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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第18話 ポチ

本日の連投は以上になります。また明日、夕刻から連投します。


 言葉ではない。


 だが……意識の中に『できるよー』と”陽気な声”で伝えてきているような『感覚』。


 そして、それに困惑しつつも、本物だとはっきり認識している俺。


 今の俺にとって、目の前のおっさんたちより余程一大事であった。


 な……なんだ?!


≪…………♪♪≫


”声”はその問いには答えない。


 代わりに、ただ感覚だけを伝えてくる。『ダイジョブジョブ、まっかせてー』と。


 そして────。


 右手が光った。


 驚き、唯一の頼りである折れたポールアックスを思わず落とす。


 ヤバっ。


 思うが、すでに時は遅し。


 しかし、俺を置いてどんどん状況は進んでいく。


 最初は微かに。だがすぐに、明滅しながら光が周囲を染め始める。


 一面真っ白になった。


「「な、なんだ?!」」


 囲んでいたおっさんズも激しく動揺している。


 しかし、なんだと聞かれても困る。俺にもわからん。


 でも、答えはすぐに出た。


 光はすぐに収まった。


 そして、代わりに俺の右手には一本の槍。


 2m半に届こうかという美しい槍身。


 ビッシリと槍の柄に刻まれた古代文字は、うっすらと光を帯びている。


 一片の曇りもなく煌めく穂先は鏡のよう。


 ソケットの辺りでは赤のような、オレンジのような、あるいは黄色のような……そんな色の『炎』が、巻かれた布のように踊っている。


 そんな緋色の槍だった。


 そして、俺はこの槍に見覚えがあった。


『あの城』で消えた槍だ。


 あの時は掴んだら消えたが、いま手の中にあるそれは、まるで『いま起きました』と言わんばかりだ。


 圧倒的な『存在感』を周囲に撒き散らしながら、俺に語りかけてきている。


『処す? 処す?』と。


 槍は、『喜び』に満ち満ちていた。


 それを説明することはできない。


 ただ、俺にはそれが『わかった』。


 ヒュン、ヒュン、ヒュン────。


 無言で、手に現れた槍を振り回す。


 試しに振ってみずにはいられなかった。


 ただ、それだけなのだが、槍が振られるたびにおっさんらの足は後退する。槍が生みだす威圧感がハンパない。


 そして────。


 ピヒュンッ。


 最後に力強く一振り。


 その瞬間。


 ドパン────ッ。


 槍がまとっていた炎が大炎の波となった。囲んでいたおっさんズを襲う。


 眼を刺す閃光。赤、青、黄。


 噴き出る色のコントラスト。うねる炎が怒涛となって襲う。おっさんらは瞬時に呑み込まれた。


 そして、それにとどまらずに玄室そのものを満たしてしまう。


 強烈な光に目を細めながら、終わったと思った。俺自身も、炎の爆流に瞬く間もなく包まれたから。


 でも、不思議なことに俺自身はかすかに温かさを感じる程度。


 体どころか、服も装備も燃えていない。


 まるで、見えない何かに守られているかのように平穏の中にあった。


 適当に伸ばしっぱなしの髪が爆風の中に踊り、服も嵐の中の旗のよう。


 だが、それ以外は驚くほどに『何もない』。


 暴風と刺すような閃光が止み、細めていた眼を見開いた時、玄室の中はどえらいことになっていた。


 光源がなくなってしまった室内だが、それでもうっすらと中の様子がうかがえる。


 玄室の床も壁も天井も、全面焼け焦げていた。


 あちらこちらが液状化していて波打ち、ところどころで溶岩のようなオレンジ色の光を発している。


 いたるところで白い煙も上がっていて、よく見ればそこかしこがキラキラと輝いていた。


 冷えたところが、真っ黒なガラス状になっている……。


 当然、あの灼熱の爆流に呑まれたおっさんたちの姿はどこにもない。


 あの分では、燃えたんじゃなくて『蒸発』したんだと思う。


 いや、違うか。


 何もなかったはずの玄室の隅の方に、よくわからない灰色の塊があるような無いような……?


 もしかすると、『元』おっさんたちの一部かもしれない。


 プロメテオフレア≪原初の爆炎≫って……、こんなんだろうか。


 実際に見たことはないが、現存しているものの中では最強の炎系古代語魔法。


 使えるのは超高位の魔術師のみで、凄まじい量の熱と爆風を一瞬で生み出し、標的を燃やし尽くすと言われている最終奥義のような魔法……。


 それがプロメテオフレア≪原初の爆炎≫。


 そんなのに匹敵するような炎が槍から噴き出した。


 そう思うと一瞬膝が笑ったが、すぐにそれ以上の思いに体が震える。


 すっげ……。


 しかし、直後ガクリと力が抜けた。


 膝から崩れ、コケかける。


 尋常ではない疲労感に襲われ、眩暈がして立っていられなかった。


 というか、今この時も体中から……生命力とでも言おうか、俗にいう”元気”が奪い取られている感覚がある。


 そう、この『槍』に。


 手の中の槍を見る。


 まるで腹がいっぱいになった獣のように満足げだった。


 ゆったり、うっすらと明滅している。


 そして……。


≪♪♪……ケプ≫


 決定的な感覚が、意識の中を流れた。


 うん……間違いねぇ。


 原因は『コイツ』だ。『コイツ』が”吸って”いる。


「おい、こら。助けてくれたのは感謝するが、このままだと動けんくなるわ。”食う”のヤメロ」


 手の中の槍に向かって言った。


≪…………!!≫


 あ、なんか文句言ってやがる。


『まだ足りない。もっと。プリーズ!』って言っているのを感じる。


 ……仕方ねぇな。


「わかったわかった。ちょっと休憩したら、すぐにまた出してやるから。今はひっこめ。さすがの俺も、このままというのはマズい。お前だって、起きて早々ご主人様が死んだら困るだろうが?」


