バザーの掘出し物
まだ十時前だが、どのテントもそこそこ客がいる。生徒の親族や知人しか来ないはずだがそこそこ集客があるのは、富裕層が多くチャリティやボランティアに一定の理解があるからだろう。
「あっ、古着屋さん!先生ちょっと見ていい?」
「あぁ」
ヒロは楽しそうに、一つ一つ店を見て回る。アケチと同じで、普段はどこか透明な仮面をつけているヒロだが、今日は警戒心を解きはしゃいでいるようだ。
「ねぇー 先生ー」
ヒロが俯き加減にモジモジしながら言う。五百円均一と書かれたハンガーラックの前だ。お気に入りの一着を見つけたらしい。
「今度返すからさー」
アケチは最後まで言わせなかった。財布から千円札を抜き出してヒロに渡す。
「足りるか?」
「うん!ありがとう!」
ヒロの弾けるような笑顔はアケチを動揺させたが、ヒロはアケチの狼狽に気づかず千円札を握りしめて店員の元へ飛んで行った。
チェック柄のワンピースが入った紙袋を手にご機嫌のヒロとテントを順番に見て回る。
桜の花をかたどったお好み焼き、ホットドッグ、焼きそば、ポテトフライ、唐揚げ、綿菓子、ぶどう飴、クレーブ、アイスクリームシェイク、カットフルーツにフレッシュジュース。
「さすがに全部食べて回るわけにもいかないな」
「えー、案外食べられそうだよ?ここでお昼と三時のおやつを食べればいいじゃないか」
「昼は愛宕屋の鴨せいろが食いたいんだ」
「えっ、そうなの?」
何か言いたげなヒロ。
「鴨せいろでよければ奢ってやるが」
ヒロの顔が笑み崩れる。
「もちろん食べるさ。ありがとう先生」
ヒロは綿菓子を、アケチはクレープを買って食べながら歩く。途中でヒロが交換しようと言うので互いの食べ物を取り替える。アケチは綿菓子を齧るのが若干恥ずかしかったが、仕方なく口にしてみると案外と美味い。懐かしい甘さだ。
アケチは揃いのエプロンやTシャツ姿で立ち働く生徒たちを観察するが、写真に写った「腕」の持ち主はなかなか見つからない。
「当番制だろうしさ。時間をおいて何度か見てみないとダメじゃないかな」
歩き回って若干小腹のすいた二人は何か腹に入れることにした。食べ物のテントを眺めながらヒロが、
「うーん、唐揚げかな。口がテカテカになっちゃうけど」
「化粧を直す場所なんてないぞ?」
「うん、やっぱ育ち盛りだから身体がタンパク質を欲しがるんだよ」
唐揚げのテントに向かおうとした二人。ふとアケチの足が止まる。
「俺は焼きそばにする」
そう言うと焼きそばのテントに近づくアケチ。
「一つ下さい」
バンダナにTシャツ姿の生徒に注文する。
「偉いね先生。ちゃんと自分で注文できたじゃない」
「うるさい」
横合いから茶々を入れるヒロを横目に、アケチは焼きそばを焼いている一人の生徒に注目する。
「お待たせしました」
透明なプラスチック容器に入った焼きそばがアケチに手渡される。アケチはテント前に置かれたベンチに腰掛ける。
「僕も唐揚げ買ってくる」
ヒロは二つ先のテントに走っていく。しばらくして紙コップに山盛りになった唐揚げを持って帰ってくるとアケチの横に座る。
「先生、見つけたの?」
小声で尋ねるヒロ。アケチはボソリと、
「あぁー たぶんな」
ヒロは大きな唐揚げをガブリとやる。
「どの子?」
「鉄板前の子だ。小手を持ってキャベツを炒めてる」
ヒロはもう一口唐揚げをガブリ。サクサクと衣の砕ける音がする。
「左手に赤いゴムバンドしてる子?」
「そうだ」
ヒロは唐揚げを食べるスピードを落とさない。
「ふぅんー 僕には分かんないなぁー どこらへんで分かるの?」
「どこらへんて、あの写真のまんまじゃないか。あの子だ」
「写真、撮ろうか?」
「頼む。顔と右腕が写るようにな」
「スマホ貸して。僕持ってないんだ」
アケチはヒロにスマホ端末を渡すと、客の邪魔にならないようベンチから立ち上がり、焼きそば屋台の前に立つ。
ヒロはアケチを撮るふりをしながら、すぐ後ろにいる「腕」の持ち主の方にピントを合わせてシャッターを押した。




