第20話 お仕置き
本日、20:00に次話投稿します。
「あいあい、わかったよ。リズちゃん」
「チャック。ソードさんが私を子ども扱いします」
適当にいなしていたら、旦那に言いつけやがった。
これ……、絶対俺間違っていないよね?
カウンターの奥で他の客にエールを出していたチャックの兄さんは、困った顔をしながらこっちを向く。
「おい、ソード。うちの嫁をいじめて遊ぶな」
「いじめてねーって」
今日はいつになく忙しそうだ。
チャックの兄さんは一言苦言を呈したものの、すぐにこちらを放ってフライパンを取りだす。そして、また料理を作り始めた。
改めて店内を見渡せば、四つある丸テーブルも今日はすべて埋まっており、カウンターの方も空きはわずかだ。
そんな景色の中で、リズちゃんは異議を唱える。
「嘘です、チャック。ソードさんを叱って下さい」
ほっぺたを丸々と膨らませて、プリプリと怒る奥様。
どっからどう見ても、パーフェクトに『ちゃん』じゃねぇーか……。
そう思わずにはいられなかった。
だが、ここはグッと堪えて大人になる選択をば。
「それにしても、今日はいつになく混んでんね」
奥様のご要望に応える暇もない兄さんを尻目に、シレッと話をずらす。
リズちゃんの方も、さすがにこれ以上は引きずらずに話に乗ってきた。
「そうですね。こんなに沢山のお客様に来ていただいたのは、とっても久しぶりです。チャックのご飯のおいしさが知れ渡ってきたのでしょうか?」
再び、コクリと可愛らしく小首をかしげるリズちゃん。
いや、そうじゃないと思うが……。
チャックの兄さんの飯は確かに旨い。
だが、いきなりこんなに客を呼べる程かというと、流石にそこまでではない。
天才コックじゃあるまいし、その意見はちょっと無理がありすぎる。
でも、ホントになんでだろうな……。
そう思って、満員御礼状態の店内で耳をそばだててみると、気になる話が耳に飛び込んできた。
曰く……。
『3Fでかなり上位種と思われるドラゴンが出たらしい』
『いや、俺は炎の上位精霊が顕現したって聞いたぞ』
『何を言っているんだ。3Fに巣食っていた盗賊団が、ついに宮廷魔術師団の逆鱗に触れたのだ』
などなど……。
暑くもないのに、タラタラとこめかみの辺りを伝う汗。
残り少ないエールのジョッキを一気に呷る。
そして耳を塞ごうとするが、こんな話を一度耳にしてしまったら、後は嫌でも会話を拾ってしまう。
────盗賊団まねき猫の壊滅。
そして、そのアジトだった場所のあまりと言えばあまりの惨状に、発見したパーティから冒険者ギルドに報告があがったようだ。
ここ数日カンカーラに潜っていなかったから、そんなことになっているなんてまったく知らなかった。
で、今は調査中で、カンカーラが一時的に閉鎖されているとのこと。
つまり、暇を持て余した連中が、こうして酒場に大集合している訳だ。
金のない連中もいるので、ここハニービーにもその余波が及んでいると、そういう事のようだ。
つか、他人事のように考えている場合じゃない……。
どう考えてもヤバい。
これ、どう考えてもポチの『アレ』だ……って、ちょっと待て。
ギルドに報告? 一時的にカンカーラ閉鎖?
ハッ!?
即座に冒険者カードを取り出す。
そして、見る。
…………やっぱりか。
レベルは、カンカーラで山ほどのソロ戦闘を繰り返したおかげで『4』までは上がっていた。
仕事を『請け』ていないことを考えれば、驚異的な速度だったと思う。
レベルも6、7レベルぐらいまでは比較的上がりやすいのだ。8あたりから厳しくなり、10を超えるかというところまで行くと急激に上がらなくなる。
だが、低レベルのうちは割と面白いように上がる。
しかし、いま俺のカードに出ている数字は……『1』。
本部長の提案を受け入れて『100』の経験値という名の貢献値を得られたのだ。
カンカーラの閉鎖というギルド運営への大被害への代償として、なにがしかのペナルティーを貰っていないかと思ったわけだが……。
お仕置きが想像以上にキツい。
「これが『ドレイン』ってやつか……」
────貢献値の低下など、取得経験値の低下によって起こる『レベルドレイン』。
────怪我や呪い、魔法などによって能力が一時的あるいは永久的に低下する『ステータススポイル』。
────そして、主にアンデッドが使う、命の吸い取り行為である『無窮の飢餓』。
やっちまっている。
貢献値の低下……間違いない。
それにしても3レベル……。
こんなのねぇーよ、こんちきしょー。
ゴンッ!
カウンターに頭が落ちた。
肩じゃなくて頭が落ちた。
これに比べたら、さっきまでの嘆きなどヘソで茶が湧くレベルだ。
「ソードさん? どうしたんです?」
リズちゃんが聞いてくるが、誤魔化す気力も湧いてこない。
「なんでもねー……」
そう返すだけで精いっぱい。
明日から更に3日。ベッドの中で泣いて過ごそう。そうしよう。
いちごちゃんのおっぱいが恋しいよ……。
財布の薄さが憎い。
『4』から『1』に下がったのは、ただ単純に3レベル失ったという意味以上に辛い。
レベル4なら、ギルドで請け負える仕事も多少は『見られる』ものになってくる。
しかし、レベル1では金持ちが飼っているお犬様の散歩がせいぜいだ。
ま、まだこれからカンカーラ潜るし。レベルなんて、すぐ上がるし。上がるし。
自分を鼓舞するには、そう思うしかなかった。
なにせ、ヤケ酒をするための金すらない。
やはり、この世に神なんていやしねぇ。
心からそう思った。
涙がチョチョ切れ、袖が濡れた。
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