第32話 ヤバいものはヤバく見せるべき①
橋を渡って、玄室入口側まで慎重に近づく。
フィリの奴は、入口の陰からそ~っと中を伺った。
そして、一言。
「……うぇ~。マズいの。うじゃうじゃいるの」
まるで、大嫌いなおかずが山盛りで出てきた時のような顔をするフィリ。
「マズいって何が」
「雷おやじの群れがいるの……」
雷おやじ??
言われて、俺も中を覗く。
俺の鳩尾ぐらいまでしかない体高。ダルマのようなずんぐりしたフォルム。
そんなよくわからん生き物の群れが、確かに玄室を占拠していた。
しかも、数が尋常じゃない。ざっと30はいる。
丸眼鏡に、歯が数本の櫛ハゲ。ちょび髭まで生やした何か。
気難しそうに眉間にしわを寄せている。人間というにはフォルムがおかしく、モンスターというには可愛らしすぎる。
強いて言えば、着ぐるみだ。
「なんだ、あれ」
「だから、雷おやじなの。しかも、青筋立てているの。マズいの」
フィリのしかめっ面が戻らない。なんかわからんが、心底嫌がっているのだけはわかる。
でも、こんなへんてこなものを、なんでそんなに嫌がってんだ。
こんなの蹴散らしゃいいだろうが。
数は確かに多いが、ヘルハウンドの群れなんかよりははるかにマシだろう。
馬鹿らしい。チャッチャと片づけて、先に進むぞ。
「あんな、ひげチャビンに何ビビってんだ。ホレ、行くぞ。さっさとついてこい」
手の中の槍を握りなおすと、腰が引けているフィリを置いて、さっさと中に躍り込んだ。
「あっ! ソード、駄目なの!」
フィリが騒ぐ。
でも、こんなのに構っている暇はないんだ。さっさと片付ける。
もう9F。2000万マリスが目前なんだ。
我ながら、すばらしい奇襲が決まった。
草原で獣どもと鍛えた足腰は、今日も健在。絶好調。
地を這うように走り、一番手前のおっさん一匹に電光石火の一撃。
槍は、おっさんの心臓へとまっすぐに突き立った。
目を見開き絶命するおっさん。
この期に及んで、コメディーの様に大の字になって倒れた。
ホレ見ろ。やっぱ数だけじゃん。
やれる──確信する。
すぐに槍を構えなおして、次を突く準備に入った。
────だが、この時。
生物としての本能が『逃げろ!』と、突然訴えかけてきた。
背中を走る怖気。体中の毛が逆立ち、鳥肌が立つ。
……そして、足がもつれた。
「ダメ! ソード、逃げるの!!」
フィリが再び叫ぶ。
……が、ちと遅かった。
まだまだウジャウジャいる雷おやじどもは、仲間が殺されたのを見て顔を真っ赤にしていた。そして、
「くるぁ! どこの小僧だ!」
「逃げるな! 悪いことをしたらごめんなさいじゃろが!」
「さっさと帰ぇりやがれ!」
各々が訳のわからんセリフを吐き出す。
いや、そこまではいい。百歩譲ってよしとする。
でも────。
ビシャ────ン!
目を赤く光らせ、電撃を飛ばしてきやがった。短い手を伸ばし、明確な殺気とともに放ってくる。
「どわっ」
ギリかかわす。
が、体の横を走り抜けた電撃は、ダンジョンの岩壁を削って白い煙を上げていた。
こうなると、『そこまではいい』なんて言っていられない。
ヤ……ヤバいかも?
そう思ったが、後の祭りだった。
「逃げるな馬鹿者!」
ビシャン!
「わひゃっ!」
すぐに次が飛んでくる。
足元に着弾し、片足を上げて直撃を回避するも、逆足にビリビリと電気が走った。
でも、それで終わらない。
ビシャン、ビシャン、バリバリバリ。ビシャン、ビシャン、バババババ。
次々に電撃が放たれた。
なにせ『砲台』の数は30門。
「んげ? わひょ?、うおっ、ちょ、まっ」
躱す。躱す。躱す。
躱すだけで精いっぱい。
とにかく、少しでも距離をとれるように動いた。
しかし、野生動物並みの敏捷性をもってしても、数の暴力には勝てなかった。
ビシャシャシャシャシャシャ──────ッ!!
とうとう捕まり、直撃の連打。
視界が真っ白に染まる。爆ぜるような轟音が鼓膜を破りかける。
さすがに死んだかと思った。
だが、見た目ほどに大変なことにはならなかった。電気を帯びた髪が激しく逆立ってはいるが、その程度。
当たった電撃が、俺の体……いや、違う。『鎧』の表面で分散して霧消していたのだ。
あっ……そう言えば。
婆さんの言葉を思い出す。
『魔法防御に優れ、中でも雷撃の魔法に強い』と。
なら! もういっそ、このままっ。
体が即座に動く。
考える前に動けねば、実戦の場ではマジで殺られる。
回避するのではなく、突進。
再度、雷おやじの群れに飛び込んだ。
すると、静止の声が再び高く響いた。
「ダメ、ソード! そいつらを殴ったら……」
だが、聞こえた時にはもう体は動いており、槍を二振りし終わったところだった。
「え?!」
「ああ~~~。マズイの……」
フィリはこちらを見ていない。雷おやじの方を見ていた。
雷おやじの群れは、雷を躱し、またもや襲い掛かってきた俺を見て、頭から湯気を出していた。
「「「もう儂ゃ、知らんからな!!」」」
力強く宣言する。そして、その直後。
大量の雷おやじは、玄室奥にある扉の前で互いが重なり合うようにして集まった。
「う゛う゛う゛……」
唸り声を上げ始める。そして、その直後────。
「カッキ──────ン!!」
いきなり変体した。
肌は鈍色に変わり、まるで彫像のように固まって動かなくなってしまう。
そんな……馬鹿な。
ただただ呆然とした。
気が付いたら、側まで飛んできていたフィリに頭をポカポカと殴られていた。
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