第37話 ガンコすぎるおやじ
処理しきれない感情を胸に、空を見る。
日は少し傾いていて、おおよその方角を知ることができた。
森から出るため、東に歩く。
旅立ちの森は、ガリメデ北部から南西部にかけて町と接している。だから、東に向かえばまず町のどこかに出る。
で、東に向かったら……なんとびっくり、そう歩くことなくすぐに森を抜けた。しかも、バルクの近く。景色に見覚えがあった。
バルクはガリメデの北の端にあるが、そこから森に入るとすぐにカンカーラの裏口があったということになる。
ビックリしたと同時に、膝からくずおれることになった。今までの苦労はなんだったのかと。
さんざん僻地から城まで歩いて、そこからカンカーラに入っていた身としては笑えない。
仕方ない。
それは、そう。でもさあ……。
とはいえ、愚痴っていても仕方ない。
明日からは、これを使おうと心に決める。出入口に洗脳装置があるのが気に入らんが、城まで延々と歩くことを思えば十分許せる。
そして翌朝、決めた通りに森の裏口からカンカーラに入ると、ビックリするほど早く9Fの玄室に着いた。
乾いた笑いが出る。
それくらいは仕方ないと思う。
フィリが気味悪そうにしていたが、さすがに我慢できなかった。
でも、とりあえず気を取り直して確認をする。
「で、このスタッフで像の背中を掻けばいいのか?」
「それでいいはずなの」
「よし。じゃあ、手早く行くか。こんだけあると、背中を掻いてまわるだけでも一仕事だ」
腕をまくり、孫の手を構えて像の背中に回ろうとすると、フィリが慌ててストップをかけてきた。
「あ、待つの。言うの忘れてたの」
「え?」
「一つだけでいいの。一つ解けると、周りのも連鎖して解けていくの」
そういう事は早く言ってくれ。
「おい。全部やるところだったぞ」
高価なアイテムの無駄遣いとか、シャレにならん。
「ああ、その心配はないの。やれないの」
「……なんで?」
「どうせ、一体解いたら孫の手は壊れるの」
「え?」
「だから、一体掻いたらお終いなの」
こいつ何を言っているんだという顔でフィリはこちらを見てくるが、その顔はむしろ俺がしたかった。
百万もするアイテムが一発で壊れるの? ウソだろ?
「……壊さずに済む方法ってない?」
「ないの。そのお尻についている石に魔力が込められているの。でも、その魔力は一回分しかないの」
手の中の孫の手を見る。人の手のような先端の反対側に小石がついていて、魔力の光が灯っている。
これ、一回分なの?
「……もっぺんチャージとかできん?」
「出来るわけないの! あきらめるの!」
聞き分けのない子供を叱る母親の様にプンスカと湯気を出しながら、小さな両拳を振り上げて見せるフィリ。全力で力説された。
はあ……ダメか。
使うだけ使って売っぱらえばウハウハだと思っていたが、野望は迷宮の闇の中に消えた。
なかなか、旨い話はない。
仕方ねぇ。
本当に……本っ当にっ不本意ながら、孫の手を構えて一番手前のガンコおやじの背中を掻く。
尻の石が一瞬輝き、すぐに消えた。フィリの言っていた通りだった。
「ソード、こっちなの。そこにいちゃダメなの」
玄室の外からフィリが手招いている。
いつの間に……。
慌てて、小走りで向かった。
「側で待ってちゃいかんのか?」
尋ねると、フィリは大きく首を縦に振った。
「ダメなの。また雷おやじとの戦闘になっちゃうの」
え?
「……それはヤダな」
「ガンコおやじが解けた雷おやじは、機嫌は良いの。だけど、側に自分たち以外がいたら、また怒り出しちゃうの」
「最悪だな」
「だけど、放っておけば気分がいいから勝手にどっか行っちゃうの。今日すぐって訳にはいかないと思うけど、明日には多分いなくなってるの」
「めんどくさ」
「雷おやじは、こっちの思う通りには動いてくれないの! また戦いになって、ガンコおやじに道を塞がれたいの?」
「いや……それは勘弁」
「だったら言うこと聞くの! 今日はもう帰って、明日出直すの!」
言い切られ断念するしかなかった。
しかし、世界は広い。
あんな冗談みたいなナリで、これ程に厄介なモンスターがいるなんて思ってもみなかった。
正直、コレに出くわすくらいなら、ファイヤードラゴンの逆鱗抜き取ってくる方がマシなレベルだ。
ずいぶん早く着いたのに探索を続けられないのは残念だが、今日はアガリだ。やむをえない。
素材として売れそうなモンスターに出会うことを祈りつつ、上に戻ろう。
久しぶりに、昼からダラダラ呑むのも悪くないな。
そのくらいの金はまだ残っていたと思うが……。
腰の皮袋を開けて見る。
……確認してよかった。
ハニービーでも、許されるのは三杯までだった。




