第28話 繁栄の門
明日8:00に次話投稿します。
「ニヤニヤと気持ち悪いの」
4Fへ降りる階段に着く頃には、フィリも回復していた。
それを証明するかのように、ご機嫌な俺に手厳しい悪態をぶちかましてくる。
だが、いまの俺は寛大だ。
フィリの悪態くらいなんともないぜ。
「今晩の飯はゴージャスにいくぞ。肉……ぜったい、肉だ! 兄さんのところで一番でかい、棍棒みたいな肉を食うぞ! しばらく豆は食いたくない!」
「……ずっとお豆だったの?」
「おう! 食えればよしのソードさんも、豪華な飯が嫌いな訳ではないんだよ。フィリちゃん」
スチャっと右手でサムズアップ。
「ふーん」
わかったようなわかっていないような顔で相槌を打つ。
まあ、これから嫌でも俺の言葉の意味がわかるようになる。
そんな『幸せな顔』ができるのも、今日までだ。
昨晩はハルクの親父に甘やかされたようだが、今後の日々は『強制サバイバル』。
フィリの奴も、すぐに『旨い飯』のありがたみを知るだろう。
そんなクダラナイ会話を交わしながら階段を下りると、すぐに『あっ、そういうこと……』と理解せずにはいられなかった。
階段を降りたら、そこは『迷宮』ではなかったから。
ただ、まっすぐに伸びる通路。
壁のランプに照らされて、少し奥にはもう扉が見えている。
その扉は、どんな冗談だとツッコミ待ちの『桃』の形。
金色に輝くクソでかい桃の門が出迎えてくれていた。
兄さんから話を聞いていなければ、俺は今この瞬間、怒り狂って発狂していたことだろう。たぶん、間違いなく。
「……桃なの」
フィリも、目を真ん丸にして呆然としている。
悪態ばかり吐く口をポカンと開け、今ばかりはなかなかにプリティーだった。
前傾姿勢になってまじまじと見ているフィリのケツが、目の前に浮かんでいる。
側まで近づいたのにも気づいていない。
「ホレ。ぼさっとしてないで先に進むぞ」
パチン。
ケツを叩いてやった。
「きゃん。お尻を叩くななの────ッ」
バネ仕掛けの人形のように反応したフィリが即座に振り向き、ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める。
無視した。
「騒ぐな、馬鹿者。ほれ、行くぞ」
こんな場所で遊んでいる時間などない。
今日はぜったい肉。
譲れない闘いが、俺を待っているのだ。
輝く『金色の桃』。
御大層に、角の生えたモンスターと戦うファイターの姿も彫られている。
側には『犬』『猿』『雉』。
聞いていた通りの門だった。
まあ、ここまでなら苦笑いの一つでも零すだけだ。
問題はここから。
扉を開き、潜った先で鳴り響く『拍手』と『クラッカー』。
思わず大事な愛槍を、地面に叩きつけるところだった。……ギリギリで踏みとどまったが。
フィリの奴も、言葉もなく再びポカンと大口を開けていた。それでも羽だけは絶えず動いていたのは、妖精の習性なのだろうか。
とにかく『大歓迎』された。
覆面のおっさんが一人に、戦士が二人。聖職者が二人に、魔法使いが二人。
冷静な目で見ると、それぞれがかなりの達人だと思われた。
でも、そんな方々が万歳三唱で出迎えるものだから、どうしても……アレだ。
彼らがギルド職員だというのも、聞いていた通りだった。
だが、俺は彼らについて勘違いをしていた。
本物のカンカーラ『へ』の壁だと思っていた。
だが、違う。
彼らは、本物のカンカーラ『から』の壁だった。
何かの間違いで、下のモンスターが上がってきた時の防波堤らしい。
実際に、そんな事になったことはないとのこと。
だが、なくすことの出来ないお役目なのだとか。
ガリメデのギルドは、意外にもきちんと仕事をしているようだった。
大概のギルドの仕事は、もっと雑だと聞いている。
そして、彼らから渡された『グリーンメダルリボン』。
木製の小箱に入った緑色のリボンだった。
中央に金色のメダルがあしらわれている。メダルには魔力が込められていて、『特定の装置』の作動キーになっているとのこと。
つまり、繁栄の門を潜った玄室のさらに奥。
『本物のカンカーラ』へ降りるためのキーアイテムだ。
まだ呆然としているフィリを頭の上に乗せ、奥へと進む。
玄室を抜けた先も分かれ道などなく一直線。
すぐに突き当たった。
そこにあったのは、今まで嫌というほど潜った木製の扉ではなく、巨大な金網の扉。
奥も見える。巨大な滑車があった。
そして、金網の扉の横にはボタンが一つ。
押してみれば、腹の底に来る重低音を響かせながら装置が動き始めた。
「な、なんなの?!」
フィリの奴は完全にビビってしまっている。
俺の髪の中に隠れるように伏せてしまっていた。さっきから、おもっくそ髪を握りしめられていて非常に痛い。
ハゲないでくれと祈るばかりだ。
そして、祈っていると金網の向こうに現れる部屋。
どうやらこの装置は、小さな部屋を上下動させる装置らしい。
兄さんが言っていた『エレベーター』で間違いなさそうだった。
普通なら警戒心マックスで、ここで立ち往生だろう。
しかし、兄さんに奢ったエールは無駄ではなかった。
さっさと乗り込み、下に降りる。
エレベーターの内部には5つのボタンがあった。
おそらく、5Fから9Fに対応している。
……と、ここまではよし。
とりあえず5Fで腕試し……とエレベーターを降りた直後、兄さんの言葉を思い出すことになった。
曰く……。
『1F~4Fで詰まったり死んだりするのは論外。それを越えられる者が死ぬのが、本物のカンカーラだ』
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