第30話 本物のカンカーラ②
明日21:00に次話投稿します。
この日から、俺たちはカンカーラの『恐怖』と『悪意』に曝され続けた。
ドシャン! ガラガラ────ッ。
地面が抜ける。
「んぎゃあ~~ッ」
「もう! ちゃんとするの! 気をつけなきゃダメなのっ!」
「お前はいいよ! 飛んでんだから!」
「ぎゃ────っ!! 怖いの! 怖いの! 怖いの──ッ!」
『お゛い゛ち゛い゛……よ゛ぉ゛お゛お゛』
上半身しかないバケモノ。元のフォルムは巨人の上半身かもしれない。
た・だ・し。
ゾンビ以上に体が崩れている。
腐肉のこびりついた骨だけの腕を振り回し、手当たり次第に周りを壊す。
俺たちも、岩も壁も関係なかった。
「闇闇か?! フィリ! 上だ。上に飛べ! あとは俺に任せろ!」
「ぐあああ──っ。き゛、き゛ほ゛ち゛わ゛る゛い゛~~~」
「ソード! ソード! 落ち着くの! 落ち着くの~~~ッ!」
飛んでいるフィリが、あっという間に遠ざかる。そして、すぐに猛烈な勢いで近づいてくる。
地面が回った。
止まった時にはゲロ吐きそうだった。
…………。
繁栄の門を潜って、はや十日程。
この十日のことは……もう思い出したくもない。
セオリーだからと、5Fから始めてようやく8F。
このあたりから日帰りも難しくなるから、キャンプを張って仮眠もとらないといけなくなるが……『本物のカンカーラ』はそれを簡単には許してくれない。
まずは強力なモンスター。
有無を言わさぬ物理的『恐怖』。
わんさか湧いている。地上ではまず見ることのない奴らが、だ。
しかも、多種多様。手が付けられない。
楽する方法はないかと一生懸命に考えた。
が、種類が多すぎて『力づくに勝る方法がない』。死んでくれマジで。
そして、『悪意』。
どんな性格をしていると、こんなものを作ろうと思えるのか。
誰にでもわかる陰湿さ。
落とし穴・ターンテーブル・暗闇・テレポートトラップ・呪文禁止などなど……。
殺意満点、悪意頂点。
間違いない。ここは、俺の人生最悪のダンジョンだ。
今も……。
「ゲヘッ、ガハッ、ゴホッ」
カンカーラに入って初めての宝箱。
小躍りしてウキウキわくわく。胸の高鳴りが止まらなかった。
極めて慎重に調べた。
罠はなし────。
そう思った。
で、意気揚々と開けたら、この始末だ。
宝箱は爆発。
中身は、俺の髪をチリチリにしながら吹き飛んだ。
目の前には、おそらくレザーのバックラーか何かだったものが転がっている。
今の姿は、焼きすぎたスルメだ。ご丁寧に白い煙も上げている。
他にも何点か……すべてゴミになってるが。
「ソード、ヘボなの……」
腰に手を当て、ため息なんぞ吐くフィリ。
「うるへ~~。本職じゃないんだから仕方なかろうが」
それくらいしか言い返せないのが哀しかった。無念だ。
んで!
何が一番悔しいって、8Fまで降りてきて初めて気づいた『無駄』だ。
『5Fから8Fまでは探す必要性ゼロ』という事実────。
唖然とし、次に体が震えた。頭に血が上り、どうにかなりそうだった。
もしかすると9Fも……。
チャックの兄さんに、もっと詳しく聞いておけばよかったと思わずにはいられない。
でも、あの時はまだ上層部にいたから……。
多分兄さんたちも、5Fから8Fの隅々までを調べたわけではないのだろう。
だから、『何もない』とまでは断言できなかった。
でも調べてみたら、本っ当に『何もなかった』。
意味ありげに用意された玄室。トラップゾーンに囲まれたエリア。
どんな性格をしていると、こんなものを作ろうと思うのか。
ハア…………。
まあ、こうして9Fへの階段を下りている今、今更と言えば今更かもしれない。
ただ今後、エレベーターの『5つ』のボタンを見るたびに、ため息が漏れることになるだろう。
ホント、いい加減にしやがれ。クソが。
昨日、久しぶりに冒険者カードを見たらLV7になっていた。
LV1に戻されたことを考えると、よく頑張ったよな。俺……。
まあでも、あれだけクソやばいモンスターと戦いまくればなぁ。
兄さんではないが、カンカーラは4Fの上と下で別世界だ。
仕事をこなしていないのに、このスピードでレベルが上がるなんて……どう考えても異常だ。
ま、それはそれとして、今日も気を引き締めないとマジで死ぬ。
物の例えでは済まない。
「おい、フィリ。今日から9Fだ。ここの情報は一切ない。自力で突破するしかないから気合い入れとけよ」
「言われるまでもないの。ソードこそ、いつもみたいにお馬鹿なことしてフィリを困らせないようにするの」
9Fに向かって降りるエレベーターの中、こちらを振り返りながらフィリは可愛い小さな鼻をフンフン鳴らしている。
小生意気なじっとりした目つきで。
「そんなことを言っていると、ネバネバのスライムに熱烈な抱擁をされても、もう助けてやらんぞ?」
こちらも、ふふんと鼻を鳴らし言い返してやった。
フィリは、何かを思い出したらしく顔を真っ赤にした。
「ソ、ソードこそ、今度はレッサーデーモンと力比べをするのは止めとくの! もう、助けてやらないの!」
ぐっ。
痛いところを突いてきやがる。
ちょっと腕の数を考えなかっただけじゃないか。
相手は4本、こちらは2本。
組んだら、フルボッコくらったっけ……。
ちょっと小柄な奴だったから、つい余裕ぶっこいたのが敗因だ。
うん。ちゃんと反省しているぞ。
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