第15話 カンカーラ2F~3F
本日22:00に2話連投します。
あ~、気が重っ。
魔術師……魔術師なあ……。
やめやめ。
とりあえず、行くとこまで行ってからだ。働かにゃあ飯が食えん。
貧乏冒険者の悲哀だ。
でも兄さんの話のおかげで、今日の方針は明確だ。
先に進むことを優先する。4Fまでは『テスト』だ。
だから、そこまでは危険も少ない。
が、同時に旨みも少ない。
獰獰狩りのような目的でもなければ、上に拘っても意味がない。
ギルドがそのつもりで運営している以上、間違いないだろう。
ってなわけで、目指すは二階への階段。
ゴー、ゴー、レッツラゴーってなもんだ。
冒険では勢い大事。
ノリノリでその気になって探せば、2Fに降りる階段はすぐ見つかった。
普通なら、ここでいったん態勢を整え直してってところだが、今回はこのまま進軍。
探索をやめるには、まだ時間が早すぎる。
何より2Fで出会うモンスターが、1Fとそんなに変わらない。
せいぜいオークやロブ・アントが混じるようになった程度か。
クソガキくらいの大きさはある、デカい蟻──ロブ・アント。
群れる上にちと固く、顎の力が結構強力で光物に飛びつく習性があるのが厄介だ。
金属製の盾や小物を持っていると結構ヤバい。突進してきて奪われた、なんて話もよく聞く。
戦闘経験の少ない戦闘初心者だと、少々手こずるだろう。
だが、俺の敵ではない。
しかぁし! こいつは食えないし、売れない。
戦闘は避けたい。
でも、それを抜きにすれば、ただのデカいだけの蟻だ。
シバきあげるのに苦労するほどの相手ではない。
代わり映えのしないモンスターたちを、殴り飛ばしながら奥へと進む。
相変わらず続く、成形感バリバリの迷宮の道。
ひたすら進み、3Fへの階段と猿の鍵を探した。
チャックの兄さんから、2Fに降りた階段からそれほど離れていない場所に3Fへの階段はあると聞いている。
猿の鍵も、2Fのかなり奥まったところにある『玄室』にあるらしい。
そういや、『玄室』ってなんぞとチャックの兄さんに尋ねたら、「マジか……」と呆れられたっけ。
いかんせん俺は、『冒険者としては』素人同然のペーペーなので、こういうことも偶にある。
が、ご愛嬌だ。
要は、迷宮の中の『部屋』のようなもの。
モンスターの巣になっていたりすれば、中でお宝や硬貨・宝石の類が見つかることもあるとのことで、そういう特別な部屋という意味で『玄室』という呼称が付けられたのだとか。
という訳で。
3Fへの階段を探す前に猿の鍵を取りに行く。
メンドくさいが、取らないと4Fで詰むことになるのでやるしかない。
猿の鍵の玄室では、『チャックモンキー』との戦闘になった。
猿の人形型アンデッド。
殺人鬼の魂を宿しているなんて言われるほどに邪悪な表情と、殺意に満ちた真っ赤に輝く目がチャームポイントのクソモンスターだ。
とにかく素早く、ショートソードと小さな手斧を振り回してくる。
油断をすると、こちらを惑わす速い動きから首を狙われて即死──なんてこともある。割とシャレにならない。
だが冷静にさばいて、小さい体を打ち上げてしまえば、それまでだ。
自慢の素早さも役には立たない。
空中で足掻いている所にポールアックスを振れば、あっけなく片付いた。
猿の鍵は、玄室の中央にある台座の上にあった。
少々古めかしいが、迷宮の中にあるにしては不自然なほどに小綺麗な、木製の台座の上にあった。
一抱えにできる程度の水晶像──『見猿、聞か猿、言わ猿』の三体に囲まれて、普通に置かれていた。
これで三つの鍵のうち二つをゲット。
あとは、3Fへの階段を探して進むだけだ。
3Fへの階段を見つけて降りると、フロアの空気感がそれまでとは少し違った。
フロア自体には変化はなく、景色も今まで通りに人の手が加わった感のあるソレ。
だけど……。
スンスン。
鼻を鳴らしながら、空気の臭いを改めて確かめる。
死臭が混じっている……気がする。
はっきりとわかる程に強い臭いではない。だが……。
それに、人工感バリバリだろうが迷宮は迷宮。
先に入った冒険者の死体に出くわしたとて、なんの不思議もない。
ないんだが、パッと見で周りにそれらしき『モノ』がないのが問題だ。
心ざわめくモノがある……。
でも、とりあえずは無視することにした。
考えてもわからなければ、退くか、進むかの二択。
なら、無視して進む。
なんとか少し先が見える程度に薄暗い視界。時折、不気味な鳴き声も聞こえてくる。
だが、探索完了範囲を少しでも広げるべく、気を抜かずに未踏破エリアを埋めていく。
こういった地道な作業は、はっきり言ってメンドクサイ。
性にも合わない。
だが、この手のことで手を抜くとガチで命の取捨をする羽目になる。
それは、今までにもさんざん体で覚えてきた。
だから、こういう所で手を抜く気はない。
貧しくとも楽しくがモットー。
無駄に自殺をする気はまったくない。
探索を続けていると、北西の角とでも言うべき箇所で、不自然な横穴を見つけた。
入口は人二人がなんとか通れる程度の広さで、穴の向こうは天井の高さも横幅もそれなりにありそう。
では、あるのだが……。
今までのフロアの通路は、形が非常に整っていてほぼ真四角だった。
極めて人工臭いという点で迷宮としては不自然ではあったものの、とても整っていた。
だが、いま目の前にあるものは、そのルールを無視している。
極めて『整っていない』。
整った通路の壁を、何かでぶち抜いたような穴だ。
穴自体は西に向かって開いているが、奥は北へ向かって深く伸びている。先は見えない。
「これは……いや、今日はやめておこう」
迷った。
先に進むべきかどうか。
だが、今日進むのはやめる。
そろそろ探索をあがる時間だ。腹時計がそう言っている。
が、それ以前に、なんとなく今日進むべきではないような気もした。
こういう、『なんとなく』という虫の知らせは軽視できない。特に冒険者のような仕事をしていると。
これで、今までに何度命を助けられたことか。
経験を重ねれば重ねるほど、笑い飛ばせなくなった。
だから、勘は粗末にしない。
神は信じられないが、自分の勘は信用できる。
だから、今日はここはパス。
とりあえず、踵を返す。
すると、このフロアでどうして死臭がするのか、その理由がわかった。
ゾンビ六体が崩れかけた体を引きずりながら、白く濁った眼でこちらを見ていた。
「……なるほどね」
腰をためてポールアックスを構える。
ズルリズルリ──腐肉を引きずる音が響く。
近寄ってくる腐乱死体。伸びてくる腕は、『生』を狙っていた。
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