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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第26話 フィリ

本日12:00に次話投稿します。




 しっかし、こんなものをもらって本当によかったんだろうか?


 貧者の村を出て、4Fの階段を探す。


 その最中(さなか)、ランプの光をキラキラと返す白銀の輝きに、何度もマジマジと見てしまう。


 そりゃあ、くれるってんだから貰って悪いことなどない。


 だが……、『こんなの』を連れて行くだけでもらえる報酬としては、さすがに度が過ぎている。


「おーい、赤毛。このまま進むの?」


 羽をパタパタさせながら、フィリがこちらを振り向く。


 ……ふぅ。


「赤毛じゃない。ソードだ。この性悪妖精。好事家にでも売り飛ばしてやろうか?」


 その直後。


 ピ────ッ。


 顔を真っ赤にしながら、湯沸かしポットのごとく。頭から噴いている湯気が幻視出来そうだ。


 ……なんて思った、次の瞬間。


「なにお────ッ! フィリだってフィリなの! 性悪妖精とは何事かあ────ッ!」


 バク転するようにクルリと回り……ギュ────ンと音がしそうな勢いで、俺の『鼻』目がけて突っ込んできた。固めた右拳を思いっきり突き出して。


 ボグッ。


「あだ────ッ!」


 クリティカルヒット! 拳闘士もかくやという一撃。


 墓場ではなんとか防いだが、今回はキレイにもらってしまった。


 哀れ。俺様の鼻は悶絶し、血反吐を吐く。


 くっ……。


 可愛い顔をしてやるじゃねぇか。


 流れ出る鼻血を袖で拭きながら、プンプンと頬をふくらませている『見た目だけは可愛い』妖精を涙目で見た。


 30センチほどの小さな体でふんぞり返り、露草色の短い髪を揺らして、こちらを睨んでいる。


 真ん丸な青い瞳は、怒りの炎をしっかりと燃やしていた。


 このままじゃラチあかねぇな……。


「わかった。オッケーだ。そろそろ休戦にしよう」


 喧嘩したまま探索続けるなんて、ソロよりヤバい。


 かといって、ハエ叩きで打ち落とすわけにもいかねー。


 ここらで関係を良好にしておかねば、共倒れは確実。


 潮時だ。


 ……なにせ『導く者』だそうだし。


 あの婆さんの言葉だけは、無視しちゃんいかん気がする。


 本能がそう言っている。


 あきらかにヤバい雰囲気だった。


 だから、こちらが先に折れてみたのだが……。


「お前がフィリの悪口を言うからなの──ッ!!」


 少女妖精は、両手を勢いよく振り上げて、なおも抗議を続ける。


 とはいえ、全く効果がなかった訳でもないらしい。


 こちらから歩み寄ったせいか、毛を逆立てた猫みたいだったのに、態度を少し軟化させている。


 さっきまで体中で怒りを表現していたが、今は生意気にもため息なんか吐いていた。小さいがスタイルの良い体を乗り出すようにして、立てた指をフリフリ説教モードだ。


「わかったわかった。悪かったって。それと『お前』じゃない。ソードだ。これから一緒に旅をするんだ。名前くらい覚えろ」


「だったら、フィリのことも、ちゃんとフィリと呼ぶのっ!」


「わかったって。これからはそう呼ぶ」


 そう応え、右手の人差し指をフィリに突き出す。


「?? 何なの?」


 フィリは小首を傾げた。


「仲直りだよ。これからよろしくな」


 改めて、差し出した指をゆっくりと揺らす。


 と、フィリは(いぶか)しげにしていた表情をパッと明るくした。そして、差し出した指の先を両手でガシッと掴む。


「仕方ないのっ。これからよろしくしてやるの!」


 ニカッ。


 ニコリというより、まさにニカリと爛漫(らんまん)の笑みを見せる。


 チョロい……。


 ってか、こいつ。やっぱ『子供』なんだ。


 自分でも不思議だったが、それがわかると腹が立たなかった。


 ただ、苦笑いが漏れた。




 フィリとともに3Fを駆けまわり、4Fへの階段を見つけたところで本日はフィニッシュ。


 引き返す。


 今日は色々あったし、心の整理をする時間も欲しい。


 目の前をご機嫌で飛ぶフィリを見ながら、婆さんの言葉を思い出す。


 これが『導く者』ねぇ……。


「ごはん♪ ごはん♪」と歌いながら満面の笑みを浮かべているフィリ。


 どうにもしっくりこねぇ。


 だが、多分気にしたら負けだな。


 婆さんは『フィリと出会えなかったら、俺は破滅する』と言っていた。


 でも、言葉の真偽はどうあれ、俺はもうフィリと出会い、こうして旅を共にしている。


 つまり、どっちにしても、もう大丈夫ってことだ。


 なら、フィリじゃないが、とりあえず飯だな。


 ハニービーに行こう。話はそれからだ。




 迷宮を出て、そのままの足でハニービーに向かう。


 頭の上にフィリを乗せて店に入ったら、俺を見た瞬間にチャックの兄さんが目を丸くした。


