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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
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フミヨの御伽噺12 天使降臨

 再び輝きを取り戻したロクロウの人生。ロクロウは柔道の才能を買われ、奈良体育大学に入学します。奈良体育大学は全日本学生柔道選手権を幾度も制覇した柔道名門大学です。

 実を言うとロクロウは、奈良体育大学への進学にあたって少し悩みました。決して柔道馬鹿ではなく、学業成績もそこそこ良いロクロウです。柔道は高校まででよいかもという考えが頭をよぎったとしても無理からぬことでしょう。

 悩んだ末、ロクロウは柔道を続ける決意をしました。柔道が好きというのもありましたが、やはり大きかったのはオリンピックです。いつかオリンピックに出てみたいという思いは、自分だけでなく父親の夢でもありましたから。

 さて、悩みながらもいざ入学してみると、中学時代と違って寮生活も我慢できなくもありません。運動部特有の上下関係や閉鎖空間で暮らす息苦しさはあるものの、気の合う仲間もでき、折り合いをつけながら寮生活を送るロクロウなのでした。

 そんなロクロウにとって運命の出会いが訪れたのは、大学三回生の夏休みのことです。

 厳しい柔道部の夏合宿を終え、短い帰省休暇中のことでした。

 一人、地元京都の繁華街で息を抜くロクロウ。蒸し暑く、まだ薄っすらと日の残る駅前の広場です。

 おしゃれな時計塔を囲む円形広場。サークル状に配置されたステンレスパイプ製のベンチ。

 ロクロウは普段は禁止されている炭酸飲料のペットボトルを煽りながら、ふとベンチの一角に目を留めました。

 街灯の光線の加減でしょうか。車のヘッドライトでしょうか。不思議なことにそこだけが光ったように感じたのです。


 あっー


 ロクロウは思わず甘いジュースをこぼし、襟元を濡らしてしまいました。

 そこにいたのは一人の女子高生でした。白い夏物のセーラー服。赤いリボン。紺のスカートは太ももの付け根ギリギリの丈です。

 ロクロウは人目も憚らずその女子高生を食い入るように見つめてしまいました。豊かで大きな胸は横にグイとせり出し、剥き出しの二の腕と共に綺麗な逆三角形を作っています。夜目にも艶めかしい太ももは美しい筋肉が束になって浮き出ています。ふくらはぎは白子をたっぷり腹んで丸々太った鱈のようです。


 あっー あの人ー


 ロクロウの身体がブルリと大きく震えました。自分でも忘れていた何かがひょっこりと顔を覗かせたような。ドアを開けるとそこに長らく会っていなかった友人が立っていたような。

 向かいのベンチに腰掛けているセーラー服姿の女子高生、いえ、女子高生の格好をした人は男なのです。

 ロクロウは瞬きも忘れてそのセーラー服姿の男性に見入ってしまいます。

 ロクロウはとても不思議な感覚を味わっていました。まるで小学生時代の自分がフタバちゃんに変身した姿を自分で眺めているような、例えるなら幽体離脱した自分が、横たわる自分を天井から見つめているようなそんな気持ちです。

 ロクロウがセーラー服姿の人に目を奪われたのは、時間にするとほんの十秒ほどだったことでしょう。でもロクロウにはそれが数分にも感じられました。

 そしてついに運命の扉は開きました。相手の祖先がロクロウの視線と重なったのです。

 しばらくの間二人は見つめ合い、セーラー服の人はベンチから立ち上がるとロクロウに向かってまっすぐ歩いてきます。

 リズミカルに揺れる尻。誇らしげに反らされた胸。恥ずかしげでありながらどこか大胆な表情。

 ロクロウはポカンと口を空けたまま身じろぎすることもできず、ただジッと軋みを上げながら運命の扉が開くのを見つめていました。

「こんばんわ」

 アルコールとタバコで嗄れたセーラー天使の声が響きます。ロクロウの鼓膜がビビンと震え、背骨に沿って電気が走ります。

「よかったら、少しお話ししない?」

 セーラー服の天使はタバコのヤニの香りのする甘い声で言いました。

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