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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第25話 シエラ②

明日8:00に投稿します。


 そんな二人を見ながらも、笑みを浮かべたまま全く動じないシエラ。


「フィリ様。故郷に帰りたいのですじゃろ?」


「もちろんなの!」


「ソード様。この先、カンカーラの奥へと進むためには『魔術師』の助けが必要なのでございますな?」


「なんで婆さんがそれを?」


「私には『見えている』からですじゃ。フィリ様は、ソード様を『導く者』です。……この場でフィリ様と出会わずに進むソード様の未来では、それ程遠くない未来で破滅するよう『刻』は流れていきます。ちょうど、今が運命(さだめ)の分水嶺と言える時なのです」


 普通に聞けば、狂人の戯言(たわごと)のようなセリフである。しかしシエラは、真面目な顔でソードに告げる。


 普段ならばこんな詐欺まがいの言葉を受け入れるソードではないのだが、シエラの『左目』と魔術師の件が否定しきれぬ己を生んだ。


 とはいえ、うさん臭そうに顔を歪め、鼻の下あたりをしきりに擦っている。その口からも、ウンウンと言葉にならない唸り声を漏らしていた。


 そんなソードに、シエラは柔和な笑みのまま言葉を続けた。


「ほっほっ。信じてくれとは言いませぬよ。じゃから、これは私からの『依頼』とお受け取りくださいませ」


 机の前から離れ、シエラは部屋の隅に置かれた、布を賭けられている『何か』の前に立つ。


「ん?」


 シエラが指し示す『何か』に興味を示すソード。


 フィリもシエラの傍まで飛んで、下にある『何か』に興味津々だった。


 そんな二人の反応に、シエラは満足げに笑みを深めて掛けられていた布を取り払った。


 布の下から出てきたのは、このような場所にはあまりに不似合いな『白銀に輝く立派な鎧』。


 ミスリル銀で作られたハーフプレートで、強力な耐魔法の魔術が施されている。


 それを見て、真っ先にフィリが反応した。


 目を丸くして、ポカンと開けた口を両手で覆う。


「……すごいの。+2? ううん。+3なの。でも、それだけじゃない。『(ほし)』も一つ付いているの……」


 鎧の周りをゆっくりと飛びながら鎧を観察し、漏らすようにポツリと呟く。


 武器や防具だけでなく、工芸品の品質は『±(プラスマイナス)』で評価される。そして、込められた魔力は『(ほし)』で表された。


 『±(プラスマイナス)』も『(ほし)』も0~5の数字が付く。いずれも基準値は『0』の無表示だ。


 ただ、☆が付くことはまずない。


 工芸品に恒常的な魔力を付与する魔術は、すでに失われてしまっているからだ。


 だから、もし☆が一つでも付いていたら大事(おおごと)だった。


 一つでも付けば、家が建つ。二つ付けば、貴族の豪邸が建つ。三つ以上なら、国の宝物庫行きだ。国宝級である。


「え゛っ?!」


 フィリの呟きに、ソードは思わず鎧の傍まで駆け寄ってしまう。


 無理もない。


 こんな場所で魔法の鎧に出くわすなどとは、誰も考えない。


「この鎧は『ウーレイアの鎧』でございますじゃ。特に魔法防御に優れ、中でも雷撃の魔法に強いと聞き及んでおりまする。ソード様の、これからの旅のお役に立てましょう」


「これを本当に俺に?」


「はい。もし、フィリ様をお連れ頂けるのでしたら、この鎧をソード様に差し上げまする」


 目を白黒とさせているソードを尻目に、シエラはあっさりとそう言ってのけた。


 決して『差し上げます』などと気軽に言える代物ではないのだが、彼女は迷うことなく、そう言い切る。


 ソードの困惑はピークを迎えていた。


 それはそうである。


 妖精一人を連れていくだけで、このような鎧を差し上げるなどと言われたら、ソードでなくとも困惑する。


 魔法の鎧なんて、普通の冒険者をしていたら、見ることなく終わっても不思議ではない代物なのだ。


 そんな鎧を『差し上げる』と言われているのである。


 しかし、そんな鎧だけに、ソードの心は嵐の中の船の様に揺れていた。


 こんなチャンスなど、これを逃せば次がある保証はない。いや、ない可能性の方が圧倒的に高い。


 揺れない訳がない。


 結局、ソードはその誘惑に勝てなかった。


 鎧に手を伸ばし、傷どころか曇り一つない白銀の表面を撫でる。


「……最後の確認だ。本当に……本っ当にっ! 貰っていいんだな? あとで嘘ぴょーんって言っても返さないからなっ!」


 クドいくらいに念を押すソード。


 しかし、シエラは柔らかい笑みを浮かべたままだ。


「ほほ。返せなどとは申しませぬよ。ですから、その鎧……ソード様の体に合わせてありますじゃろ? これは、ソード様のためだけにご用意したもの。遠慮なくお持ち帰りくだされ」


 そう言われて、ソードはハッとする。


 確かにパッと見で着られなくないとは思ったが、まさかと思った。


 ソードは来ていた中古のハーフプレートを脱ぎ、ウーレイアの鎧を身に着けてみる。


 ピッタリだった。


 着られる着られないという話ではなく、まるでソードの為に(あつら)えたかのようだったのだ。


「婆さん……あんた一体……」


 ここまでくると、ソードも(いぶか)らずにはいられなかった。


 しかし、シエラはやはり動じない。


「……ただのしがない、占い師でございますじゃ」


 そう言われても納得できるものではなかった。


 ただ、本人がそう言い張っている以上、ソードもそう受け取るしかない。


 こうしてソードは、これから長い旅を共にすることになるフィリという相棒を得ることになった。


 そして、貧者の村を出ていく二人。


 見送るシエラはこう呟く。


「……大きゅう育ちなされ、我が王よ。刻の果てにて、お待ち申し上げております」


 その言葉は誰に聞かれることもなく、迷宮の風に溶けて消えた。




■□■□●〇●□■□■

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