第22話 横穴
もう一話連投します。
3レベルのドレインを頂戴して、すでに3日。
枕を涙で濡らして過ごしたが、そろそろ働かないとさすがにマズい。
ツケにツケを重ねてハルクの親父に追い回される絵が、再び脳裏にチラつきだす。
すると、あら不思議。
自然とベッドの上から降りる気力が湧いてきた。
あの親父に追い回されるくらいなら、やる気の一つくらい気合いと根性でなんとかなる。
ソードは少し賢くなった。やったね。
と、冗談はさておくとして、だ。
久しぶりに冒険者ギルドへ。
即カンカーラに潜りたかったが、立ち入り禁止が解けているかどうかを確認しないと話にならない。
行きたくなかったが、行かねばならなかった。
冒険者ギルドは、相変わらず他所からやってきた冒険者たちで賑わっていた。
ホールを見渡してみるが、知った顔は見当たらない。
気持ちが少し楽になる。
念のために職員を捕まえて聞いてみると、やはり立ち入り禁止は解けたようだった。昨日、再び解放されたらしい。
となれば、もうここに用はない。
さっさと小金稼ぎに戻らねば、今日の晩飯がまた豆になる。
いや、それどころか、空気を呑んで空腹をしのぐことになりかねん。それは嫌だ。
職員に礼を言って、さっさとカンカーラに向かうことにした。
しかし、出口に向かおうとしたところで不意に呼び止められる。
「ソードさん……でしたな」
さっきの職員ではない、渋い男の声。
振り返ればギルド本部長がいた。確か、名前はフランク。
「ああ。前の時はどうも」
「いえ。あの時は大変失礼いたしました。カードの方はきちんと動いていますかな?」
俺のデータの推移について、知っているのかいないのか。
本部長は、真顔で尋ねてきた。
だから、俺も笑顔で返す。
「ああ、問題ないよ」
カード自体はな!
問題ありありだが、そんなこと言える訳がなかった。
下手をすれば藪蛇になる。
くそったれめ。
しかし、そんな心の声を本部長が知る由もなく、
「そうですか。それはよかった。少し心配をしておりましたもので」
と微かな笑みを浮かべている。
「そりゃ、どうも」
「それで、今日はお仕事を探しに?」
「いや、いま俺はカンカーラの探索がメインだからね。封鎖されていたみたいだけど、そろそろ潜れるようになったかと思ってさ。聞きに来たんだ。封鎖は解けたみたいだし、今日からまた潜るつもり」
そう答えると、本当に一瞬だけおっさんの目が鋭く煌めいたような気がした。
しかし、一つ瞬きする間に柔和な表情へと戻る。そして、
「そうですか。では、お気をつけて。ご活躍を『期待しております』」
と続けた。
んん? さっきから、なんかこう……少し引っかかるような、そうでないような……。
ん~。
まっ、いっか。
「ありがとう。じゃあ、俺はこれで」
「はい。お忙しいところに声掛けしてすみませんでした」
「いいって、いいって」
軽く手を振りながら、振り返ることなく後にする。
畏れ多くもギルド本部長の応援を受けての再出撃となったが、悪い気分じゃなかった。
封鎖の解けたカンカーラは前と何が変わるでもなく、いつものカンカーラだった。
とりあえず、3Fの『元』まねき猫のアジトを目指す。
見てどうなるものでもないが、なんとなく気になった。
で、着いたはいいのだが、虎ロープが張ってあり、やっつけ仕事で『危険! 立ち入り禁止』という看板も立っている。
冒険者を相手に危険だから立ち入るなと書いて、どれほどの効果が期待できるというのか。こんなものを立てたら、むしろ嬉々として入ろうとするのが冒険者である。
まあでも、俺が気にすることではないな。
中に何もないことを、俺は他の誰よりも知っている。
次の『商売相手』がやってくるまでは、ここは用済みだ。
どうなっているかは気になったが、ここで何かをしたいわけではない。
だから、すぐにこの場を立ち去ることにする。
今日はやらねばならないこともあるから、なおのことだった。
やらねばならないこと────それは、パスした『横穴』の探索だ。
前回の時はどうにも気が向かなかったが、あれをあのまま放置する奴は迷宮探索なんかやらない方がいい。
手元の自家製マップで確認してみても、あの横穴の異常性は際立っている。
あの横穴は、まさに『あってはならない』ものだ。
もしかしたら、なんかの衝撃で未探索エリアへの道が開けたのかもしれない。
となれば、お宝が見つかる可能性もグンと上がってくる。
そう思うと、横穴に向かう足取りも自然と軽くなった。
盗賊のアジトだった場所から横穴の入り口にたどり着くまでの間に、数体規模のゾンビの群れと何度か戦うことになった。
やはり、この階のゾンビ遭遇率はかなり高い。たまたま出くわしただけってことはなさそうだった。
たぶん、どこかで増殖してんな……。
そう考えずにはいられない。
あまり嬉しい結論ではないが、そう捉えるのが自然だった。
だが、新しく手に入れた槍の手慣らしにはちょうど良い。
ゾンビ相手に槍を使うのは、普通あまり好ましくはない。死体相手に突き主体の武装は、相性最悪である。
ただ、それだけに手慣らしにはもってこいの相手だ。
突いても突いても動きを止めない人形相手に感触と手応えを幾度も確かめ、程ほどのところで切り払って潰す。
これを繰り返した。
で、気が付けば横穴の入り口に到着する。
この先は、どうなっているんだろうね。
胸が高鳴る。
お宝の山とまでは言わないから何かそれらしいものを頼むと、信じてもいない神に祈りをささげる。
もしそうなれば、今日こそはエールのおかわりもできるし、なんなら久しぶりに肉の塊を頼めるかもしれない。
ささやかな希望に胸を膨らませながら、横穴を奥へ奥へと進んでいった。
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