フミヨの御伽噺・青い洗濯籠
「アケチ君」
フミヨの口調が変わり、アケチ君呼びになる。
「先日はご苦労さま。アケチ君があたし以外の依頼もこなすようになるなんて感慨深いー というか、少し淋しいわ。いつまでもあたしだけのアケチ君でいて欲しいのに」
アケチは苦笑しながらフミヨの脇のあたりをくすぐる。
「ナミコシ警部が褒めていたわ。あなたと助手のヒロさんの活躍ぶり。余人をもって代えがたい二人だって」
「二人かー 僕だけじゃないんだ」
フミヨはうふふと笑ってアケチの耳を噛む。
「他人の才能や成功に嫉妬するのは見苦しいわよ。ヒロさんもいい働きをした。それだけよ」
フミヨは枕を高くして頭を上げる。
「聞きたいでしょう?事件の顛末」
「もちろん。それが楽しみでやってるんだし」
「あたしは事件資料を読み、ナミコシさんからある程度の話を聞いてるけど全部知ってるのはナミコシさんだけ。全てを知りたければナミコシさんに繋いであげるけど?」
アケチは鼻で笑って頭を振った。
「フミヨさんから聞きたい。最高の御伽噺だ」
「そう?光栄だわ。夜伽のお相手にご指名いただいて」
フミヨはミネラルウォーターで喉を湿らせると静かに語り始めた。
昔々、といってもそれほど大昔ではありません。あるところにフタバ・ロクロウという男の子がおりました。
ロクロウは身体も大きく、活発で、明るい性格の男の子でした。
快活で面倒見も良く、周りからもリーダー的存在として認められており、小学生の頃からクラスの中心として、クラスメイトたちから一目置かれる存在でした。
家は大金持ちとは言えないものの、信用金庫に勤める父親と歯科技工士の母のお陰で三つ違いの姉共々金銭的な苦労をすることなく育ててもらいました。
さて、この頃のロクロウ少年は父の影響もあり柔道教室に通っていました。彼の父は柔道経験者で、学生時代には府大会の重量級で優勝するほどの猛者であり、大学にも柔道の力を買われスポーツ推薦で進んだほどです。
その父の血を受け継いだのでしょう。ロクロウ少年はがっしりした骨格をしており、小学校高学年になる頃には、骨太の身体に若く柔らかな筋肉がプリプリと踊る、柔道や相撲のスカウトが涎を垂らしそうな身体に成長していました。
そんな頃です。ロクロウ少年の身に、その人生の道筋を決めてしまう大きな出来事が起こったのです。
ロクロウ少年には三つ違いの姉がおります。母親似の姉は、これが弟と違って雪のように白い肌、ほっそりとした体つきをした美少女であります。
ロクロウ少年はその時小学5年生。中学2年の姉が下着が見えそうなほど短いスカートを履き、同学年の彼氏とともに学校から帰ってくる姿を見ながら、身内から湧き上がってくるむず痒いような、ゾクゾクするような感覚を覚えながら、まだその感情の収めどころも知らず、ただ悶々とする日々でありました。
ある日のことです。ロクロウ少年は学校から帰宅すると自分で玄関の鍵を開け中に入りました。母は歯科医院で仕事をしていますし、姉は部活があるので帰るのはいつも夕飯前です。
ロクロウ少年にとっては誰もいない家に帰るのは日常、慣れたものです。それにどのみちロクロウ少年もオヤツで腹ごしらえをしたら柔道教室に行くことになっていますから。
自分の部屋にランドセルを放り込み、キッチンに置いてある柏餅と半分に割った焼き芋を食べます。柏餅を二口で食べ終え、レンジで温めた焼き芋にたっぷりマーガリンを塗ってかぶりつきます。
麦茶で芋を流し込み、冷蔵庫に入っていた竹輪を齧っていたロクロウ少年は、ふと部屋の片隅に目を留めました。
そこに置いてあるのは洗濯籠。水色のプラスチックでできた、取り込んだ洗濯物で山盛りになった洗濯籠でした。




