七つ道具は不要
アケチは「見つけた」という短いコメントと一緒に、写真をナミコシ警部に送る。数分後にアケチのスマートフォンが震える。
「ここに来るって。後は待ちだな」
「なぁんかあっけないなぁ。もっと大がかりな捜査とか、追いかけっことかあると思ってたのに」
「この学校の中でか?大騒ぎになるじゃないか。それにあの子は参考人だぞ、あくまでも」
アケチは焼きそばのパックを開き、割りばしを割って中身を食べ始める。
「あ~あ、色々準備したのになぁ」
「何を残念がる必要がある?お前が制服と招待状を用意したおかげでスムーズにあの腕の持ち主を見つけられたじゃないか」
ヒロは唐揚げをパクつきながら、制服の裾のあたりから何かを取り出しアケチに差し出す。
「ん?何だ?」
受け取ってみると、小さな、ヒロの手のひらにもすっぽりと収まってしまうサイズのポケットナイフだ。ナイフの刃だけでなくヤスリも付いている。
「おいおい、物騒なものを持ち歩いてるな」
「大丈夫。爪のお手入れ用ってことで。小さいから銃刀法にも引っかからないんだ」
「ホントか、それ?警察はその気になれば何だってできるんだぞ?」
ヒロの唐揚げをモグモグやりながらアケチに向かって微笑む。
「先生は心配性だなぁ。ほら、安心して焼きそば食べなよ。それにさ、探偵の助手たちは七つ道具を持ってるのが常識じゃないか」
アケチは苦笑しながら焼きそばを口に運ぶ。
「七つ道具って、弁慶とか鮟鱇の七つ道具なら知ってるがな」
「先生ってば随分と古いなぁ。『大正浪漫探偵団』読んでないの?大学生は漫画ばっかり読んでるって話じゃない?」
「何だそれ?」
「漫画さ、今人気の。もっとも僕も読んだことないんだ。ねぇ、今度漫画とかが一杯置いてある喫茶店に連れてってよ」
ヒロは既に唐揚げを食べ終わり脂で光る唇を舐めている。視線を感じたアケチは、食べかけの焼きそばに視線を落としながら躊躇うような素振り。その気配を察したヒロがアケチに手を差し出す。
「いらないなら僕が食べるけど?」
アケチは焼きそばの容器と箸をヒロに手渡す。ヒロはニッコリ微笑んで焼きそばをついばみ始めた。
メールを送ってから三十分も経たずにナミコシ警部がやってくる。アケチたちを見つけ軽く手を上げるナミコシ。
「やぁ、早かったですな。こんなにあっさり見つかるなんて思ってませんでしたよ」
言葉を切って、焼きそばのテントを見つめる。
「彼女ですね?送っていただいた写真の子は」
「えぇ」
頷くアケチ。ナミコシは少し言いづらそうに、
「アケチ君、その、間違いありませんかな?彼女で?私にはさっぱり見分けがつかんのですが」
「僕もさ。でも大丈夫。先生があの子だって言うならあの子なんだよ」
ヒロの言葉にナミコシはうんうんと頷き、
「そうですな。アケチ君の能力を見込んで頼んでおきながらー 自分で言うのもなんですが凡才というのはこれだから始末に困りますな」
ナミコシは自分もテント前に並び焼きそばを購入する。
「あの子がねぇ。ごく普通の、真面目そうな子に見えますな。一見するとー ですが」
ナミコシは思わせぶりな言い方をする。
「と、言うと?」
アケチが尋ねる。ナミコシは割りばしを割り、
「ヒロさんはもっと食べられるでしょう?」
とヒロの器に自分の焼きそばを大きく二掴みほど入れてやる。
「ありがとう警部。育ち盛りだから助かるよ」
「おっとヒロさん、ここではただのナミコシでお願いしますよ」
イタズラっぽい目付きでヒロに言い、ナミコシは焼きそばを箸で持ち上げる。
「目に出るのですよ。後ろ暗いこと、隠したいこと、やましいことがある人間。それを押し殺して生きている人間は、それが目に出るのですよ。私ら警官はそういう目を数多く見ています。そういう目を見るとピンとくるのです」
ナミコシは鉄板前の女子高生に視線を据えたまま、焼きそばをすすり込んだ。




