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クズの槍使いが自由に生きて英雄になる方法~手配No.1072 ソード=マスター~  作者: 木庭 秋水


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第14話 ハニービー②

本日21:00に次話投稿します。




 ジャイアントトードのジャーキーに、レンズ豆とベーコンの香辛料煮、羊のチーズに黒パン──決して上等とは言えないメニューではあったが、チャックの兄さんがワンプレートにしてくれた。


 そして……。


「…………ング、ング、ング、ング。ぷっは────ッ。うめぇ。こいつがあれば、とりあえず今日一日が終わるってもんだ」


 なみなみと注がれ、縁から泡をあふれさせるエールの大ジョッキ。


 呷れば、幸せの波が広がっていく。喉の奥から体中へ、一気に満たされていった。


「良い飲みっぷりだ。まだメニューは寂しいが、エールだけはしっかり仕入れてある。うちの売り上げのためにも、ガッツリ飲んでいってくれ」


 口の周りに着いた泡を舐めている俺に、笑いながら言うチャックの兄さん。


 もう一度、ジョッキを呷ってから言い返してやった。


「ん~、うめ。ツケで良ければいくらでも飲んでいくぜ?」


「馬鹿言ってんじゃねぇ。冒険者にツケなんかで飲ませるかよ。現金置いていけよ、現金!」


「そりゃそうだ。あはは」


 うん。ハルクの親父が異常なだけで、これが普通。


 またジョッキを呷る。


 そして、今度はジャーキーを一つつまみ、噛み千切った。


 ホント、もうちっと稼げてりゃあなあ。店の再開祝いも兼ねて、豪遊していってもよかったんだが。


 宝箱なんて当然見つからなかったし、素材になりそうなモンスターにも出くわさなかった。


 せいぜい肉が売れる獰獰(ドウドウ)くらいか……。その肉も諦めて置いてきたが。


 冒険者崩れの半端モンどもまでいなかったら、今日の稼ぎはガチでゼロだったぞ。


 つか、あの迷宮ホントに天然ものか?


