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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
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フミヨの御伽噺4 魔法少女フタバ

 ロクロウ少年はそれからも度々姉の制服を身に着けて、密やかな変身を楽しみました。

 姉は年頃の女子ですので可愛らしい私服もたくさん持っていたのですが、ロクロウ少年はいつも学校の制服、セーラー服を選んで着ていました。

 白地に紺ラインの入った夏物のセーラー服に短いプリーツスカート。ファンシーな柄の下着に白い靴下。

 それらを身に着け姉の部屋の姿見の前で女子中学生のようにポーズをとってみるのです。

 姿見の前には姉の使う化粧品の瓶やチューブが所狭しと並んでいます。ふと興味が湧いてそのうちの一つを手に取り使ってみたことがあります。

 ロクロウ少年が手に取ったのは四角いコンパクトケース。ロクロウは知りませんでしたがアイシャドウという化粧品です。瞼に塗ることで目元を華やかにしてくれます。

 ケースを開くとフワリと香料が香ります。一瞬姉の匂いだと感じたロクロウですが、よく嗅いでみると少し違うようです。姉からはもっと複雑な、もっとよい香りがします。どうやら姉の香りは数種類の化粧を組み合わせた結果出来上がるもののようです。

 ロクロウ少年はアイシャドウを使ってみる決心をしました。ケースの中は4つの枡形に仕切られており、それぞれに薔薇の花のようなピンク、それよりも少し肌色に近いもの、グレーがかったもの、銀色に近いものとそれぞれ色味が違います。

 ロクロウは小さな筆にローズピンクの粉をたっぷりとまぶすと、自分の右瞼に塗りつけました。

「わぁ」

 ロクロウは思わずため息をつき、鏡が息で白く曇るほどでした。


 あっー フタバちゃんー


 鏡の中には汗臭いヒキガエルではなく、可愛いフタバちゃんがいました。

 ロクロウは自分でも抑えきれない胸の高鳴りに、ハァハァと息を弾ませながら左の瞼にもピンクの魔法をかけました。


「可愛いっ!」


 思わず声に出して言ってしまったほどでした。

 ロクロウ少年の目は父親譲りの一重瞼で、しかも熱でとろけたゴムのようにだらりと垂れ下がり、まるで少し日の経った夏みかんに細い切れ目を入れたよう見えりのです。

 思春期にさしかかろうとする時期のロクロウは自分の容姿が醜いこと、同年代の少女たちが綺麗な目鼻立ちの少年たちに夢中であることに気づき始めていたのです。

 もう、身体が大きく力がつよいだけではクラスの中心にも、女子の人気者にもなれないのです。

 単なる大きさから美しさへ。腕力から知力へ。暴力から智略へ。思春期を境に訪れる様々なゲームチェンジ。場面転換。

 ロクロウは自分が主役の時代が過ぎ去ろうとしていることに本能的に気づいており、密かな恐れを感じながら同時に自分にはない華麗さ、可憐さ、スマートさ、洒落っ気といったものに飢餓感にも似た憧れを抱いていたのです。

 そしてその象徴こそが姉であり、セーラー服であったのです。

 ロクロウ少年、いやフタバちゃんは姉のセーラー服と化粧品という魔法のアイテムを手に入れたのです。このアイテムを使えば汗臭い、手足の短か太い、むくれた肉まんのような顔のロクロウが可愛い魔法少女「フタバちゃん」に変身することができるのです。


 ピロリンロンピロリンロン


 アラームが鳴ります。魔法の解ける時間です。魔法を使えるのは一日にほんの僅かな時間だけ。

 ロクロウは小学5年生にできる限りの克己心を発揮してセーラー服と姉の下着を脱ぎ、柔道着に着替えました。

 化粧を落とすために顔を洗ったのですが、ロクロウは化粧を落とすのがこんなにも大変だとは知らなかったので、長い時間をかけて石鹸で何度も何度も目元を擦らなければなりませんでした。

 変身を解いたロクロウ少年は、鏡に向かってまだブラジャー痕の残る胸元の肉を軽く揉んでみながら、

「じゃあねフタバ、また明日」

 とウインクするのでした。

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