第42話 邪教の徒
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ソードらが襲撃計画を練っている頃────。
旅立ちの森の神殿では髪を剃り上げた中年の男が、歪な巨像の前で恍惚の表情を浮かべていた。
醜く太った体を歓喜でうち震わせながら、跪き、両手を組み、祈りをささげている。
巨大な祈りの間には、男の他にひと気はなかった。あちこちに置かれた松明の明かりは、薄暗い空間に、像と男──二つの影だけを踊らせる。
耳が鳴るような静寂の中、巨大な像は男を見下ろしていた。
上半身は裸の女。だが下半身は、見る者の怖気を誘う無数の触手がうねっている。更には手が八本あり、髪はよく見ると一本一本が蛇という──普通の人間が見れば、あまりの禍々しさに嫌悪感しか沸き起こらない姿をしている。
しかし男は、まるで恋い焦がれる相手を見るような熱っぽい表情で、像を見上げ祈りの言葉を口にする。
耳障りな甲高い声が、静寂のホールに響いた。
「おお……美しきインヴァリダ。今日も、か弱き私に愛をお与えください。我らの悲願を叶える為に、その力をお貸しください」
男の名はペイオロス────。
七欲の徒と名付けられた団体で『傲慢の聖人』と呼ばれている。
脂肪で膨れ上がった体を丸めながら、ペイオロスは額に汗を浮かべて一心に祈る。
固く組み合わされた手に、一層の力が籠った。その目は血走り、この世の何も見ていない。
男の『独り言』の響く祈りの間に、真っ白なアルバを着た男に連れられて、三人の人間が入ってくる。
身なりの良い青年。ボロをまとい魂が抜け落ちたような顔をしている頬骨の出た女。そして、その女の手を握る赤いサックスワンピースを着た幼い少女。
神官衣の男は、大きくガッシリとした体を縮こまらせて片膝をついた。
「ペイオロス様。今宵、女神の腕に抱かれる幸せな者たちを連れてまいりました」
ひどくシャガレた声だった。
剃髪の施された髪は一見聖職者然としているが、歪な笑みと口元で醜く持ち上がる髭が、なんともアンバランスだ。
「アウグス。遅いですよ」
振り返りもせずに、ペイオロスは叱咤する。
「申し訳ありません」
アウグスは、ただ深く頭を下げた。
男たちの会話を聞いていても、連れられてきた大人二人は、焦点の定まらぬ目でただ空を眺めているだけだった。
しかし少女だけは、ひどく怯えて女の手をギュッと握りしめている。その顔は引きつり、口元は真一文字に強張っていた。
ペイオロスは振り向く。
瞬くことなく見開かれた眼は、怯え続ける少女を見下ろした。
うっすらと笑みを浮かべる。
その一瞬だけ、彼の目は慈愛に満たされた。
「怯えることはありません。貴女は、これから女神の身元に赴くのです」
「ヤ! お母さん! お母さん!」
微笑み見下ろすペイオロスに、少女の体の震えは見る見る大きくなる。
懸命に母を呼び見上げるが、少女の顔はすぐに絶望で縁取られた。
彼女の母は、娘の悲痛な叫びを聞いても何の反応も示していなかった。
跪いていたアウグスが立ち上がり、少女の肩に手をかけようと動く。
「さ。行くのだ」
「ヤダ!」
ついに、少女の忍耐力は限界を超えた。
どこにではなく、ただ逃げるために駆けだそうとする。
しかし────。
ガシッ。
アウグスの大きな手が、少女の細い腕を無造作に掴んだ。その顔は、歪んだ喜びで輝いていた。
「はなして!」
少女は、力いっぱいに暴れる。
しかし、アウグスはビクともしない。
掴まれた少女の腕は、白く変色している。それでも少女は、なお暴れるのを止めようとはしない。まるで、自身の運命を悟っているかのように。
狂ったように暴れている少女を見下ろしながら、ペイオロスはゆっくりと近づく。
そして、独りごちる様に呟いた。
「人は、『らしく』生きるのが一番幸せなのです。貴女も『らしく』生きて、女神の愛を受け入れなさい」
そしてゆっくりと、暴れる少女の頭上に右手をかざす。
「────ヴィオラティオ・ファティ≪運命への冒涜≫」
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