 駄々っ子をなだめすかすように語りかける。


 まあ、どう考えても『コレ』に憑りつかれている訳で……。


 こうなっては是非もなし。


 慌てても仕方がない。なるようにしかならん。


 まずは友好的に、なんとか説得をば……。


 槍は再び明滅し、なにやら思案しているような気配を感じた。


 その直後、グリニアの城の時の様に、フッと空気に溶けるようにして消える。


「……ふぅ」


 どうやら言う事を聞いてくれたらしい。


 一件落着だった。


 武器なしで大勢の敵に囲まれた時はどうなるかと思ったが、訳のわからん助かり方をしてしまった。


 ……代わりに、なんか変なものに憑りつかれていることも確定してしまったわけだが。


 でも、これ間違いなくグリニアの城の時点で、すでに『お友達』だったんだろうなあ。


 まあ、もう今更考えても仕方ない。


 終わった話と諦めるしかない。


 でも、悪いことばかりじゃない。


 すげぇ威力だった……。


 周りを改めて見まわす。


 部屋の中の惨状は、筆舌に尽くしがたい。


 だが、殺し合いの現場にありがちな生臭さがない。


 それすらも燃え尽きていた。


 部屋はまるで、超高温が発生した事故現場の様だ。日常では見ることがない異様な景色になっている。


 そんな玄室を出て、壁を背にして腰を下ろす。


 少し休まないと……。


 今のまま動くのは危険すぎる。かつてないほどの疲労感だ。


 とりあえず、少しでも体力を回復しよう。


 槍との約束もある。


 破って憑り殺されたらかなわないからな。




 元々体力には自信がある方だ。


 何より若い。


 ちょっと休めば、なんとかなる。


 その後、覚悟を決めて再び槍を呼び出す。


 出ろと念じると出た。


 先ほど同様、嬉々とした感情を俺に伝えてくる。


 まるで、散歩に行くぞと声を掛けた時のワンコのようだ。


 それだけに、このまま仕舞ったら、またへそを曲げかねない。


 仕方がないから、もう一度盗賊どものアジトへと戻ることにする。


 どうせ働くなら、それなりの身入りを期待したい。


 ってことで、まずはこのやたら強力だがよくわからん槍の力を適当なモンスター相手に測ることにした。


 さすがの俺でも、こんなよくわからんもん持ってカチコミをかけるのは憚られた。


 で、盗賊のアジトの方に向かいながら、出会うモンスターたちを相手に槍を使う。


 と、いくらかわかってきた。


 まず……この槍は素晴らしく鋭い。


 ぶっちゃけモンスターどころか、岩や壁面にも余裕で刺さる。


 そのくせ穂先に傷一つ付かない。


 一体何でできているのかと。


 ボロだが金属製の長盾を持った戦士崩れ相手に、六連撃の突きを見舞ったら普通に丸い穴が六個、盾に空いた。


 あと、これが最高に使えるのだが……。


 投げまーす。


 ヒューン。プス。


 壁に刺さる。


 少し離れて……、『戻れ』。


 頭の中で念じると、刺さった槍は手の中から掻き消えたときと同じように空気に溶け、再び俺の手の中で形を作る。


 ますますワンコだった。


 無茶苦茶頑丈なうえに、どれだけ投げてもなくならない手槍。


 まるで、投げた棒を咥えて帰ってくる犬の様。


 コイツの名前は『ポチ』に決まった。


 全俺一致の、意見の統一を見た。


 で、ある程度わかったので、コイツを連れて野盗の残りの皆さんから『詫び料』を徴収しに行く。


 怖かったからな。


 うん。これは正当な請求だ。


 ったのだが……。


「……ポチ。お前早く”手加減”を覚えような?」


 手の中の槍に優しく語りかける俺。


 多分、俺の顔面は笑顔を作りながらヒクヒクと震えているはずである。


 ポチは尻尾を丸めて、ケツをこちらに向けていた。


 そんな感覚が、頭の中に流れ込んできている。


 盗賊のアジト……いや、かつてアジトだったはずの玄室の景色は、真っ黒でところどころピカピカと光る先ほどのアレ。


 当然、ここの住人達が真面目にコツコツと働き、新人冒険者たちを襲っては溜め込んでいただろうお宝の数々も、部屋の隅で物体Xになっている。


 今日こそチャックの兄さんのところで豪遊しようと思っていたのに、今晩のメニューも豆とわずか一杯のエールに決まった。

お読みいただきありがとうございました。


できましたら、すぐ下にある評価フォームからポイント・感想などをいただけましたら幸いです。良かったら良かった、悪かったなら悪かったとそのまま評価していただければ結構です。


もちろん、リアクションだけでも結構ですので、ぜひよろしくお願いします! 無茶苦茶作者のモチベーションが変わります。




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