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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第20話 お仕置き

本日、20:00に次話投稿します。


「あいあい、わかったよ。リズちゃん」


「チャック。ソードさんが私を子ども扱いします」


 適当にいなしていたら、旦那に言いつけやがった。


 これ……、絶対俺間違っていないよね?


 カウンターの奥で他の客にエールを出していたチャックの兄さんは、困った顔をしながらこっちを向く。


「おい、ソード。うちの嫁をいじめて遊ぶな」


「いじめてねーって」


 今日はいつになく忙しそうだ。


 チャックの兄さんは一言苦言を呈したものの、すぐにこちらを放ってフライパンを取りだす。そして、また料理を作り始めた。


 改めて店内を見渡せば、四つある丸テーブルも今日はすべて埋まっており、カウンターの方も空きはわずかだ。


 そんな景色の中で、リズちゃんは異議を唱える。


「嘘です、チャック。ソードさんを叱って下さい」


 ほっぺたを丸々と膨らませて、プリプリと怒る奥様。


 どっからどう見ても、パーフェクトに『ちゃん』じゃねぇーか……。


 そう思わずにはいられなかった。


 だが、ここはグッと堪えて大人になる選択をば。


「それにしても、今日はいつになく混んでんね」


 奥様のご要望に応える暇もない兄さんを尻目に、シレッと話をずらす。


 リズちゃんの方も、さすがにこれ以上は引きずらずに話に乗ってきた。


「そうですね。こんなに沢山のお客様に来ていただいたのは、とっても久しぶりです。チャックのご飯のおいしさが知れ渡ってきたのでしょうか?」


 再び、コクリと可愛らしく小首をかしげるリズちゃん。


 いや、そうじゃないと思うが……。


 チャックの兄さんの飯は確かに旨い。


 だが、いきなりこんなに客を呼べる程かというと、流石にそこまでではない。


 天才コックじゃあるまいし、その意見はちょっと無理がありすぎる。


 でも、ホントになんでだろうな……。


 そう思って、満員御礼状態の店内で耳をそばだててみると、気になる話が耳に飛び込んできた。


 曰く……。


『3Fでかなり上位種と思われるドラゴンが出たらしい』


『いや、俺は炎の上位精霊が顕現したって聞いたぞ』


『何を言っているんだ。3Fに巣食っていた盗賊団が、ついに宮廷魔術師団の逆鱗に触れたのだ』


 などなど……。


 暑くもないのに、タラタラとこめかみの辺りを伝う汗。


 残り少ないエールのジョッキを一気に呷る。


 そして耳を塞ごうとするが、こんな話を一度耳にしてしまったら、後は嫌でも会話を拾ってしまう。


 ────盗賊団まねき猫の壊滅。


 そして、そのアジトだった場所のあまりと言えばあまりの惨状に、発見したパーティから冒険者ギルドに報告があがったようだ。


 ここ数日カンカーラに潜っていなかったから、そんなことになっているなんてまったく知らなかった。


 で、今は調査中で、カンカーラが一時的に閉鎖されているとのこと。


 つまり、暇を持て余した連中が、こうして酒場に大集合している訳だ。


 金のない連中もいるので、ここハニービーにもその余波が及んでいると、そういう事のようだ。


 つか、他人事のように考えている場合じゃない……。


 どう考えてもヤバい。


 これ、どう考えてもポチの『アレ』だ……って、ちょっと待て。


 ギルドに報告? 一時的にカンカーラ閉鎖?


 ハッ!?


 即座に冒険者カードを取り出す。


 そして、見る。


 …………やっぱりか。


 レベルは、カンカーラで山ほどのソロ戦闘を繰り返したおかげで『4』までは上がっていた。


 仕事を『請け』ていないことを考えれば、驚異的な速度だったと思う。


 レベルも6、7レベルぐらいまでは比較的上がりやすいのだ。8あたりから厳しくなり、10を超えるかというところまで行くと急激に上がらなくなる。


 だが、低レベルのうちは割と面白いように上がる。


 しかし、いま俺のカードに出ている数字は……『1』。


 本部長の提案を受け入れて『100』の経験値という名の貢献値を得られたのだ。


 カンカーラの閉鎖というギルド運営への大被害への代償として、なにがしかのペナルティーを貰っていないかと思ったわけだが……。


 お仕置きが想像以上にキツい。


「これが『ドレイン』ってやつか……」


 ────貢献値の低下など、取得経験値の低下によって起こる『レベルドレイン』。


 ────怪我や呪い、魔法などによって能力が一時的あるいは永久的に低下する『ステータススポイル』。


 ────そして、主にアンデッドが使う、命の吸い取り行為である『無窮(むきゅう)の飢餓』。


 やっちまっている。


 貢献値の低下……間違いない。


 それにしても3レベル……。


 こんなのねぇーよ、こんちきしょー。


 ゴンッ!


 カウンターに頭が落ちた。


 肩じゃなくて頭が落ちた。


 これに比べたら、さっきまでの嘆きなどヘソで茶が湧くレベルだ。


「ソードさん? どうしたんです?」


 リズちゃんが聞いてくるが、誤魔化す気力も湧いてこない。


「なんでもねー……」


 そう返すだけで精いっぱい。


 明日から更に3日。ベッドの中で泣いて過ごそう。そうしよう。


 いちごちゃんのおっぱいが恋しいよ……。


 財布の薄さが憎い。


 『4』から『1』に下がったのは、ただ単純に3レベル失ったという意味以上に辛い。


 レベル4なら、ギルドで請け負える仕事も多少は『見られる』ものになってくる。


 しかし、レベル1では金持ちが飼っているお犬様の散歩がせいぜいだ。


 ま、まだこれからカンカーラ潜るし。レベルなんて、すぐ上がるし。上がるし。


 自分を鼓舞するには、そう思うしかなかった。


 なにせ、ヤケ酒をするための金すらない。


 やはり、この世に神なんていやしねぇ。


 心からそう思った。


 涙がチョチョ切れ、袖が濡れた。

お読みいただきありがとうございました。


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