第40話 神殿襲撃に向けて①
あのババア……。
神の声を聴いたとか抜かして出ていったが、『本物』になっていやがった。
アンチ団体ね。
そこまで世界が許せなくなったか……。
七欲──傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲の肯定。
ヴィルマの七つの美徳──謙虚、感謝、忍耐、勤勉、慈善、節制、純潔の否定。
わかりやすすぎるくらいに拗らせてやがる。
親父の浮気が引き金だろうが、はた迷惑もここまでいくと清々しいわ。
世界を巻き込むな。クソたわけが。
ま、でも行方がわかったことはいいことだ。
……この世のすべてを憎んだ十二歳の俺に、土下座させてやる。
とりあえずは、ババアのクソ団体ごと成敗してくれようか。泣きわめくところを腹抱えて笑えば、多少でもすっきりするだろうか。
肝心のババアがいないのは残念だが、とりあえず造りかけの神殿ぶっ壊してやれば嫌がらせくらいにはなるだろう。
……って、そういやあの子。
やっと飯にありつけたってのに、ツいていないな。
でも、すまん。運が悪かったと諦めてくれ。
なあに。大丈夫。
その気になれば、人間何とかなるって。現に俺は、今こうして生きているよ。
そんな事を考えながら、夕暮れのマロニエ通りを歩いた。
チクニーの依頼を受けたのは三日前。
ビックリしたのは、パーの部屋とガリメデ城内にある魔術師の塔が、魔法陣で繋がっていたことだ。
なんでも魔法陣の上の空間ごと一瞬で交換する魔術だとかで、カンカーラ攻略に苦労した身からすると大変遺憾だった。少なくとも、握りしめた拳が震える程度には。
だがチクニー曰く、極めて高度かつ危険な魔術だから、依頼者選びの側面がなかったとしても、一般に開放されることのない魔法技術だと言っていた。
うっかり魔法陣から手を出したまま転移したりすれば、腕が綺麗に飛ぶらしい。まして、それが首だったりしたら……。
悪い顔をして脅してくるものだから、危うくチビるところだった。首ちょんぱは、さすがにちょっと遠慮したい。
しばらく歩くと、目的地が見えてくる。
マーケス・クラウス────。
今まで縁のなかった高級店。
「じゃ。ちょっくら行ってくるから、フィリはハニービーで待っていてくれ」
「わかったの」
最近リズちゃんとも仲良しになったおかげで、フィリはウキウキしながら飛んで行った。
さて……と。
今回の仕事は、俺含めて四チームで臨む。なので、今日は仕事前の顔合わせと確認だ。
マーケス・クラウスは相も変わらず繁盛している。
店内は外から見た以上に広く、パッと見では数えられない台数の丸テーブルに、奥にはデカくてピカピカに磨かれたカウンター。
中には、何人ものバーテンダーが立っているのが見える。棚にも、思わず喉が鳴ってしまう高級酒のボトルが沢山並んでいた。
中二階のバルコニーからは金糸で縁取られた深紅のスワッグが垂れ下がり、ドレスで着飾った女の子たちと目が合うと投げキッスが返ってくる。
席は、ほぼ満員御礼状態だった。
これ……どこにいるんだ?
ぶっちゃけ、こんな高級店になんか入ったことがない。ただでさえ落ち着かないのに、目的の人物たちらしき姿も見当たらない。
キョロキョロと周りを見渡す。
すると、
「いらっしゃいませ~。御一人様ですか?」
金髪ロングのストレート。メリハリの利いた体の、やたら美人なウェイトレスに声を掛けられた。
振り向いた瞬間、呆気にとられた。
高級店は、ウェイトレスも高級だと思わずにはいられない。というか、この娘は料理を運んでいるより、二階に行った方が確実に稼げるだろうと思わずにはいられなかった。
たぶん、この店の女王になれる。
なんか良い匂いもするし。上に居たら、どっかに忍び込んででも一戦を夢見たことだろう。
「あ、ああ。ここで待ち合わせをしているんだが、どこにいるのかが分からなくてね」
内心を隠しながら答える。
すると彼女は、ポンと手を打った。
「お名前を確認しても?」
「ソード。ソード=マスターだ」
「やっぱり。ジュリアンさんとキリーさんともう御一方が、奥の部屋でお待ちよ? こちらにどうぞ」
そう言って、後についてくるように促してきた。
もう三人ともいるのか……。
一つ咳払いをし気合を入れなおすと、彼女の後ろをついていく。
カーテンを越えて薄暗く狭い通路を進むと、奥にポツンと扉が一つ。格式の高い店だと、こんなものまであるのかと驚かされた。
扉の前まで来ると、彼女はコンコンとノックした。
「ジュリアンさん、キリーさん。お連れ様よ」
すぐに扉が開く。
中からはウェーブのかかった金髪ロンゲのイケメンが現れた。歳は二十代半ばくらいだろうか。
「ありがとう、マルセリカ。君がソード君かい?」
イケメンが笑顔で前髪を掻き上げる。悔しいが絵になっていた。だが……。
「……む? いかん。ついやってしまった!」
サッと胸ポケットから櫛を取りだし、髪型を直す。一ミリの狂いもない。ヘアサロンのスタイリストでもやれそうな腕前だ。
「あ、ああ。遅れてすまない。ソード……ソード=マスターだ」
名乗ると、イケメンは部屋の入口を譲って中に入れてくれた。
「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ」
案内してくれた女の子は、早々に引きあげていく。教育の行き届いたプロの振る舞いに感心してしまう。
「さ、こちらに」
呆けていたら、イケメンに空いていた椅子を勧められた。
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