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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
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フミヨの御伽噺14 フタバとキキ

 ロクロウに戻ったフタバちゃんは、同じく変身を解いて林 昌司という人に戻ったキキと、落ち着いた雰囲気のバーに入り、ウィスキーのグラスを傾けながらお互いの話をしました。

 ロクロウはすでに二十歳を迎えていましたが、柔道部の打ち上げでたまにビールを口にする程度で、バーに入るのもウィスキーを口にするのも初めてでした。

 林さんは35歳。京都市内でジムのトレーナーをやっており、ほぼ毎日「変身」しているのだそうです。

 「女装」や「変身」について語り合える仲間のいなかったロクロウにとって、林さんの話しはとても新鮮でした。なにより同好の士と知り合えた喜びは大きく、これまで必死に内に秘めてきた想いを、ごく一部の人だけとはいえ気兼ねなく吐き出すことができるというのは、ロクロウにとって本当に心安らぐ体験でした。

 変身を解いた後の林さんは、体つきががっしりした普通の会社員といった風情で、話し口調もロクロウの周りにいる社会人たちとなんら変わりません。

「俺を見てる目つきですぐ分かったよ。あ、仲間だなって」

 落ち着いた声音で語る林さん。店内の客は自分たち二人だけですが、カウンターのすぐ向こうでは口髭を生やしたマスターがコップを拭いています。

 マスターを気にするロクロウに林さんは笑って言いました。

「大丈夫、マスターも仲間なんだ」

 林さんの言葉に、マスターはニコリとしてロクロウに黙礼しました。どうやら、普段知らずにいるだけで色んなところに変身仲間はいるようです。

 林さんが初めて変身したのはロクロウと同じ小学5年生の時。きっかけを聞いてみると、なんと林さんにも姉がおり、姉の服に興味を惹かれたのが「変身」を始めたきっかけだったとのこと。

 二人はすっかり意気投合し、互いに連絡を取り合うようになりました。林さんは普段大学の寮に住んでいるロクロウのために、大学近くの「変身」スポットや仲間たちを紹介してくれました。もし、たまの休みに変身できる環境がなければ、ロクロウは大学を辞めていたかもしれません。

 ロクロウは月に一二度、フタバちゃんに変身し、溜まったストレスを発散し、自分自身に元気を充填しながら残りの大学生活を送りました。

 柔道の方はどうかといえば、残念ながら在学中は目立った成績を上げることができませんでした。心が明るくなったロクロウは、中学、高校時代よりも熱心に稽古に取り組んだほどでしたが、結果は出ませんでした。

 これはロクロウのせいではありません。日本の柔道の裾野は広く、その中には信じられないような柔道モンスターが数多く存在するのです。ロクロウなど足下にも及ばない柔道星人たちがしのぎを削り、勝ち残った者がようやくオリンピックや世界大会の出場切符を手にすることができるのです。

 ロクロウは大学卒業後、京都警察に就職し、警察官となりました。

 そして休みの日にはフタバに変身するのです。この変身はもう趣味などというレベルではなく、ロクロウ自身、自分の中に存在するロクロウとフタバちゃんという二人の人格について、どちらが主でどちらが従なのか分からなくなっているほどでした。

 ただ、ロクロウとフタバちゃんの二人とも、このことが世間にバレたら今の生活が破綻することは理解しています。

 ロクロウとフタバちゃんは共に極めて慎重に行動し、正体が決してバレないよう細心の注意を払いながら、双葉六郎という身体を共有し、二重生活を楽しんでいるのです。

 勤務日はロクロウ。非番の日はフタバちゃん。街の安全を守る警察官としての世界。女子であって女子でない女子高生の世界。二つの世界を行き来しながら、ロクロウは自分の運命をすっかり受け入れ日々を生きるのでした。

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