第43話 潜入
旅立ちの森のモンスターどもが騒ぐ新月の夜────。
俺とフィリ、ジュリアンとその仲間二名。そして、キリーのところの三兄弟で静かに神殿へと近づいていく。
ジュリアンの仲間は女が二人。一人は符術も使う女忍びタリア。もう一人は、古代語魔法も使うヴィルマ教の司教エレアノール。
キリーのところの三兄弟は、長男がリーダーのマッシュ。末弟がブロンコ。全員バトルアックスを使うファイターで、ブロンコは二本持ちという変わり種だ。
照明はもちろん月明かりもない中、草木をかき分けながら進むのは骨が折れる。しかし、リスクを少しでも減らすためにはやむをえない。
「……ユリウスらは、もう回り込めただろうか?」
手で押さえてもすぐに跳ね上がってくる枝に辟易としながら、前を進むジュリアンの背中に呟いた。
「大丈夫だよ、ソード君。ユリウス君たちは、最近メキメキと頭角を現してきた期待の新勢力でね。若いけど、結構な実力者なんだよ。抜かりはないはずだ」
あれほど髪が乱れることを嫌がっていたジュリアンだが、こんな状態の行軍でも嫌そうな気配一つ見せない。
そりゃあ、これを提案した張本人なのだから文句はないだろうが、先の打ち合わせの時のことを思うと、正直びっくりだ。
偽物と本物の違いって、多分こういうことなんだろう……。
そう思わずにはいられない。
薮をかき分けながら、更に進んでいく。
すぐに神殿が見えてきた。星明りのみが頼りだが、その巨大さだけははっきりとわかった。
「……デケーな」
一番前を歩いていたマッシュが足を止めてボソリと呟く。キリーが言っていた通り、口数は少なそうな感じだった。
改めて、俺も目の前の巨大な影を見る。
前情報通りに、山際に沿っていくつもの建物が造られているのがわかる。そんな建物群を、二階建ての建屋に迫ろうかという高さの壁がぐるりと囲んでいる。
もうちょっと、なんとかならんかな……。
葉がこんもりと繁る枝を押さえつけながら、ソロッと首を伸ばして目をガッツリ開く。
高い石壁の上ではいくつもの松明が明々と灯されているが、人の気配は全くない。
まさに森の中の神殿という感じで、土臭い森の匂いが……って、ちょっと待て。これは……。
スンスン────。
鼻を鳴らしながら、風の匂いを嗅ぐ。
微かに……ほんの微かにするこれは腐敗臭。いや、死臭だ。
「なあ、この臭いって……」
思わず口から零れる。
「ヤな臭いなの」
「死臭だな」
頭上にいるフィリが。そして、すぐ側にいるブロンコが応えた。やはり、俺の気のせいではないらしい。
「神殿で死臭。あまり良い予感はしないなあ」
軽い調子の割には重いトーンで、ジュリアンが呟く。
「……人の気配もないし、このまま石壁を登るか?」
誰にという訳ではなかったが提案してみた。
「そうだね。タリア、頼めるかい?」
「わかった」
ボソリと呟くように返事をするタリア。紹介しあった時にも口数少ない印象があったが、マッシュといい勝負だ。
タリアは懐からナイフのような道具を取りだし、石と石の隙間に突きたてながらスルスルと高い壁を登っていく。
暗すぎてシルエットしか見ることはできないが、腰まである長いポニーテールをフリフリと揺らしながら、しなやかな肢体を躍らせる姿には、ほぅとため息が漏れた。
上に辿り着いたタリアは、流れるような動作でサッと縄梯子を投げ落としてくる。
『勇者と美姫たちの協奏曲も『焼肉が食いたい!』も、ランドールに来てまだ日の浅い俺でも知っているエリートチームだ。
それはわかっているが、こうして行動を共にすると、やはりただただ感心させられる。
独り唸っていると、
「じゃ、先に行くの」
フィリが、頭の上から飛び立っていった。
「では、私たちも行こうか」
そう言って、ジュリアンも自ら縄梯子に手をかける。
その後に続く。
縄梯子がギチギチと音を立てて揺れた。
いよいよかと、気持ちが高ぶらずにはいられなかった。
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