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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第42話 邪教の徒




■□■□●〇●□■□■




 ソードらが襲撃計画を練っている頃────。


 旅立ちの森の神殿では髪を剃り上げた中年の男が、歪な巨像の前で恍惚の表情を浮かべていた。


 醜く太った体を歓喜でうち震わせながら、跪き、両手を組み、祈りをささげている。


 巨大な祈りの間には、男の他にひと気はなかった。あちこちに置かれた松明の明かりは、薄暗い空間に、像と男──二つの影だけを踊らせる。


 耳が鳴るような静寂の中、巨大な像は男を見下ろしていた。


 上半身は裸の女。だが下半身は、見る者の怖気を誘う無数の触手がうねっている。更には手が八本あり、髪はよく見ると一本一本が蛇という──普通の人間が見れば、あまりの禍々しさに嫌悪感しか沸き起こらない姿をしている。


 しかし男は、まるで恋い焦がれる相手を見るような熱っぽい表情で、像を見上げ祈りの言葉を口にする。


 耳障りな甲高い声が、静寂のホールに響いた。


「おお……美しきインヴァリダ。今日も、か弱き私に愛をお与えください。我らの悲願を叶える為に、その力をお貸しください」


 男の名はペイオロス────。


 七欲の徒と名付けられた団体で『傲慢の聖人』と呼ばれている。


 脂肪で膨れ上がった体を丸めながら、ペイオロスは額に汗を浮かべて一心に祈る。


 固く組み合わされた手に、一層の力が(こも)った。その目は血走り、この世の何も見ていない。


 男の『独り言』の響く祈りの間に、真っ白なアルバを着た男に連れられて、三人の人間が入ってくる。


 身なりの良い青年。ボロをまとい魂が抜け落ちたような顔をしている頬骨の出た女。そして、その女の手を握る赤いサックスワンピースを着た幼い少女。


 神官衣の男は、大きくガッシリとした体を縮こまらせて片膝をついた。


「ペイオロス様。今宵、女神の(かいな)(いだ)かれる幸せな者たちを連れてまいりました」


 ひどくシャガレた声だった。


 剃髪(トンスラ)の施された髪は一見聖職者然としているが、歪な笑みと口元で醜く持ち上がる髭が、なんともアンバランスだ。


「アウグス。遅いですよ」


 振り返りもせずに、ペイオロスは叱咤する。


「申し訳ありません」


 アウグスは、ただ深く頭を下げた。


 男たちの会話を聞いていても、連れられてきた大人二人は、焦点の定まらぬ目でただ(くう)を眺めているだけだった。


 しかし少女だけは、ひどく怯えて女の手をギュッと握りしめている。その顔は引きつり、口元は真一文字に強張っていた。


 ペイオロスは振り向く。


 瞬くことなく見開かれた眼は、怯え続ける少女を見下ろした。


 うっすらと笑みを浮かべる。


 その一瞬だけ、彼の目は慈愛に満たされた。


「怯えることはありません。貴女は、これから女神の身元に赴くのです」


「ヤ! お母さん! お母さん!」


 微笑み見下ろすペイオロスに、少女の体の震えは見る見る大きくなる。


 懸命に母を呼び見上げるが、少女の顔はすぐに絶望で縁取られた。


 彼女の母は、娘の悲痛な叫びを聞いても何の反応も示していなかった。


 跪いていたアウグスが立ち上がり、少女の肩に手をかけようと動く。


「さ。行くのだ」


「ヤダ!」


 ついに、少女の忍耐力は限界を超えた。


 どこにではなく、ただ逃げるために駆けだそうとする。


 しかし────。


 ガシッ。


 アウグスの大きな手が、少女の細い腕を無造作に掴んだ。その顔は、歪んだ喜びで輝いていた。


「はなして!」


 少女は、力いっぱいに暴れる。


 しかし、アウグスはビクともしない。


 掴まれた少女の腕は、白く変色している。それでも少女は、なお暴れるのを止めようとはしない。まるで、自身の運命を悟っているかのように。


 狂ったように暴れている少女を見下ろしながら、ペイオロスはゆっくりと近づく。


 そして、独りごちる様に呟いた。


「人は、『らしく』生きるのが一番幸せなのです。貴女も『らしく』生きて、女神の愛を受け入れなさい」


 そしてゆっくりと、暴れる少女の頭上に右手をかざす。


「────ヴィオラティオ・ファティ≪運命への冒涜≫」




■□■□●〇●□■□■

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