「おい、ソード。盗みに入ったくらいは目をつぶるが、子供を(さら)ったとなるとさすがに看過できんぞ?」


 鋭く細まる兄さんの目に、思わず「違げぇっ!」と反論しかける。


 しかし、息を吸ったところで、俺より先に吠えた奴がいた。


「フィリは子供じゃないのっ!」


 子供みたいな可愛らしい声で言っても、説得力皆無な訳だが。


 俺の頭から飛び立ち、腰に手を当てながら空中でプリプリと怒るフィリを見て、兄さんは再びこちらを見た。


「……どういうことだ?」


「どういうことも、こういうことも。色々あってだな……」


 空いていたカウンター席に着く。


 いつもの煮豆のワンプレートとエールを頼み、兄さんに今日のことを語って聞かせた。


 誤解を解きたかったのもあるが、カンカーラの深部まで行った兄さんなら、俺が知らない何かを知っているかもしれないと期待したからだ。


「貧者の村か……。噂だけなら確かに聞いたことはある」


「入ったことは?」


「ない。用がなければ、好んで行くような場所ではないしな。ただ、俺が聞いた貧者の村の入口は『旅立ちの森』にあったはずだ」


「いや、3Fにある横穴から入った」


「カンカーラの3Fに横穴? そんなものはなかったはずだが……」


 調理をしていた手を止め、兄さんは(くう)を仰いでいる。


 だが、すぐに首をひねった。


「いや、あったんだよ。それに結構でかい地下墓地も」


「へえ……そりゃ、また。ってことは、相当に広がってんな」


「ああ。俺は墓場で出会った婆さんちにしか行ってないが、まだかなり奥まであるようだった」


「最近不景気だしな……。だとすると、あの話も完全にガセじゃないかもしれん」


「あの話って?」


「大樹海の中で怪しい連中が何かをやっているって噂。それに最近、ガリメデの中心部でも失踪が多くなっているらしくてな。衛兵が少しピリついている」


「その連中の仕業なんじゃないかって?」


「そう。で、なんのために人を(さら)っているかは知らんが、もし(さら)ってんなら、デカくなった貧者の村ってのは狙い目だろうな……とな」


 そりゃあ、『いない人間』だからな。あの村の人間は。


「ま、でもこれは戯言だ。俺の妄想に過ぎん」


 兄さんは、「現役時代のクセが抜けないな」と笑う。


 だが、笑いごとではない。


 絶対ありえないとは言い切れない何かがあった。


 とはいえ、俺が気にしても仕方がない。


 頑張るのは衛兵たちだ。


 ふと見れば、いつのまにか俺のエールをくすねて顔を真っ赤にしたフィリがカウンターの上で大の字になっている。


 大口を開けて眠りこけていた。


 そんなフィリを見て、兄さんはフッと鼻を鳴らして笑う。


 そして、出来上がったワンプレートを差し出しながら念を押してきた。


「ま、(さら)ったんじゃないのはわかったけどさ。そんな話もあるから、こんな嬢ちゃんを連れて歩くなら、お前が気をつけろよ?」


「わかってるよ」


 受け取りながら頷いた。


 そんな俺を見て納得したらしい兄さんは、話を一気に変えてくる。


「それにしても……お前豪運だったな。俺の見立てだと、それ1000万……いや、2000万近いぞ?」


 兄さんは俺が着ている白銀の鎧を見て、そう言い切る。


「だよなあ。でも、本当に報酬として持って行けって婆さんに言われたんだぞ? 今回はパクってない」


「『今回は』ね。その正直さに、納得せずにはいられないな」


 兄さんは、再び苦笑いを浮かべた。


 あら、やだ。思わず。


「あ~。その、なんだ。まあ、なんにしても盗んだものじゃないんだよ」


「はいはい」


 兄さんは、もうすべてわかったと言わんばかりに適当な返事をする。


 くそっ。


 この後、飯を食ってバルクに戻った。


 酔っぱらったフィリを再び頭の上に乗せて、ひたすら歩いた。


 帰り道を半分ほど来たところで、フィリは目を覚ましお腹が空いたと騒いだが、もう遅い。


 ここらまで来たら飯屋はない。


 バルクまで我慢しろと言うしかなかった。


 クケケ。


 高タンパク低カロリーの飯に涙を流すがよい。


 バルク名物を見て、フィリの奴がどんな顔をするのかと思うと心躍った。


 ……のだが。


 世の中ままならん。


 フィリは一階に並ぶトレーニングマシンの群れに目を白黒とさせたが、ハルクの親父と意気投合。


 親父は甘いお菓子を出し、フィリは速攻で懐柔されて懐く。


 無心に菓子をパクつくフィリ。


 それを見る親父の目じりは、孫を見る爺さんの様になっていた。


 最後には、汗に濡れた親父の肩に躊躇うことなく座ったフィリの、『ソードがいかに失礼な奴だったか談義』を楽しそうに聞き始める。


 口を挟む気にもなれんかった。


 つか、今日は色々ありすぎて、もう疲れた。


 フィリのことは親父に任せ、俺はさっさと一人で二階へと上がった。

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