 人工物感ありありのくせに倉庫として使われていそうな部屋もないし、あの感じがずっと続くならお宝なんてあるとは思えん……。


 って、そういや、さっきチャックの兄さん言っていたよな。『元』冒険者だって。


 ダメもとで聞いてみるか……。


「なあ、兄さん」


「なんだ?」


「さっき、元冒険者だったって言っていたけど、カンカーラにも潜っていたんか?」


 尋ねると、兄さんはニヤと意味ありげに笑う。


「……ほう。馬鹿っぽく見えるわりに、ちゃんと人の話を聞いているじゃないか」


「馬鹿は余計だよ。それで?」


「もちろん、カンカーラにも潜ったことがあるぜ。8階までならな」


 やっぱり。


「……それって教えてと言ったら教えてもらえるもの?」


 かなり図々しいことを言っている。でも、言うのはタダ。ダメもとで勝負だ。


 兄さんは、ワザとらしく肩をすくめた。


「タダで教えろってか?」


「できれば。貧乏で新米な後輩を憐れんでくれると、とても有難いんだが」


「お前は、そんな可愛らしいタマには見えないんだがな」


 必死に食い下がる俺を見て、クックッと喉を鳴らして笑う兄さん。


 ほっとけ。


 俺は、貧乏神とはずっと友達なんだよっ。


「なあなあ。これからも、ここでメシ食うから! ここはひとつ、そのあたりで大サービスしてくれよ。さっきサービスしてくれるって言ったじゃん」


 もう盛大に駄々をこねた。


 パンッとデカい音を立てながら両手を合わせ、ひたすら拝み倒す。


 そんな俺に、兄さんはため息を一つ吐く。そして、後ろを向いて店の奥の方へと歩きだした。


 空のジョッキを一つ手に取り、エールを注いで戻ってくる。


「仕方ない……。まだ冒険者の店も開いていないしな。だがソード、これはお前のおごりだぞ。で、何が聞きたいんだ?」


 零れそうなエールのジョッキを軽く掲げて、ウインクをした。


「やったね。兄さん太っ腹! 実はさ、今日こんな鍵を中で拾ったんだけどさ────」




 この後に聞いたチャックの兄さんの話で、今日最大の謎だったものがまず解決した。


 あの何とも言えない『気持ち悪さ』に関して。


 カンカーラの1F~4Fは、冒険者ギルドや宮廷魔術師団がきっちり管理しているらしい。


 国が運営している『迷宮アミューズメント』。本物のカンカーラは5F以降なのだとか。


 なるほどと腑に落ちた。


 死なない遊技場ではないが、なんというか至れり尽くせりで『挑む』という感覚からは程遠い雰囲気。


 この齟齬のせいで、気持ち悪かったのだ。


 拾った『犬の鍵』も、冒険者ギルドの手で置かれるらしい。


 一定時間ごとにあるかどうかが確認され、なければ新しく置かれる。


 こんなの、迷宮に挑むつもりで潜った身からすれば、気持ち悪さの一つも感じて当然だ。


 で、あの『犬の鍵』は4Fにある『繁栄の門』の扉を開けるのに使うのだという。


 扉の鍵穴は三つあって、その一つが『犬の鍵穴』。残りの二つは『猿の鍵穴』と『雉の鍵穴』。


 そして、『繁栄の門』は桃の形をしているのだという……。


 お遊びじみていて泣けてくる。


 でも、チャックの兄さんの意見は少し違う。


「本物に挑む前に、最低限の能力くらいはあるかどうかで”ふるい”にかけているのだろう」


 5F以降まで降りた兄さんに言わせると、『1F~4Fの間で死んだり詰まったりするようなのは論外。しかし、それを簡単に乗り越えるだけの能力があっても、最初の戦闘でいきなり死にかねないのが本物のカンカーラだ』とのこと。


 だから、一切の情報を出すことなくギルドがクエストを設けている。


 それを乗り越えられた者たちだけに、本物のカンカーラへの通行許可証『グリーンメダルリボン』が渡される。


 新米冒険者までいきなり本物の迷宮に降ろせば、カンカーラに挑もうとする者の数が激減してしまうからだ……迷宮に積み上がる死体の山のせいで。


 そんなことになれば、今度は冒険者ギルドが組織運営の面から困る。


 挑戦者が少数精鋭に変わるということは、ギルド利用者の数が減るということを意味する。


 それはギルドとしては受け入れがたい。


 だから、こんな面倒なことをしているのだろうというのが、チャックの兄さんの見解だった。


『繁栄の門』を潜ると小さな部屋があって、そこにはギルド職員が常駐している。


『グリーンメダルリボン』が渡され、部屋のさらに奥にあるエレベーターなる装置で本物のカンカーラに降りられる。


『グリーンメダルリボン』は、その装置を起動させるマジック鍵になっているのだそうだ。


 そして、本物のカンカーラには『そのエレベーターでしか』降りられない。


 これを聞いて、明日からまた頑張ろうという気になった。


 ハルクの親父の話からしても、迷宮はこの都市の経済活動において、未だに大きな部分を占めている。


 その経済効果は、決して小さくないという。


 それを守るためにこんなお遊びが用意されたと言われれば、それはそれで納得がいった。


 それに、先に本物があるという安心感が飲み込む苦さを和らげる。


 やれやれとは思う。


 だが、じゃあまあ早いところ本物に挑めるように頑張ろうかという気にはなる。


 これがわかっただけでも、兄さんにエールを奢った甲斐があったというものだ。


 ああ、あと『雉の鍵』を手に入れるために、どうしても魔術師の力を借りる必要があるとわかったことも大きな収穫だ。


 クリスタルの中に『埋まった』鍵を取り出すために、どうしても魔術師の力が必要らしい。


 パーティーに魔術師がいないなら、きちんと考えておけと言われ、ソロだと返したら、なおのこと魔術師のことは考えておけと再忠告された。


 4Fまではともかく、5F以降はマジでしんどいからと。


 鍵に関しても、丸ごと持って帰ってきて町の魔術師に依頼するのも手だが、クリスタル自体が一抱えほどの大きさがあるから、その場で鍵を取り出す方が楽だと断言された。


 言われりゃ、その通りだろうとしか思えない。さすがは歴戦の強者の言葉。説得力が違う。


 とは言え、だ。


 魔術師かあ……。


 5F以降の話はとりあえず置いておくとしても、ギルドの余計なおせっかいに泣きそうになる。


 だって、俺の知り合いの魔術師ってハルクの親父しかいないんだが?


 あれに頼めってか?


 代わりに何を言われるか、わかったもんじゃない。


 ジョッキに半分ほど残っていたエールを一気に呷ると、もう一杯オーダーする。


 それと同時におもっくそ深いため息が漏れた。

お読みいただきありがとうございました。


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