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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
48/51

資産運用型ニート

 数日後、アケチはフミヨからメールを受け取った。


 会える?今日5時にいつものところで


 アケチの予定を気にする気配は感じられない。アケチは了解とのみ返信する。

 学校の授業を終えて帰宅する。もうすでにヒロが来ていた。合鍵を手に入れて以来、毎日欠かさずにやって来るのだ。

 キッチンテーブルで宿題をしていたヒロに、

「今日これから出かけるから。鍵、ちゃんと掛けて帰るんだぞ」

 ヒロはテーブルに広げた教科書から顔を上げ、まじまじとアケチを見つめた。

「ふぅん」

 アケチはヒロの様子に若干気圧されながら冷蔵庫を空け、フルーツジュースをコップに注ぐ。

「何だ?」

 ヒロはシャープペンシルの尻で顎の辺りを突っつきながらアケチを見据える。

「ふぅん、つまり今日は彼女さんに会う日なんだね?先生の少しミステリアスな年上の彼女さんに」

 アケチはヒロの視線に耐えきれず目を泳がせる。

「なぜそういう思考になるんだ?友人と飲み会だ」

 ヒロはパタンとノートを閉じる。

「先生、今嘘をついたでしょ?隠してもダメさ、僕には分かるんだ」

 アケチは顔を強張らせる。

「どこだ?どこで判断した?」

 ヒロは意地悪な笑みを浮かべる。

「教えないよ。先生は嘘をつく時分かりやすいサインが出るんだ」

「分かりやすいサイン?何だよそれ」

 ヒロはノートと教科書をリュックに仕舞う。

「つまり今日は晩御飯は外で食べるんだね?僕は夕御飯の支度から解放されて、カップ麺と冷凍の回転焼で夕飯を済ませられるわけだ」

「お、おいー 何だよ、もう」

 オロオロするアケチを余所にヒロは居間に移動しヘッドフォンで音楽を聴き始める。すぐに帰るわけでもないらしい。ヒロはツイと顔を上げるとアケチに言った。

「心配しなくても8時までには帰るさ。行ってらっしゃい、先生」


 3時間後。アケチはフミヨと一緒にホテルのベッドの中にいた。ひとしきり愛を交わした後、二人は気だるく甘い余韻を楽しんでいる。アケチはコーラ、フミヨはミネラルウォーターのボトルを小口に空けている。

 行為後の夢うつつの状態も手伝ってか、アケチは催眠療法を受けた患者のように、今日あったことを洗いざらいフミヨに話してしまっていた。

 フミヨはいつも巧みな誘導尋問のテクニックを弄して、アケチの心のひだの隙間にまで入り込み、洗いざらい心の中身を吐き出させてしまうのだ。もっともその後、アケチはとてもスッキリした爽快な気分になるので、フミヨには優れたメンタルドクターの素質もあると言える。

「ふふふ、ショウゴは女の子にはからきしね。どうりであんな恰好なわけね」

 あんな格好。フミヨと会う時は身なりに気をつけているアケチだが、今日はヒロには友達と飲み会と言ってしまった手前もあり、Tシャツに長袖シャツの重ね着、ダメージジーンズという軽い服装でやってきたのだ。

「その子の写真はないの?」

「無い。撮ってないし」

「あら、残念。次に会うまでに撮っておいて。見ておきたいわ」

「見てどうするの?」

「ちょっと興味があるの。ショウゴの話からするとその子、私たちと同類なのじゃないかしら」

「同類って?」

 アケチは香を愉しむようにフミヨの襟足の香りを嗅ぎながら尋ねる。

「世間の人たちと少し違う思考や価値観を持っていて、生きづらさを感じながらも同時に生きることをゲームとして楽しんでる。身分や職業に縛られず自分の価値観を最優先にして生きる、いわばネオ高等遊民?または資産運用型ニート?仮面型社会不適応者?なんて呼べばいいのかしら」

 アケチはクスリと笑う。

「公務員がよく言うよ」

「世を忍ぶ仮の姿よ。生きるための方便だわ。家族や親戚や友人知己の目を眩ませるためのね。ショウゴが大学生の肩書を手放さないのと同じ。目的は大学に通うことでも、勉強することでもないでしょ?大学生という隠れ蓑が欲しいだけ。違う?」


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