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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第32話 ヤバいものはヤバく見せるべき①




 橋を渡って、玄室入口側まで慎重に近づく。


 フィリの奴は、入口の陰からそ~っと中を伺った。


 そして、一言。


「……うぇ~。マズいの。うじゃうじゃいるの」


 まるで、大嫌いなおかずが山盛りで出てきた時のような顔をするフィリ。


「マズいって何が」


「雷おやじの群れがいるの……」


 雷おやじ??


 言われて、俺も中を覗く。


 俺の鳩尾ぐらいまでしかない体高。ダルマのようなずんぐりしたフォルム。


 そんなよくわからん生き物の群れが、確かに玄室を占拠していた。


 しかも、数が尋常じゃない。ざっと30はいる。


 丸眼鏡に、歯が数本の櫛ハゲ。ちょび髭まで生やした何か。


 気難しそうに眉間にしわを寄せている。人間というにはフォルムがおかしく、モンスターというには可愛らしすぎる。


 強いて言えば、着ぐるみだ。


「なんだ、あれ」


「だから、雷おやじなの。しかも、青筋立てているの。マズいの」


 フィリのしかめっ面が戻らない。なんかわからんが、心底嫌がっているのだけはわかる。


 でも、こんなへんてこなものを、なんでそんなに嫌がってんだ。


 こんなの蹴散らしゃいいだろうが。


 数は確かに多いが、ヘルハウンドの群れなんかよりははるかにマシだろう。


 馬鹿らしい。チャッチャと片づけて、先に進むぞ。


「あんな、ひげチャビンに何ビビってんだ。ホレ、行くぞ。さっさとついてこい」


 手の中の槍を握りなおすと、腰が引けているフィリを置いて、さっさと中に躍り込んだ。


「あっ! ソード、駄目なの!」


 フィリが騒ぐ。


 でも、こんなのに構っている暇はないんだ。さっさと片付ける。


 もう9F。2000万マリスが目前なんだ。




 我ながら、すばらしい奇襲が決まった。


 草原で獣どもと鍛えた足腰は、今日も健在。絶好調。


 地を這うように走り、一番手前のおっさん一匹に電光石火の一撃。


 槍は、おっさんの心臓へとまっすぐに突き立った。


 目を見開き絶命するおっさん。


 この期に及んで、コメディーの様に大の字になって倒れた。


 ホレ見ろ。やっぱ数だけじゃん。


 やれる──確信する。


 すぐに槍を構えなおして、次を突く準備に入った。


 ────だが、この時。


 生物としての本能が『逃げろ!』と、突然訴えかけてきた。


 背中を走る怖気。体中の毛が逆立ち、鳥肌が立つ。


 ……そして、足がもつれた。


「ダメ! ソード、逃げるの!!」


 フィリが再び叫ぶ。


 ……が、ちと遅かった。


 まだまだウジャウジャいる雷おやじどもは、仲間が殺されたのを見て顔を真っ赤にしていた。そして、


「くるぁ! どこの小僧だ!」


「逃げるな! 悪いことをしたらごめんなさいじゃろが!」


「さっさと帰ぇりやがれ!」


 各々が訳のわからんセリフを吐き出す。


 いや、そこまではいい。百歩譲ってよしとする。


 でも────。


 ビシャ────ン!


 目を赤く光らせ、電撃を飛ばしてきやがった。短い手を伸ばし、明確な殺気とともに放ってくる。


「どわっ」


 ギリかかわす。


 が、体の横を走り抜けた電撃は、ダンジョンの岩壁を削って白い煙を上げていた。


 こうなると、『そこまではいい』なんて言っていられない。


 ヤ……ヤバいかも?


 そう思ったが、後の祭りだった。


「逃げるな馬鹿者!」


 ビシャン!


「わひゃっ!」


 すぐに次が飛んでくる。


 足元に着弾し、片足を上げて直撃を回避するも、逆足にビリビリと電気が走った。


 でも、それで終わらない。


 ビシャン、ビシャン、バリバリバリ。ビシャン、ビシャン、バババババ。


 次々に電撃が放たれた。


 なにせ『砲台』の数は30門。


「んげ? わひょ?、うおっ、ちょ、まっ」


 躱す。躱す。躱す。


 躱すだけで精いっぱい。


 とにかく、少しでも距離をとれるように動いた。


 しかし、野生動物並みの敏捷性をもってしても、数の暴力には勝てなかった。


 ビシャシャシャシャシャシャ──────ッ!!


 とうとう捕まり、直撃の連打。


 視界が真っ白に染まる。爆ぜるような轟音が鼓膜を破りかける。


 さすがに死んだかと思った。


 だが、見た目ほどに大変なことにはならなかった。電気を帯びた髪が激しく逆立ってはいるが、その程度。


 当たった電撃が、俺の体……いや、違う。『鎧』の表面で分散して霧消していたのだ。


 あっ……そう言えば。


 婆さんの言葉を思い出す。


『魔法防御に優れ、中でも雷撃の魔法に強い』と。


 なら! もういっそ、このままっ。


 体が即座に動く。


 考える前に動けねば、実戦の場ではマジで()られる。


 回避するのではなく、突進。


 再度、雷おやじの群れに飛び込んだ。


 すると、静止の声が再び高く響いた。


「ダメ、ソード! そいつらを殴ったら……」


 だが、聞こえた時にはもう体は動いており、槍を二振りし終わったところだった。


「え?!」


「ああ~~~。マズイの……」


 フィリはこちらを見ていない。雷おやじの方を見ていた。


 雷おやじの群れは、雷を躱し、またもや襲い掛かってきた俺を見て、頭から湯気を出していた。


「「「もう儂ゃ、知らんからな!!」」」


 力強く宣言する。そして、その直後。


 大量の雷おやじは、玄室奥にある扉の前で互いが重なり合うようにして集まった。


「う゛う゛う゛……」


 唸り声を上げ始める。そして、その直後────。


「カッキ──────ン!!」


 いきなり変体した。


 肌は(にび)色に変わり、まるで彫像のように固まって動かなくなってしまう。


 そんな……馬鹿な。


 ただただ呆然とした。


 気が付いたら、側まで飛んできていたフィリに頭をポカポカと殴られていた。

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