジュリアンがぼやく。


 その瞬間、振った槍の尻が骨野郎のハーフプレートとタセットの間にうまく入り、腰骨の継ぎ目を破壊した。


「さっきの爆発のこともある。あれ、絶対ユリウスたちだろ」


「多分ね」


 チラと炎が上がっていた方を見るが、今も燃え盛っている。あの後、いくつもの爆発音こそ聞いたが、状況を見る余裕はなかった。


 しかし、ようやく敵方の数が減ってきた。もう十体もいない。


 おかげで、だいぶ余裕が生まれている。


 ホッと一息。


 ……吐こうと思った。


 だが次の瞬間、この戦場に駆け込んでくる者たちが目に入った。


 一人は泥まみれ、頭からも血を垂れ流している。体も鎧も傷まるけのユリウスだった。


 そして、そのユリウスは気を失った女性を背負っている。


 更に、もう一人。大きな切れ込み傷まである半壊した盾を持ったフルプレートの戦士。足を引きずっていた。


 ちょうど、ユリウスらのことを口にした瞬間だったからビクリとさせられたが、悠長に声を掛けられるような状態ではなかった。


「ジュリアン!」


「ああ、わかっている」


 俺とジュリアンは、背中合わせのフォーメーションを崩すことなくユリウスの方へと走る。


 だが────。


 女の子を背負ったユリウスを守っていた戦士が、目の前で力尽きた。


 三方向からスカーレットナイトの斬撃が飛び、それを防いだところで悪臭振りまくアメーバ状のものが足から這いのぼり、男にまとわりついたのだ。


 ポッ、ポッ、ポッ。


 男にまとわりついたヌンビが、振り子時計の様に一定のリズムを刻みながら静かな光を放つ。いくらもしないうちに男は目の光を失い、膝からくずおれた。


 そして、そこにスカーレットナイトの剣がいくつも飛んだ。


 一番迎えたくない最期だったと思う。


 だが、目の前で起こった。


 そのあまりにもあっさりとしすぎた終わりに、体中に震えが走った。


 ヌンビにまとわりつかれたらお終いだ。光っているうちに体から引き離さないと、命を吸われて、ああなる。


 眉根に皺を寄せた難しい顔をして、ジュリアンが首を横に振った。どうにもやりきれない思いが、これ以上なく漏れ出ていた。だがすぐに、


「ユリウス君! エレアノールの方に、そのまま走れ!」


 大きく指さしながら指示をする。


 潜った修羅場の数の差だろうか。感情で動きを鈍らせていない。


 ユリウスは返事する時間も惜しいとばかりに、血走った目をしたままジュリアンの指示に従って走る。


 確か八人だったはず。それがいま二人しかいないってことは……。


 そんなことを考えながら、槍を振り防御を担当する。骨相手に槍での攻撃は不利だから、自然とそういう役回りになっていた。倒すのは、ジュリアンの役目だ。


 だが、実際に大きく数を減らしてくれているのは、フィリとエレアノールの魔法、そしてタリアの符術だった。


 三人とも火炎を使って、一気に倒していた。


 フィリやエレアノールは波打つ大炎や火炎球を放って焼き払い、タリアはどういう仕組みか符を炎の鳥に変えてぶつけている。ぶつかった炎の鳥は、そのままスカーレットナイトを丸ごと大きな炎で包んで焼き尽くしていた。


 そして、最後の一体をブロンコの二本の斧が打ち砕いた時、突然始まった狂気と死の宴は終わりを告げた────。

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