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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
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フミヨの御伽噺5 破滅の時

 そんなある日のこと。ロクロウ少年はいつものように姉のセーラー服と下着と化粧品を使って魔法少女に変身しておりました。

 化粧テクニックも上達し、鏡に映るフタバちゃんはロクロウ本人ですら胸がキュンッとなってしまうほどです。

 ロクロウは何の気兼ねもなく夢の世界に没入できるよう、スマートフォンにアラームを設定してからフタバちゃんに変身します。

 下着がロクロウの筋肉と脂肪のたっぷり乗った胸や尻を締め付けます。「可愛い」の塊のようなセーラー服がそれを覆います。覆うといっても、小さなスカートからはロクロウの毛むくじゃらの足やパンティがほとんどはみ出していてほとんど隠されてはいないのですが、スカートからはみ出していることこそが「可愛い」の魔法なのです。

 ロクロウはいつものように胸を揉んでみたり、セーラー服をたくし上げてみたり、象の顔みたいな尻を突き出してみたり、スカートをまくり上げてみたり、口をすぼめてキス顔を作ったりと、鏡の前で夢中になって楽しみました。

 その時です。ロクロウ少年は悪魔に心臓を鷲掴みにされたように立ちすくみました。鏡の中、魔法少女フタバのすぐ後ろに人影があったのです。

「あっ!」

 ロクロウ少年は思わず声を上げました。姉です。部活でいつも遅いはずの姉が、その大きな二重の形良い瞳でジッとロクロウを見つめていたのです。

 姉は特に表情を変えず、ただその大きな瞳でロクロウの身体を見つめていましたが、ロクロウの目を見ると(ロクロウは耐えきれずに目を逸らしました)、まるで背中にゴミが付いてるよとでも言うように素っ気なく、

「早く柔道行ったら?」

 と言って部屋を出ていきました。

 ロクロウは無我夢中でセーラー服と下着を脱ぎ捨てると、柔道着を身に着け家を飛び出しました。

 ロクロウの頭の中で先程の姉の表情がグルグルと回りました。

 耳まで裂けるような笑みを浮かべながら、母に事の顛末を話す姉。オエッーとえづきながら顔を歪める母。そして帰宅する父。父は母と姉からロクロウの行為を聞き激怒します。

 あぁ、自分は家族から変態認定され、食事も別にされ、一生許してもらえず、冷たい視線を浴びながら暮らしていかねばならないのです。

 道場に着き稽古を始めても、ロクロウ少年は柔道どころではなく完全に上の空です。不思議なものでそういう状況にもかかわらず、柔道の技は抜群に切れています。

 ロクロウは生まれて初めて自殺を考えました。稽古が終わり、交通量の多い国道沿の歩道をノロノロと自転車を漕ぎながら、今この車列に自転車ごと突っこめばこの苦悩から逃れられるのです。

 それでもロクロウの足は自宅へと向かいます。結局死ぬだけの勇気も、家以外に帰る場所もロクロウには無いのです。

 ロクロウは学校でかくし芸大会をするのでその練習という言い訳を捻り出し、一時間余りも逡巡した挙句、家の玄関をくぐりました。

「おかえり」

 母の声がします。ロクロウは口先だけでボソボソと「ただいま」を言うと、自室へ行って道着を着替えました。

 隣の姉の部屋から明かりが漏れています。どうやら姉は部屋にいるようです。ロクロウは姉の部屋のドアを開け、昼間の行為を土下座して謝ろうかと悩みましたが勇気は出てきませんでした。

 ロクロウは断罪の時を待つ罪人のように、自分が指弾される時を今か今かと待ちましたが、母は何も言いません。

 夕食の時も、母と姉は何も言いませんでした。当然といえば当然でしょうが姉は全くロクロウと目を合わせようとしません。

 結局、ロクロウは怯えながら時を過ごしたものの、その夜、破滅の時がやってくることはありませんでした。

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