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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第38話 反則だらけの最深部




 翌日、ガンコおやじに塞がれた玄室に向かうと、あれ程にウジャウジャいた奴らが綺麗サッパリいなくなっていた。


「言った通りなの」


 鼻高々で、フィリの奴がまたふんぞり返っている。


 だが、今回ばかりは返す言葉がない。実際、知識も含めてフィリがいなかったら完全に詰んでいた。


「エラい! すばらしいぞ、フィリちゃん!」


 無論、拍手も忘れない。


 しかし……。


「ソードが素直だと、なんか気持ち悪いの……」


 全力で渋柿を頬張ったような顔をして、舌をベェッと出している。


 どないせいっちゅうねん。


 まあでも、これで道は開いた。


 塞がれていた扉を開き、奥へ奥へと進んでいく。


 玄室の奥は、曲がりくねってはいるものの、ひたすらに続く一本道。分岐路がない。


 あちこちで岩壁から水が染み出ていて、通路に生えている苔で足が滑りそうになるが、それ以外に問題らしい問題はなかった。


 というか、問題ないのが問題だった。


 まず、あれ程に充満していたモンスターの気配がまったくない。ウソだろと思えるレベルで感じない。排泄物も落ちてなければ、あれ程聞こえていた唸り声もまったくなくなっている。


 強烈な違和感に、むしろ緊張せずにはいられない。


 歩くたびにグチュグチュと音のする通路を奥に向かって、どんどん進んでいく。


 すると、ついに突き当たりにあたった。


 正面にはプレートが貼ってあり、横面には扉がある。


 プレートを読んでみると……。


『宮廷魔術師団カンカーラ事務所。営業時間はAM9:00~PM5:00。土日祝はお休み』


 と書いてある。


「「……これは何かのギャグなの(か)?」」


 俺とフィリの呟きは、綺麗にハモった。




 カンカーラ迷宮9F────。


 王の立て札に煽られて、冒険者が自らの命を天秤棒に乗せる場所。


 ふざけた看板に出迎えられ、やるせない思いを胸に扉の中へと飛び込む。


 そこでは、片眼鏡をかけたロンゲの優男が、額縁の中で磔になっている女物のパンツに向かって柏手を打っていた。


 もうね……やってらんねぇ────ッ。


 カランカラン。


 玄室に空しく響く、転がる槍の音。


 その場にへたり込んだ。


 フィリの奴に至っては、突っ込んだ姿勢のまま空中で固まるという器用な芸を見せている。


 そんな俺たちに、微笑みを浮かべながら尋ねてくる穏やかな優男。


「ご到着にござるな。そろそろではないかと思っていたのでござるよ。名前を聞いても良いでござろうか」


 せめて、磔のパンツに柏手を打っていなければ……と思わなくもない。


 だが、俺の体は力を入れることを拒否している。口を開くのも億劫なくらいだ。


 でも、黙っている訳にもいかない。


「……ソード。お前は、パー=ベルシオン?」


 尋ねると、まったく敵意を感じない顔で頷いてくる。


「いかにも。拙者、宮廷魔術師団 第三……元第三師団長 爆炎のパー=ベルシオンにござる」


 ……え~。第三師団長?


 俺より少し上なだけに見えるが……。そんな大物がなんで反旗を翻してんだよ。


 混乱してきた。


 俺の頭上に、ようやく我に返ったらしいフィリが飛んできて腰を落ち着ける。ただ、無言のままだった。


「ご丁寧な自己紹介どうも。で、俺らはあんたを倒して杖とパンツを取り返す為にここに来たんだが……どうしたらいい?」


 自分でも大概だと思う。でも、こんなの聞くしかないじゃないか。


 しかし、その時────。


「いや、そこの馬鹿者を倒してもらっては困る」


 迷宮の底に相応しくない、少女の声だった。


 部屋の奥にあるソファの上で、何かがモゾモゾと動いている。


 そして、この時はじめて、部屋の中を見る余裕すらもなかったことに気づいた。


 部屋の中はかなり広く、奥にもさらに部屋がある。


 手前の方には何もなくただ広い空間があるだけだが、奥の方には机やら、怪しい実験器具やらがあり、ぎっちりと詰め込まれた書棚も何本も並んでいる。


 部屋の主人の性格のせいか、部屋のあちこちに無造作に積み上げられた書類の山がいくつもあった。


 それらが、魔光石のランプに照らされて確認できる。


 モゾモゾと動いている人物は、一生懸命起き上がろうともがいていた。そんな姿も、なんとか見せてくれた。


 声の通り、まだ少女と言ってもいい年頃に見える小柄な女の子だった。


 腰まで届きそうな緑色の髪を頭の後ろでまとめ、本物の馬の尻尾みたいな長いポニーテールにしている。時折ピクピクと動く耳は、人間のものより長く尖っていた。


 いや……そんなことより……。


 金色?


 瞳の色が金色に輝き、まるでドラゴンの瞳のよう。瞳孔こそ人の物と大差ない形に見えるが、色は明らかに特殊だ。


 それにしても、なんだこれ?


 変態イケメンに、金目の美少女?


 情報多すぎ。勘弁してくれ。


 頭の上のフィリを落さないよう、静かに首を横に振りながら尋ねる。


「で、お前は?」


 少女はこちらに向かって歩きながら、臆するところもなく堂々とした態度で名乗った。


「儂は、宮廷魔術師団総師団長 チクニー=ブレスハートじゃ」


 ……宮廷魔術師団の総師団長?


 何それ、怖い。


 つか、なんなんだよ。それは……。

お読みいただきありがとうございました。


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