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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第35話 カンカーラ、もう一つの出入口




「…………」


 来た道を戻り、交差路に差し掛かる。


 そういや、兄さんが言っていたな。


『貧者の村の入口は大樹海にある』って。


 一度、こちらから帰ってみるか。


『右』の道を睨む。


 後ろが貧者の村ってことは、この先が出口に繋がっているはず……。


 よし、決めた。


「おい、フィリ。こっちに行くぞ」


「?? 帰り道はこっちなの」


 やって来た左の道を指さす。


「ああ。でも、村の入口が樹海にあるらしくてな。ちょっと確認しておきたいんだよ。もし本当なら、城以外からカンカーラに入れるってことになる。結構なお宝情報だ」


 ……もっとも、宮廷魔術師団の管理区に繋がってしまっているから、いつまで使える情報かはわからんが。


「? ふ~ん」


 わかったような分かっていないような──そんな顔をして、フィリは頷いた。


「ちと早いが、今日はこのままアガろう。孫の手も手に入ったし無理をすることはない。『こっち』経由で戻っておしまいだ」


『右』の道を親指で指し示す。


 そして、そっちに向かって歩き始めた。




 右の道は、緩やかに地上に向かって上っていた。


 通路の壁に変化はない。ただの岩壁だ。


 補強すらも最低限で、ほぼ掘ったままの剥きだし状態で、いつ崩れてもおかしくはない。


 カンカーラと違うのは、やや湿気が強くコケの類がちょこちょこ群生しているところだろうか。


「ずっと真っ直ぐなの」


 フィリがポツリと呟く。


 確かに、今までの通路と違い分かれ道というものがない。それどころか、曲がってもおらず、ただ真っ直ぐに上り坂の一本道が伸びている。


「そうだな」


 とりあえず同意し頷くが、フィリではないがこう平坦だと飽きてくる。


 出会いたい訳ではないが、モンスター一匹出くわすことはなかった。


 これ……大丈夫だろうか?


 ちょっと不安になる。


 樹海に繋がっているならモンスターか獣の痕跡ぐらいはあってもよさげなんだが、それがない。


 いま差し迫った危険はない。平和そのものだ。


 ただ……先ほどから、何とも言えない感覚があるのも気になる。


 頭の中に手を突っ込まれてかき回されているような……自分の思考に何かが介入しようとしているような、そんな不快感が止まらない。


 だが、そう思っていたのは俺だけじゃなかったようだ。


「……なんか、ヤな感じなの」


 再びフィリが呟いた。


 可愛らしい鼻にシワを寄せ、何もない空間を睨んでいる。


 気になって尋ねてみた。


「ヤなって……具体的には?」


「ここ……おかしいの。変な力を感じるの」


「ほう」


「先に進めば進むほど、『思考力を奪うような』力を強く感じるの」


 え……それ不穏過ぎんぞ。


「マジかよ」


「マジなの」


 思考力を奪うって……なんとも厭らしい。悪意しか感じねぇ。


「これ、このまま進むと俺たちもヤバい?」


 尋ねると、フィリはシワの寄った鼻をピクピクと動かしながら迷いなく断言した。


「このままだとマズいの。たぶん、引き返した方がいいの……。でも、そうしないなら、せめて抵抗力を上げる魔法を先に使っておくの。幸い、強制力は低いの」


 強制力は低い……か。


 低くしてある?


 それとわからんように術を掛けようってか……。


 技量不足……ってことはないな。


 こんな場所に大々的に罠を張るような奴が、それはない。


 やっぱ、そうしてあるとみるべきだ。


 う~ん。


「よし。フィリ、その抵抗力を上げる魔法ってのを使ってくれ。このまま先に進もう」


 このまま引き下がるなんて、冒険者のやることじゃねぇ。


 アブネェ臭いと、金の匂いがプンプンする。


 怪しい連中が大樹海でなんかやっているって、兄さん言ってたしな。それに町中の人(さら)い……。更には、この思考力を奪うってトラップ。


 ちょっと運気が向いてきたか。


「え~~。ソード物好きすぎるの」


 フィリが、変なものを見るような目でこちらを見る。


「馬鹿。そうじゃねぇ。これ……ヘタすると宝箱より金になるかもしれん。こんなの無視するなんて、勿体なさすぎるぞ」


「そうなの?」


 キョトンとした顔になった。


「そうなんだよ。俺の勘を信じろ。ソードさんの勘は野生動物並みだぜ」


 ふふんと鼻を鳴らして、自信満々に答えてやった。


 だがフィリは、


「……雷おやじに突っ込んだクセに」


 と呟く。


 無論、聞こえなかったことにした。


 さらにブチブチ言いながらも、フィリは呪文を唱えてくれる。すると、頭の中に手を突っ込まれているような不快感が消えた。


 フィリの言っていたことは、間違っていなかった。


 周りを見ても何もないが、確かに何がしかの影響を受けていたらしい。


 ……やっぱ厭らしい。


 これ、絶対何かある。


 念のため、フィリに頭の上に乗っているように伝えて、警戒しながら先へと進む。


 すると、すぐに光差し込む出口が見えてきた。


「出口みたいだな」


「何もなかったのが、逆に気持ち悪いの」


 訝るように、フィリが低い声を出す。


「そうだな。まあでも、何もないなら何もないでいい。まずは、いったん外に出よう」


 そう応えて出口の方へ進もうとすると、フィリが俺の髪を強く握って制止した。


「待つの! 何か聞こえるの!」


 え?


 耳を澄ましてみる。確かに、何かが聞こえる。


 人の声だ。

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