人は見たいものを見る
「そういや七つ道具と言ったな?ナイフ以外には何を持っているんだ?」
アケチはヒロに尋ねる。ヒロは焼きそばを食べながら片眉を上げてアケチを見る。
「パチンコでしょ、釣り糸と釣り針でしょ、虫眼鏡でしょ、それに鏡にLEDライト」
「なんかサバイバルキットみたいだな」
「パチンコというのは?あまり危険なのもを持ち歩くのは感心しませんな」
ヒロは焼きそばを食べながらポシェットからアルミフレームの束を取り出す。組み立て式のパチンコだ。
ナミコシはフレームを組み立て左手で握り込むと、
「ゴムバンドと弾は?」
ヒロはポシェットからゴムチューブを取り出す。
「これ手に入れるの結構大変なんだ。壊したりしないでね」
ナミコシはゴムチューブを引っ張って強さを確かめる。
「弾は?」
ヒロは銀色の粒をナミコシに手渡す。
「ほぉ、パチンコ玉ですか。こりゃ当たりどころによっては大怪我ですな」
ナミコシの言葉にもヒロは動じる気配がない。チラチラとナミコシを見ながら焼きそばを食べ続けている。
ナミコシはそれ以上何も言おうとせずパチンコをヒロに返した。
「キャンプで野鳥を撃つくらいにしておけよ?」
「大正浪漫探偵団に出てくる少年探偵団の団員は小型のピストルまで持ってるよ」
「そりゃ漫画の話だろ」
ナミコシは二人のやり取りを聞きながら焼きそばを片付けている。
「僕だってそんなもので人なんか撃ちたくはないさ。でも結局は頼れるのは自分だけ。自分の身は自分で守るしかないのさ」
ヒロは紅生姜の一つまで綺麗に平らげる。
「ごちそうさま。喉渇いたからお茶買ってくる」
ヒロは空の容器を手に立ち上がると人波に消える。
「ユニークな子ですな、ヒロさんは」
「ユニークね。物は言いようですね」
アケチがバザー客の流れに何となく目をやりながら待っていると、突然通りすがりのバザー客に頭を撫でられた。
「ん!?」
驚いて顔を上げるアケチ。目の前で笑っているのはヒロだった。
「わーい、騙されたね?」
喜ぶヒロは肩周りを濃い紫色のケープで覆っている。顔にはボストンタイプの眼鏡、前髪をカチューシャで押し上げ額を見せている。目元と頬の化粧がいつの間にか濃くなっている。
まんまと騙されたアケチは苦虫を噛み潰したような表情だ。
「人は見たいものだけを見るのさ。脳内で僕の姿が出来上がってしまってるから、突然見た目の印象を変えられると見逃しちゃうんだ」
ナミコシがパチパチと拍手する。
「いやお見事。ヒロさん才能がありますね」
「断っとくが、ちゃんと分かってたんだぞ。お前の変装くらい」
ムッとした顔で意地を張るアケチ。
「ふふ、確かに先生の目を誤魔化すのは難しいさ。でも先生の心に隙があれば別。相手が見ようとしていないものになれば見えないのさ。本気で見ようとしていない時なら騙せるんだ。たとえ先生でもね」
アケチは悔しさに歯噛みしたが、確かにヒロの言う通りだ。ヒロはアケチの視覚を誤魔化したのでなく、アケチの心の隙を突いたのだ。
「警部、いつまで食べてるんですか?さっさと彼女を確保したらどうです」
ナミコシは少し表情を引き締め頷く。
「おっしゃる通りですな。ここであれこれ尋ねるわけにもいかんでしょうから、先生に呼び出してもらうとしましょう。職員室に行ってきますので少しここで見張っていていただけますかな」
ナミコシは腰を上げ校舎の中へ入って行った。
「ねぇ先生、怒ってない?」
「もちろん怒ってる。騙されたことにじゃなく、お前の態度にな」
「ふふ、そんな怒んないでよ。僕、良い助手になると思わない?アケチ探偵事務所の助手にさ」




