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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第29話 本物のカンカーラ①

本日21:00に次話投稿します。




 5Fに降りると景色が全く変わった。


 まず『整えられた』壁が消えた。凸凹で洞窟そのものだ。


 天井の高さや道幅もまちまちになり、取り付けられていたランプもなくなる。


 フィリが光源の魔法で照らしてくれているから不自由なく見える。しかし、魔術師がいなければ、これ一つで『詰み』だった。


 松明やランタンが、視界を確保する唯一の方法になる。


 つまり、片手が死ぬ。


 そこに────。


 グルルルル…………。


 塗りつぶされたような真っ赤な目。


 巨大な黒い犬が襲い掛かってきた。


 数は八匹。


 しかも、ただの犬じゃない。大きさが牛ほどもある。


 それだけでも十分異常だ。


 なのに、大きく裂けた口は牙を煌めかせ、その牙の横からはチリチリと小さな炎が漏れ出ている。


「ヘルハウンドなの!」


 フィリが真っ青になって叫び声をあげる。声の後半は裏返っていた。


「フィリ、下がれ! 後ろから援護を!」


 あれこれ考えている余裕などない。


 止まったら()られる。


 本能が警鐘を鳴らす。


 地面を蹴り、有無を言わさず犬野郎の口の中に槍を突き入れた。


「グゲェェェ……」


 それは『えづいた』のか『断末魔』か。


 わからないまま、その一匹は絶命した。


 口から漏れだす血と炎で、槍を握った拳が赤く染まる。刺すような痛みが走った。


 だが、気にしている余裕はない。


 すぐに次。


 風のような速さで二匹が飛びかかってくる。


 倒れる一匹の陰から、左右に分かれて飛び出るように突進してきた。


 ガガッ────。


「くっ。ちぃっ」


 両肩に一発ずつ。


 だが、致命傷にはならずに済んだ。


 貧者の村でもらった鎧のおかげか、思いのほか傷は浅い。というか、おそらくは打ち身程度で済んでいる。


 それにしても、速い。


 それに……。


 上層部のモンスターとは段違いだ。


 特に、殺意が違う。


 俺の肩を食いちぎれなかった二匹は、すぐに距離をとった。その後方で、五匹が広く展開しようと動く。


 それは、多頭数で狩りをする獣の動き。


 だが、やられるばかりではない。


 今度は、フィリの可愛い声が鋭く戦場に響く。


「スノーブラスト《氷雪の風》!」


 手に持ったスタッフを、後方の犬どもに向けた。


 五匹の周りが青白く輝きだす。空気が渦を巻き、猛烈な冷気が犬どもを包んだ。


 渦が落ち着く頃、膝からくずおれるようにして倒れ、五匹のヘルハウンドは絶命した。


 体のところどころが凍り付いているようにも見える。


 スゲ……。


 素直にそう思った。


 でも、それを言葉にする時間すらない。


 まだ二匹残っている。


 二匹の口元でユラユラと揺れる炎が大きくなっていた。


 口を大きく開け、肺を膨らませたのが見えた。


 来る────。


 悟った。


 それと同時に目に入るフィリの姿。


 先ほどの魔法動作が残ったまま、安全圏への退避がまだだった。


 マズいなんてもんじゃない。反射的に横っ跳ぶ。


 直後、犬の口から出たとは思えない大きな炎が俺とフィリを包み込んだ。


 髪を焼き、皮膚を焦がす。熱が皮を越え、肉に痛みが走り始めた。


 噛みしめた歯がゴリリと鳴る。


 その時、右手が強烈に光った。


 なっ?!


 思った瞬間、手の中には見覚えのある槍。


 呼んでもいないのに、なぜか現れた。


 そしてその瞬間、俺の中から『熱い』という感覚が消えた。


 ……生温かい??


 まるで、『風呂』にでも入っているようだった。


 だが、考えるのは後だ。


 現れたのなら好都合。このままポチの力を借りる。


 腕の中のフィリを離し、そのまま構えて冷静に二振り。


 やはり……というか、なんというか。


 圧倒的だった。


 筋肉質なヘルハウンドの体を、突けばトーフのように突き抜ける。払えば、高級ステーキでも切ったように、ぬるりと割り裂いた。


 気がつけば、5F初戦が終わっていた。


 ポチを振ったせいか、体に結構な疲労感がある。


 だが、圧勝と言っても過言ではないだろう。


「ソード、ソード! 大丈夫なの?!」


 庇ってブレスの直撃を受けた俺を心配して、フィリがすぐに近寄ってきた。


 泣きそうな顔をして、周囲を飛び回っている。


「ああ。大丈夫だ」


 そんなフィリに片手を振りながら、手の中のポチを見た。


≪…………♪≫


 なんか、すこぶる機嫌良さそう。


 そう思った瞬間、ポチはまた空気に溶けるようにして消えた。


 戻ったか……。


「ふう」


 ようやくの一息だった。


 それにしても、と思わずにはいられない。


 兄さんの言う通り、『本物のカンカーラ』はそれまでとは別物だった。

お読みいただきありがとうございました。


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もちろん、リアクションだけでも結構ですので、ぜひよろしくお願いします! 無茶苦茶作者のモチベーションが変わります。




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