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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第15話 カンカーラ2F~3F

本日22:00に2話連投します。




 あ~、気が重っ。


 魔術師……魔術師なあ……。


 やめやめ。


 とりあえず、行くとこまで行ってからだ。働かにゃあ飯が食えん。


 貧乏冒険者の悲哀だ。


 でも兄さんの話のおかげで、今日の方針は明確だ。


 先に進むことを優先する。4Fまでは『テスト』だ。


 だから、そこまでは危険も少ない。


 が、同時に旨みも少ない。


 獰獰(ドウドウ)狩りのような目的でもなければ、上に拘っても意味がない。


 ギルドがそのつもりで運営している以上、間違いないだろう。


 ってなわけで、目指すは二階への階段。


 ゴー、ゴー、レッツラゴーってなもんだ。


 冒険では勢い大事。


 ノリノリでその気になって探せば、2Fに降りる階段はすぐ見つかった。


 普通なら、ここでいったん態勢を整え直してってところだが、今回はこのまま進軍。


 探索をやめるには、まだ時間が早すぎる。


 何より2Fで出会うモンスターが、1Fとそんなに変わらない。


 せいぜいオークやロブ・アントが混じるようになった程度か。


 クソガキくらいの大きさはある、デカい蟻──ロブ・アント。


 群れる上にちと固く、顎の力が結構強力で光物に飛びつく習性があるのが厄介だ。


 金属製の盾や小物を持っていると結構ヤバい。突進してきて奪われた、なんて話もよく聞く。


 戦闘経験の少ない戦闘初心者だと、少々手こずるだろう。


 だが、俺の敵ではない。


 しかぁし! こいつは食えないし、売れない。


 戦闘は避けたい。


 でも、それを抜きにすれば、ただのデカいだけの蟻だ。


 シバきあげるのに苦労するほどの相手ではない。


 代わり映えのしないモンスターたちを、殴り飛ばしながら奥へと進む。


 相変わらず続く、成形感バリバリの迷宮の道。


 ひたすら進み、3Fへの階段と猿の鍵を探した。


 チャックの兄さんから、2Fに降りた階段からそれほど離れていない場所に3Fへの階段はあると聞いている。


 猿の鍵も、2Fのかなり奥まったところにある『玄室』にあるらしい。


 そういや、『玄室』ってなんぞとチャックの兄さんに尋ねたら、「マジか……」と呆れられたっけ。


 いかんせん俺は、『冒険者としては』素人同然のペーペーなので、こういうことも(たま)にある。


 が、ご愛嬌だ。


 要は、迷宮の中の『部屋』のようなもの。


 モンスターの巣になっていたりすれば、中でお宝や硬貨・宝石の類が見つかることもあるとのことで、そういう特別な部屋という意味で『玄室』という呼称が付けられたのだとか。


 という訳で。


 3Fへの階段を探す前に猿の鍵を取りに行く。


 メンドくさいが、取らないと4Fで詰むことになるのでやるしかない。


 猿の鍵の玄室では、『チャックモンキー』との戦闘になった。


 猿の人形型アンデッド。


 殺人鬼の魂を宿しているなんて言われるほどに邪悪な表情と、殺意に満ちた真っ赤に輝く目がチャームポイントのクソモンスターだ。


 とにかく素早く、ショートソードと小さな手斧を振り回してくる。


 油断をすると、こちらを惑わす速い動きから首を狙われて即死──なんてこともある。割とシャレにならない。


 だが冷静にさばいて、小さい体を打ち上げてしまえば、それまでだ。


 自慢の素早さも役には立たない。


 空中で足掻いている所にポールアックスを振れば、あっけなく片付いた。


 猿の鍵は、玄室の中央にある台座の上にあった。


 少々古めかしいが、迷宮の中にあるにしては不自然なほどに小綺麗な、木製の台座の上にあった。


 一抱えにできる程度の水晶像──『見猿、聞か猿、言わ猿』の三体に囲まれて、普通に置かれていた。


 これで三つの鍵のうち二つをゲット。


 あとは、3Fへの階段を探して進むだけだ。




 3Fへの階段を見つけて降りると、フロアの空気感がそれまでとは少し違った。


 フロア自体には変化はなく、景色も今まで通りに人の手が加わった感のあるソレ。


 だけど……。


 スンスン。


 鼻を鳴らしながら、空気の臭いを改めて確かめる。


 死臭が混じっている……気がする。


 はっきりとわかる程に強い臭いではない。だが……。


 それに、人工感バリバリだろうが迷宮は迷宮。


 先に入った冒険者の死体に出くわしたとて、なんの不思議もない。


 ないんだが、パッと見で周りにそれらしき『モノ』がないのが問題だ。


 心ざわめくモノがある……。


 でも、とりあえずは無視することにした。


 考えてもわからなければ、退くか、進むかの二択。


 なら、無視して進む。


 なんとか少し先が見える程度に薄暗い視界。時折、不気味な鳴き声も聞こえてくる。


 だが、探索完了範囲を少しでも広げるべく、気を抜かずに未踏破エリアを埋めていく。


 こういった地道な作業は、はっきり言ってメンドクサイ。


 性にも合わない。


 だが、この手のことで手を抜くとガチで命の取捨をする羽目になる。


 それは、今までにもさんざん体で覚えてきた。


 だから、こういう所で手を抜く気はない。


 貧しくとも楽しくがモットー。


 無駄に自殺をする気はまったくない。


 探索を続けていると、北西の角とでも言うべき箇所で、不自然な横穴を見つけた。


 入口は人二人がなんとか通れる程度の広さで、穴の向こうは天井の高さも横幅もそれなりにありそう。


 では、あるのだが……。


 今までのフロアの通路は、形が非常に整っていてほぼ真四角だった。


 極めて人工臭いという点で迷宮としては不自然ではあったものの、とても整っていた。


 だが、いま目の前にあるものは、そのルールを無視している。


 極めて『整っていない』。


 整った通路の壁を、何かでぶち抜いたような穴だ。


 穴自体は西に向かって開いているが、奥は北へ向かって深く伸びている。先は見えない。


「これは……いや、今日はやめておこう」


 迷った。


 先に進むべきかどうか。


 だが、今日進むのはやめる。


 そろそろ探索をあがる時間だ。腹時計がそう言っている。


 が、それ以前に、なんとなく今日進むべきではないような気もした。


 こういう、『なんとなく』という虫の知らせは軽視できない。特に冒険者のような仕事をしていると。


 これで、今までに何度命を助けられたことか。


 経験を重ねれば重ねるほど、笑い飛ばせなくなった。


 だから、勘は粗末にしない。


 神は信じられないが、自分の勘は信用できる。


 だから、今日はここはパス。


 とりあえず、踵を返す。


 すると、このフロアでどうして死臭がするのか、その理由がわかった。


 ゾンビ六体が崩れかけた体を引きずりながら、白く濁った眼でこちらを見ていた。


「……なるほどね」


 腰をためてポールアックスを構える。


 ズルリズルリ──腐肉を引きずる音が響く。


 近寄ってくる腐乱死体。伸びてくる腕は、『生』を狙っていた。

お読みいただきありがとうございました。


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